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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
花舞 (はなまい)

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169 花舞ノ章 七十二

「ともかく、早く皆の所へ返してくれませんかっ!!」

蓮華はどこかの山奥、小さな小屋の中に閉じ込められていた。

「す、すみません・・・・。わたしも、大恩あるあなた方にこんなこと、したくなかったのですが・・・」

元康は両手を床について頭を下げた。




昨夜、城総院で襲撃を受けた際、蓮華は戦御体に警戒して建物の外にある紫雲へ走った。

そこへ、ここにいる貝元康が現れたのだ。

「あ、あなたは!?」

「こっちへ来てください!!大変です!!」

「大変って、何!?」

「ともかく、早くっ!!」

貝元康は森の中へ走り出した。

「待って、あなたたち京へ帰ったのではないのですか!?」

元康を追って森の中へ入った。

「殿が、殿が大変なのですっ!!」

「でも、わたしも仲間と離れるわけには・・・・」

そう言いかけた時だった。

どこからともなく甘い、香のかおりがしてきた。

「・・・・何、これ!?」

蓮華があたりを見渡すと、暗い森の中、人影がぼんやりと見えた。

「・・・・・ちょっと、待って!ここに誰かいる!」

元康が不意に力を失ったように倒れる。

すれ違いに、うっすらと見えた人影はこちらへ近づいてくる。

「何?誰ですか?」

紫雲は背負った薙刀に手をかける。

辺りの景色が何重にも見えてきて、頭がふわふわと軽くなってきた。

視点を合わせようと目を凝らす。口元を袖で抑える。

「・・・・・ちょっと、なによ、これ・・・・・?」

遠のいていく意識を必死でつなぎとめる。

近づいてきた人影が、ぼんやりと形を見せた。

どこかで・・・・・見た・・・・・・。

盲目で薄汚れた物乞いの法師・・・・。



「あの法師さんは何者ですか?惟正様はどうしたのですか?」

蓮華は縛られたりはしていないが、小屋の戸の外からは閂(かんぬき)が掛けられている。

小屋の中には元康と蓮華だけ。

ということは、外に閂をかけた誰かがいる。

「・・・・殿は・・・・鬼に魂を売ったとかで・・・・」

「何を言っているの!?そうじゃなくてっ!!」

「いえ、わたしにもそれしか・・・・・」

「瑞奈様が滅創衆に襲われたんですっ!早く助けに行かないと!!」

「そ、それは・・・・・・あの、わたしも閉じ込められているので・・・・・」

「え!?」

「蓮華様と同じく、わたしもここに閉じ込められているのです」

「ちょっと、それはどういう?」

「昨夜、わたしと殿は湯井郷浜(ゆいごうはま)の近くの森の中で野宿していたのです。すると、あの法師が現れて、殿に何か呪術を施したのです。すると、殿が・・・・わたしに向かって斬りかかってきて・・・・慌てて逃げたところに、あなたが戦御体に乗り込むところが見えて、思わず助けを・・・・」

「では、あの法師は何者なのです?」

元康が嘘をついているようには見えない。

ずっと両手と両膝を床についたまま頭を下げている。

「ごめんなさい、あなたを巻き込むようなことになって・・・・」

「では、外にいるのは・・・・・・」

「たぶん、わが殿です。わたしたちが逃げないように見張っています」

「ともかく、こんな小屋などすぐに壊せます。逃げましょう」

「や、やめてください!わたしたちが逃げ出せば、殿がどんな目にあわされるか・・・・」

「ですが、このままでは・・・・・」

「殿はあいつに操られているのです!お助け下さいっ!!」

「そんなことを言われても・・・・・」

「あいつがわたしたちを殺すつもりなら、もう殺しているはずです!ですが、生かしているということは何かに利用しようとしているはず!」

「・・・・それって!ここでわたしを利用する理由など、瑞奈様をおびき寄せるためしか考えられないじゃない!そんなの駄目!」

「ここはひとつ、冷静になって、皆が助かる方法を考えましょう!お願いします!」

元康は再び額を床に着けた。

「・・・・・・・」

蓮華も、それ以上言えなくなってしまった。




「まず、ここはどこですか?」

「わかりません。ですが、殿の戦御体であなたの戦御体を抱えて、だいぶ遠くまで来ました」

「殿の戦御体?」

「はい。誰か知らない人にもらったとか・・・・」

「そんなもの、くれるって・・・・。どう考えても怪しいじゃないですか」

「わたしもそう言ったのですが・・・・。ほかに、弓矢とか竹筒の毒とかもらったと言っていました」

「くれる人も貰う人も怪しさしかないですね」

顔を顰(しか)める蓮華。

「ですが、殿は弓の扱いは信じられないほど下手糞で・・・・」

「それはどうでもよいです。どうやって、惟正様の目を覚ましてここから逃げるかを考えましょう」

「思い切りぶん殴るのはどうでしょう?」

「あなた、家臣の割にそういうこと平気で言いますよね?」

「はい。殿のためならいくらでも!」

ちょっとうれしそうに微笑む。

「わたしはともかく紫雲を取り返さないと」

「おそらくですが、この近くにあるはずです。殿がわたしたちをここに閉じ込めて、どこかへ行った気配はなかったので」

「では・・・・・・」

蓮華と元康は互いを見る。


「・・・・結局、力技しかないですね!」

「はい、殿のために殴りましょう!」





「・・・・・わし、こんなとこで何をしとるんじゃっけ?」

惟正は気が付くと、森の中に立っていた。

後ろに小屋、少し離れたところ、木が立つ中に戦御体が二体、並んで立っている。

「あれは・・・・あの娘が乗っておった戦御体ではないか?なぜ、こんなところに?」

首をひねり、顎に手を当てて思い出そうとする。

「うーむ、何も思い出せん」

眉間にしわを寄せる。

「それにしても、元康はどこへ行ったのじゃ?」


惟正は後ろの小屋を振り返る。

その瞬間。


ばきいっ!!!


盛大な音がして、小屋の扉が内側から破られた。

「ひいっ!?」

驚く惟正。

そこへ、蓮華と元康が飛び出してくる。


「殿、お覚悟っ!!」


「元康っ!?」



ごんっ!!!



元康の振り下ろした太い木の枝が、惟正の頭を直撃した。


「あうっ!?」


惟正は白目を剥いて倒れる。


「うまくいきましたね!」

満足そうな元康。

「でも、気を失う直前、あなたの名前を呼んでいましたが・・・・」

「気にしません!すっきりしましたから!!」

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