154 花舞ノ章 五十七
まわりを取り囲んだ山賊たち、ざっと三十人と言ったところか。
その後ろから、ひときわ体の大きい男がずい、と前に出てくる。
いかにも山賊、と言った風貌。伸び放題の髪と髭。獣の皮を装束の上に羽織っていて、腰には刀を差している。
「ふふふ、やっと捕まえたぜ、行尊!」
「やあ、佐門!久しぶりだね!」
あくまでも軽く挨拶する行尊。
「ふざけるな!おまえに名を呼ばれる筋合いはない!」
一気に顔が紅潮する。
「怒らないでほしいなぁ。せっかくこうして再会したのに!」
「てめぇ、今朝までおれたちの隠れ家にいたくせに!!何が久しぶりだっ!」
「・・・・あの、ちょっといいですか?」
瑞奈が手を挙げながら佐門と行尊の間に入る。
「なんだ、てめぇは!?」
「わたしの嫁です」
「違います。この腐れ坊主、あなたたち山賊の仲間ですか?」
「ふん!こんな奴、仲間じゃねぇ!!」
「では、どういうご関係で?」
「山をうろうろしていたから捕らえて、隠れ家の柱に繋いでおいたんだ!そしたらこいつ、隠れ家の柱ごとへし折って、おれたちの糧を全部喰って逃げやがった!」
「・・・・・あなた、泥棒から泥棒したのですか?」
「えへへ!お腹、空いちゃって」
・・・・・イラッ!!
「わたしたち、この腐れ坊主と何の関係もないんです。なので、こいつは好きにしてください」
「そんなぁ、瑞奈殿ぉ!!」
行尊が手を合わせて体をフリフリする。
・・・・・イライラッ!!
「山賊に渡す前に、わたしがこいつの性根を叩き直してやろうかしらっ!!」
「あ、あはは・・・・。すみません、調子乗りましたっ!!」
「おっと、そっちのおめぇらも、黙って行かせるわけにゃいかねえぞ!」
山賊たちが迫ってくる。
「見れば、大きな荷を引いてるじゃねえか。それをこっちに渡しな!命までとりゃしねえ!」
そう言って、蓮華と瑞奈の方を下卑た目で見る。
「女はいただくけどな!!」
そう言いながら、腰の刀を抜く。それを合図に、まわりの山賊たちも一斉に得物を構える。
「わしがやろうか?」
天狗が言うと、蓮華も紫雲へ乗り込もうと動く。
「いえ!ここは、わたしと狐白丸にやらせてください!どうにも鬱憤が晴れませんので!」
天狗と蓮華は顔を見合わせる。
「まあ、瑞奈様がそう言うなら・・・・」
「狐白丸!」
瑞奈は馬の背で丸くなっていた狐白丸を呼び寄せる。
べきっ!
ばしっ!
ぼきっ!!
あっという間だった。
瑞奈は大きくなった狐白丸に跨り、縦横無尽に駆け回る。その姿に恐れ戦いて逃げ出す者、逃げ遅れて踏みつけられる者、唖然としている間に瑞奈に杖で殴られる者。
「さあ、あとはあなただけですよ!!」
佐門に杖の先をびっ!と向ける。
「何か、瑞奈様、いつもより気合が違いますね」
「うむ。相当苛立っておるな」
蓮華と天狗がこそこそと言う。
「くそっ!覚えていろ!このまま無事に峠を越えられると思うなよっ!!」
捨て台詞を残して山賊たちは逃げ出した。
「おー!!」
ぱちぱち!
手を叩いて喜ぶ行尊。
「”おー!!”じゃないでしょっ!」
ごん!
瑞奈の杖は行尊の頭にこぶを作った。
*
「しかし、まさに荼枳尼天がごとし!こんなことがあるのですねぇ!」
小さくなって瑞奈の腕に抱かれている狐白丸を、しげしげと眺める行尊。
「あの怪我がこんなに早く治るとは、まさに神獣。神の使いじゃな」
天狗が言うと、行尊は狐白丸を指さす。
「このちっこい狐、どこで拾ったのです?」
かぷっ!!
・・・・・・・・。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?痛いっ!!」
「ふーっ!!」
「こら、狐白丸!変なものばっかり食べちゃいけません!」
瑞奈は行尊の指から狐白丸を引きはがす。
「い、痛い・・・・・」
「やっぱり、狐白丸に噛まれると相当痛いのじゃな」
背筋が凍る天狗。
「あはは・・・・」
苦笑いの蓮華。
「ともかく、わたしたちはこれ以上あなたに関わり合いたくないですので、失礼します!」
「あ、瑞奈殿、お待ちを!」
行尊が瑞奈の背に声をかける。
「待ちません!!」
「ですが・・・・・今から峠の下り坂は相当危険だと思うのです」
ふとまわりを見ると、すでに空が赤くなっている。
まわりに旅人の姿もない。
「秋の陽は釣瓶落としが如く。すぐに真っ暗になってしまいますよー」
にっこりと笑顔になる行尊。
・・・・・イライライラッ!!!
*
「仕方あるまい。夜の峠歩きは危険じゃ。さっきの山賊がいつ出てくるとも限らん」
天狗が言うと、さらにイライラが募る。
「いやぁ、森の中で迷っていたら、佐門たち山賊に掴まっちゃいましてね!首に鎖をつけられたのですが、なんかカチャカチャしていたら外れたので。ついでに腹が減ってはいけないと、たまたま見つけた魚や芋を食べていたら見つかっちゃいましてぇ。ははは!」
笑顔のままの行尊。
・・・・山賊は柱ごとへし折ったと言っていたけど?
「ははは、じゃないでしょ!」
「いやあ、うれしいくって!こんなに心強い方たちとご一緒できるなんて!」
街道の道端で火を焚く。それを取り囲むように、四人が座っている。
いつものように蓮華が野菜汁を作って振舞う。
「ああ、うまい!!蓮華殿、いい女房になりますな!」
行尊の軽口が止まらない。
そのたびに瑞奈の顔が引きつるのを感じる。
「それで、行尊はこの後どうするのじゃ?」
「ああ、夜泣き石が何とかなれば、東国へ行こうと思うておりますよ。なんでも、伊豆の霞家が大きな町をこさえたとかで。そこへ行ってみようと思うとります」
・・・・なんか、いやな展開。
「あ、そうなんですか!じゃあ、わ・・・・もぐっ!?もごもごっ!?」
咄嗟に蓮華の口をふさぐ瑞奈。
「・・・・やめてくださいね、蓮華殿」
こくっ!こくっ!
血走る本気の目に、無言で頷く蓮華。
「さて、今宵は泣いてくれますかねぇ?夜泣き石は・・・・」
行尊の言葉に、一同があの石を見つめる。
月明かりに照らされて、石は下界を見下ろすように佇んでいた。
・・・・ほらやっぱり、巻き込まれたじゃないっ!
「あの、狐を捕らえろ。怖いのはあの狐だ・・・・」
「はい、お頭・・・・・」
暗闇の中、ぞろぞろと森の中を近づいてくる影があった。




