149 花舞ノ章 五十二
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
翌朝、一同は瑞奈の悲鳴で朝を迎えた。
「ど、どうしたのです、瑞奈様!?」
隣で寝ていた蓮華が驚いて飛び起きる。
「ああ、わたし・・・・」
「・・・・はい?」
「あんな訳の分からない奴に色目を・・・・そして、頭痛い・・・・気持ち悪い・・・・・うぷっ!?」
「覚えてらっしゃいましたか?かなり酔っておられましたが・・・・・・もう、お酒はやめましょうね」
「うっ、うぷっ!?は、恥ずかしい・・・・死にそう・・・・・気持ち悪い・・・・・頭痛い・・・・」
「ええと、どれかに絞ってもらっていいですか?」
蓮華の顔を見つめて、瑞奈が小声で言った。
「・・・・・お腹空いた」
瑞奈は膳に運ばれてくる魚や芋などの朝餉を目の前に、真っ青な顔だった。
「う、うぷっ・・・・気持ち悪い・・・・でも、食べたい・・・・」
「・・・・・・さすが国府となると、朝餉も豪勢じゃのう」
天狗が言うと、幸臣が首を振る。
「いやいや、普段はこのようなものは食べません。菜の葉二・三枚で終わりです」
「では、わたしたちのために?」
蓮華も顔をほころばせて、運ばれてくる汁物に目を輝かせている。
「はい。あなたたちのおかげで、幻丈探しが早く終わりましたので。お礼とお詫びも兼ねて」
「・・・・・・ですが」
瑞奈が幸臣を眺めて言う。
「・・・・なぜ、あなたがここに?」
「ええと、わたしの住まいですので」
幸臣も複雑な顔で答える。
「あなたは誰?」
「あの・・・・上原幸臣・・・・遠江の国司ですが」
「そもそも、ここはどこ?」
「なので、わたしの屋敷です・・・・」
「・・・・なぜ、わたしはここに?」
「ええと・・・・どこからお話すれば・・・・」
「食べたい・・・・気持ち悪い・・・・・・頭痛い・・・・」
「・・・・・・・・・」
困惑している幸臣。
「あの蓮華様の記憶の混乱は、狐白丸のせいじゃないよね?」
蓮華がそばで丸くなっている狐白丸を見る。
「くわぁ・・・・」
狐白丸は大きな欠伸をひとつした。
「しかし、たった一口で二日酔いとはのう」
瑞奈が体調を取り戻したのは昼を過ぎた頃だった。
「まったく、すみません・・・・」
「何をしたのか、覚えておらんのじゃろ?」
「はい・・・・うっすらとしか・・・・」
「あんなおかしなやつに色目を使うとは、何かあったらどうする気じゃ」
「はい・・・・面目ないです・・・・・」
珍しく、天狗に叱られている瑞奈を見て、狐白丸と蓮華は顔を見合わせる。
「はは、まあまあ、でも、これからお酒は控えましょうね」
「はい・・・・すみませんでした・・・・・・」
「こんなに小さくなっている瑞奈様、初めて見ました」
蓮華は嬉しそうに微笑む。
「・・・・・いじめないで下さい・・・・・・・。もう、思い出すと恥ずかしくて死にそうですぅ」
目に涙をためて蓮華に抱き着いてくる瑞奈。
・・・・・・ああ、瑞奈様、なんてかわいい!
「よしよし」
「うっ、うっ・・・・」
「おい、能見!おるのじゃろう!?」
工藤為乗が草叢に向かって話しかける。
国府の建物の裏側。あたりに人気はない。
「・・・・何か?」
草叢から返事が返るが、姿は見えない。
「どういうことだ!?あの国司、吉賀で果てるのではなかったか!?」
「工藤殿、声を落とされよ」
「落ち着いておられるか!死んでいるはずの男が返ってきたのだぞ!?幻丈がしくじったのか!?」
「・・・・・幻丈は蟲毒に喰われて死にました」
「・・・・・・なんだと!?」
「斎尾様からの言伝です。”皆、殺せ”とのこと」
「皆殺しだと!?なら最初からそうすればよかったではないかっ!」
「斎尾様は様子を窺っておいででした。破主様や伶守様のお考えはわたしにはわかりかねるので。申上げられるのはそれだけです」
「・・・・くそっ!」
「北の森に朱獄を一体、置いて行きます。あとはよしなに」
「一体?それだけか!?」
為乗の言葉に返事はなかった。
「・・・・斎尾めっ!どういうつもりだぁっ!?」
「国司殿は滅創衆についてご存じか?」
天狗が幸臣に尋ねる。
「滅創衆ですか。そういえば、蓮華殿、吉賀でわたしのことを滅創衆と呼んでおられましたが・・・・」
「わたしたちも、滅創衆という名前しか知りません。でも、襲ってくる悪い奴らです。あなたもその一味でしょう?」
「い、いえ、違います!わたしはただの宗近殿の小間使いで」
謙遜のつもりだろうが、この男の小物感は確かにひしひしと感じる。
「あの、あまり大きな声では言えないのですが、滅創衆とはある思想を持った人たちのようで・・・」
「ある思想?」
瑞奈が聞き返す。
「はい。この世にあるものを新しく作り変える。そのために、今あるものを壊さねばならないとか」
幸臣は少し声をひそめる。
「でも、彼らも一枚岩ではないようで、滅創衆同士でも争いは絶えないようです」
「ふむ。他に、何か詳しくご存じのことがあれば教えていただきたのじゃが。例えば、どこにいるとか、名は何とか・・・・」
「・・・・すみません。わたしも、詳しくはわからないのです。ですが、今の伊豆霞家・・・・というか関ノ府があるのも、滅創衆の力添えが大きいそうで。そもそも、伊豆の霞家に戦御体をもたらしたのが滅創衆だとか」
そう言いながら、部屋の中を飛ぶ小さな虫が気になるようで、ずっと目の端で追っている。たまに刀の柄に手をかける。・・・・正気か?
「あ、でも、わたしもこれ以上は知らないですよ。滅創衆のことは、汐永殿なら知っているかもしれないです。直接宗近殿には聞けないでしょうから、関ノ府へ行かれるのでしたら、汐永義陽殿をお尋ねになるとよいでしょう。よろしければ文を書きましょうか?」
着物の埃を払いながら、幸臣は言った。




