145 花舞ノ章 四十八
「んっ!?んーっ!」
「やっと、目を覚ましましたね!」
蓮華は男の前に立ちはだかる。
男は上質な紺染めの装束を着ていて、いつもの滅創衆の印象とは違う。
「ですが、あなたが滅創衆だということはわかっています!さあ、正体を現しなさい!」
ビシッと男を指さす。
「ふがっ、ふがぁ!!」
口の中に布を詰めて猿轡をかましているので、男は口がきけない。
「さあ、何であんなことをしたのか、村を滅茶苦茶にしたのか、洗いざらい話しなさい!」
「ふごっ!ふごぉっ!」
「そんな意味不明な鳴き声でごまかそうとしたって無駄ですよ!わたしはあなたを許しませんからね!」
「ぐふおっ!ぐほっ!」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさい!!」
「ぐふおーーーっ!!」
「何言ってるかわからないって言ってるでしょーーがっ!!」
そこへ、弥作とお紺が近づいてきた。
「蓮華、口を縛っているから喋れないのよ。それがあると何を聞いても無駄だと思うよ」
お紺が言うと、男がうんうん、と首を縦に振る。
「でもね、お紺。滅創衆は口の中に毒を仕込んでいて、なんか嫌なことがあるとすぐに死んじゃうの!」
「・・・・かげろうじゃないんだから」
「だから、これをほどくと、この男もすぐ死んじゃうから」
「・・・・・・」
お紺が見下ろすと、男は首をぶんぶんと横に振る。
「本当にそのなんとかしゅーってやつなの?この人?」
「・・・・・・いつものとは感じが違うけど・・・・。でも、あんなことするのは滅創衆以外に考えられないわ!」
お紺はしばらく腕を組んで考えた後、男の猿轡をほどいた。
「あ、駄目よ!お紺!」
「でも、このままじゃ何にもわからないわ!」
「ぐへっ!!」
男はようやく口の中に詰められていた布を吐き出す。
「や、やっと・・・・ぐほっ!?」
男が話そうとした時、蓮華が男の口を両手でこじ開ける。
「あっ、あぐっ!?」
「何にも口の中に隠していないですよね!?」
「あっ、あがががががっ!?」
「お、おれは滅創衆ではない!我は上原幸臣と申す者。決して怪しいものではありません!」
「じゅうぶん怪しいことをしておいて、何を偉そうに!」
蓮華が幸臣とじとっとにらむ。
「そ、それは理由があるのだ。おれはそもそもここへ戦いに来たのではない!とある方から、とある法師を探すように仰せつかったのだ」
「とある、とある、ばっかりでわけわかりません!」
「この村の家を壊したのは悪かった!だが、この村に住む人はいないと聞いていたのだ!」
「だからって、いきなり壊してよいものではありません!」
「おれも驚いたのだよ、娘さん!家の屋根を持ち上げたら人が逃げて行ったので!それでどうして良いかわからず・・・・全部壊しちゃおうかなって・・・・てへへ!」
「どういう理屈ですかっ!!」
「はいっ!すみませんっ!!いたたたたっ!」
蓮華が男の頬をつねる。つねると言うか、引っ張りまわす。
「ですがな、どこのどなたがこの村を壊すように言われたのか、それだけはお教え願いたい。この村はわしらの村じゃ。変な誤解は解いておかなければ、また同じようなことが起きてはかなわぬ」
弥作がいうと、男は腫れた頬を気にしながら頷いた。
「・・・・関ノ府の霞宗近殿だ。ここに、緋家と共謀して小御体を作ろうとした法師が逃げ込んだと聞いたのだ」
驚く蓮華。
「霞・・・・宗近・・・・・?」
蓮華の表情が固まる。
「宗近様!?白結丸様の・・・・兄様?」
礫島は天狗たちの放った火によって、島ごと炎上した。
「これで毒虫がすべて片付いてくれるとよいのじゃが」
舟で島を出る。太吉が船を進める。
辺りは陽が傾いてきたので赤く染まっている。島全体が炭になるまで、数日は燃え続けるだろう。
炎を見つめる瑞奈の膝の上で、狐白丸が丸くなっている。
「天狗殿・・・・」
「なんじゃ?」
「あの化け物の顔、その法師の顔だったのでしょうか?」
「・・・・深く考えるな。闇に心を奪われた者の末路は、いつもあんなものじゃ」
「・・・・・・」
瑞奈は狐白丸の尾を優しくなでた。
「おや、美しい娘さん。我が名は上原幸臣と申します。以後、お見知りおきを」
瑞奈たちが村へ帰ってくると、知らない男がひとりで家を建て直していた。
顔立ちは整っているが、頬の片方がやたら腫れている。
「・・・・誰です、この人?」
蓮華に尋ねると、しばらく考えて、「悪人です!」と答えた。
「そうか、そんなことが」
天狗と瑞奈が蓮華から話を聞いた。
「そちらも大変だったのですね。毒虫って、考えただけでも・・・・」
蓮華が自分の肩をさする。
「お、おれも頑張ったんだぞ!本当だぞ!なあ、狐の姉ちゃんと天狗!」
太吉が蓮華にいいところを見せたいようだ。
「そうね、太吉は強かったよ。化け物を見ても泣いたり逃げ出したりしなかったからね」
瑞奈が言うと、誇らしげに胸を張る。
「だろっ!」
蓮華は微笑むと、太吉の頭を撫でようとして、その手をすぐに引っ込める。
少し離れたところから、痛いほどに刺さる視線を感じたのだ。
「なあ、蓮華!おれ、強いんだぞ!蓮華にも見て欲しかったぞ!」
太吉が蓮華を見上げる。
「頑張ったんだねー!!はははー!!」
「・・・・なんだよ、どうかしたのか?」
「な、なんでも・・・・ないよ!」
「で、宗近殿の家臣が何故このようなところに?」
天狗が幸臣に尋ねる。
「わたしはただ、ここに幻丈と言う法師を探しに来ました。おそらく、貴殿らが島で見たという男でしょう。この男は御体作りと医術、幻術に精通していましてな。小御体を作ろうとした男で、その失敗で緋家から追い出された法師です。その法師が何かを企てていると我が大殿が聞き及び、わたしが独りでここまで参った次第で・・・・」
「で、いきなり村を壊したと?」
蓮華が口を挟む。
「・・・・面目ない。おれも、そんな訳のわからん相手にひとりで・・・・怖かったので・・・・」
なんとも情けない顔をする。
「・・・・小御体を作ろうとした男か・・・・・」
「天狗殿、何か心当たりが?」
瑞奈が聞く。
「うむ、噂程度じゃが・・・・・」
「そもそも、その小御体って何なのです?」
「小御体とは、人の霊力を使って動く戦御体とは違い、人そのものを御体にしたものじゃ」
瑞奈と蓮華は顔を見合わせる。
「・・・・何とも、悪趣味ですね」
蓮華が嫌そうな顔をする。
「貴重な御霊石を使わずに御体を作る方法を探していたのじゃろう。罪人たちの体を使って人以上の力を持つものを作り出そうとした。いうなれば、人と御体を合わせようとしたのじゃろう」
「・・・・その延長で、蟲毒や鵺のようなものを作ったと・・・・」
「じゃが、小御体は全て失敗したと聞いておるぞ。人の体はそれに耐えられなかったと」
天狗が言うと、幸臣は首を横に振った。
「わたしにはわかりかねます」
「で、お主、どうするつもりじゃ?その幻丈法師の残骸は全てわしらが燃やしてしまったぞ?」
「・・・・ですが、わたしも何も持たず帰ることはできません。火が収まるのを待って、その島へ行きます」
「場所は教えてやんねーぞ!」
太吉がツンとして言う。
「・・・・自分で探します」
とほほ、と顔を伏せる。
「それまでは、村の家を建て直してもらうぞ。あの鬼を使えばすぐにできるだろう?」
弥作が片腕の白縫を指さして言う。
「はい。頑張ります・・・・」




