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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
嚆矢 (こうし)

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0-31 嚆矢ノ章 六

「若殿っ!!」

源馬が叫ぶ。


・・・・はっ!?


まずい!!


宗矢は馬を蹴って、鬼の突進を避ける。


「何をしようと無駄だ!!おまえはおれが倒すっ!!」

孝基が叫ぶ。


「な、なんだ、こいつはっ!!」


「若を助けろ!!矢を射よ!!」

源馬が兵たちに叫ぶ。



ひゅんひゅんと唸りを上げて、矢が鬼へ向かって飛ぶ。


きいん!きいん!


「ふん!!蚊に刺されたほどにも感じぬわっ!!」

孝基はニヤリと嗤う。


その矢は鬼の体に当たると、はじけて落ちる。

「矢が効かん!?・・・・なんだ、あれはっ!!」

源馬が叫ぶ。


辺りは朝日が昇り、ゆっくりと霧が晴れてきた。


少しづつ鬼の姿が明らかになってくる。

だが、その姿はやはり異様としか思えなかった。

丸太のような太い腕、さらに太い脚。

その身の丈は大人の三倍ほどはあろうかという高さがあった。



霧に覆われていた大堰川の川原には、少しづつ朝日に照らされた。

そこには、おびただしい数の死体が折り重なっていることが見えてきた。


「これが、すべてこの鬼の仕業だというのか!?」

「若殿!引きましょう!あたりに味方はいません!!」

「だがっ!!このままこいつを放っておくわけにはいかん!!このままでは全滅する!」

「しかしっ!」


「殿ーっ!!」

馬で駆けてきた兵が、息を切らしながら近づいてきた。

源馬の傍まで来て、鬼を見上げるとぎょっとした顔をする。


「どうした!?急ぎ申せ!」

「はい!川上にて凪舟様、宗明様とみられる一段と遭遇!刃を交えております!」

源馬が言うと、その兵は我を取り戻して源馬に言った。


「・・・・・なんと・・・・・!!」


その時。


鬼が宗矢を捕まえようと腕を伸ばした。

「くっ!」

馬の手綱を引く。

すると、馬は前脚を高く上げ、大きく嘶(いなな)いた。

驚き、慄(おのの)く馬は、そのまま横向けに倒れ込む。


「おおっ!?」


宗矢の体は馬から放り出され、河原へ激しく叩きつけられる。


がしゃっ!!


鎧が河原の石の上に当たり、乾いた音を立てる。

「ぐはっ!!」

「若殿っ!!」

源馬が馬を走らせる。

だが、宗矢がすぐに立ち上がる。

「大丈夫だ、源馬!」

そう言うと、鬼に向けて刀を構える。

「若殿!凪舟様が宗明様と!!」

「聞こえていた!だが、今は、この鬼を退治する!」


「ふははははっ!!やれるものなら、やってみるがいい!!」

孝基は再び戦御体を宗矢に向けて走らせた。


・・・・姿が見える今なら、この鬼を躱すのは容易い!


その鬼の動きはあまりにもまっすぐで、巨体はあまりにも鈍重だった。


宗矢はその突進を避けると、すれ違いざまに一閃する。

だが、その刃は鬼の足の一部に浅い傷をつけたに過ぎなかった。


「うっ!?」

孝基の顔がゆがむ。


確かに斬れた。だが、固い。刃が通らない!

・・・・・だが一瞬、鬼が傷を庇うような仕草を見せた?


「ふざけるなぁぁぁ!」

鬼が再び、宗矢に腕を伸ばす。


この声、この動き・・・・どこかで・・・・・。

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