0-32 嚆矢ノ章 七
朝日が昇り、風が吹いた。霧が晴れる。
「やはり、父上っ!」
凪舟は、宗明と対峙した。
「父上だと!?ここは戦場、おれとおまえは敵同士!父だ子だと、そのような甘えがあるゆえにおまえは宗矢を超えられん!!」
「ぬかすなっ!!今日ここで、おれは父上を超える!!それでじゅうぶんだっ!!」
凪舟は馬を蹴った。
それに従って後ろの兵たちも走り出す。
矢が放たれ、降り注ぐ。
「ここはわしが引き受ける!皆の者はこのまま敵陣へ進め!」
宗明が叫ぶ。
「おおーっ!」
声を上げながら凪舟と宗明のそばを、騎馬の兵たちが通り抜ける。
凪舟の連れてきたわずかな手勢たちと切り結びながら、奥へと駆け抜けていった。
「ご覚悟!!」
凪舟が馬を蹴る。
宗明の馬に寄せると、刀を振り下ろす。
きんっ!!
宗明は軽くその一撃をいなす。
「軽い!お前の剣には重さがない!刀にもっと、怒りと憎しみを乗せよ!」
「戦場で指南など受ける気はないっ!!」
凪舟が叫び、ふたりは再び切り結ぶ。
かんっ!かんっ!!
刃先同士があたる金属音が何度も響く。
「凪舟、おまえは武士の子として穏やか過ぎるのだ!敵を憎め!ここにいる、わしを憎め!己を殺そうとする、敵を憎まねば、お前の命がないと知れ!」
「うるさいっ!!」
凪舟の振る太刀は全て宗明に流される。
・・・・当たらない!どうして!!
凪舟の顔に焦りが浮かぶ。
・・・・せめて一太刀でも浴びせられれば!!
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・」
腕が痺れてきた。馬上で刀を振り続けるのは腕に負担が大きい。
それに引き換え、宗明は凪舟の刃を軽く躱し続けていただけで、体力の消費はほぼない。
凪舟の背後から悲鳴や怒号が聞こえてくる。
・・・・駄目だ、相手に集中するんだ。
どこからか流れ矢が飛んできて、地面に突き刺さる。
・・・・ほかに気を取られては父上には勝てない!
「凪舟、もう来ないならこちらから行く!」
宗明が馬を蹴る。
一気に間を詰めると、上から強烈な一撃を振り下ろす。
・・・・早いっ!
ぎいん!!
その重い一撃を、何とか両手で構えた刀で受け止める。
・・・・なんて重さだ!一撃で手が痺れた!?
「緩むな!次が来るぞっ!!」
宗明が叫び、次々と刀を見舞う。
「くっ!?」
凪舟はかろうじて、その連撃を受け続ける。
ぎぃん!ぎぃん!!
刃が衝突する音が響く。
・・・・これ以上、腕が上がらない!!
凪舟の姿勢が崩れた。
そのわき腹を宗明の刀が襲う。
ざんっ!!
血が飛ぶ。
「ぐぁっ!?」
「何とか避けたか・・・・」
宗明がそう言いながら、凪舟の前に馬を寄せる。
「父子と言えど、今は敵!恨むな!!」
宗明が太刀を振りかぶった。
わき腹の傷が焼けるように痛い。
もう、避けられない・・・・。やはり、敵わなかった。
・・・・父上でよかった。
超えられない壁。
霞家の頭領。
誇りある父の背中。
凪舟は覚悟を決めた。
その時。
どこからか流れ矢が飛んできて、宗明の馬の尻に刺さる。
「いいいいいん!!」
「何っ!?」
馬が叫び、宗明を振り落とした。
「ぐっ!!」
宗明は背中から地面に落ちて、息を詰まらせる。
・・・・こんな!?
目の前で何が起きたのか・・・・。
しかし!!
凪舟は馬から飛び降りると、宗明の上に跨る。
「父上!運はおれに味方したようだっ!!」
言いながら、刀を高く振り上げる。
宗明は苦しみに顔を歪ませながら、凪舟を見上げる。
太刀を思い切り宗明めがけて振り下ろす。
ざしゅっ!!
肉が裂ける音がして、血が舞い上がった。




