0-29 嚆矢ノ章 四
「兄者、そろそろよいのではないか?もう戦は始まっておるだろう?」
孝基は気が気ではない。
ちゃんと自分に扱える代物なのか、不安で仕方ないのだ。
「まだだ。お前の霊力では刻が足りん。未だ少し、兵が減るのを待て」
「・・・・・うぅ、承知した」
孝基は不承不承頷くと、河原にどっかりと座り込んだ。
「霞宗明はどうしておる?川上の搦手に向かったのであろう?」
「はい。すでに渡河には成功したと、使いの者が参っております」
「よし、急がせろ!」
そう言うと、浄基は川の水を両手で掬い上げ、口を潤した。
そして立ち上がり、馬に跨る。
「では、我らも川を渡る!全軍に伝えよ!われらに武在り!天の使いがわれらに勝利をもたらすと!!」
おおおーーーーー!!!
「孝基!火を焚いて狼煙を上げるまでここで待っておれ!」
浄基はそう言うと、霧の中へ消えていった。
取り残された孝基は、河原の石をつまんでは投げ、つまんでは投げ。
「・・・・・まったくつまらん」
そうつぶやいた。
「宗矢様!北の方角、川上から敵がこちらへ向かっています!」
「・・・・搦手か!?数は?」
「おそらく五百ばかり!霧で見えず!」
宗矢と源馬が顔を見合わせる。
「大殿・・・・おそらく、宗明殿かと」
「戦うしかあるまい!」
宗矢は馬の上で腰の刀を抜くと、高く掲げた。
「北だ!川に沿って川上へ向かう!!皆の者、敵に備えよ!!」
「おおーーーっ!!」
「この辺りの川は浅く、水の流れも下に比べ穏やかです。この先、急に流れが強くなっているのは、川の幅が狭く深くなっているところがあるからです。その少し上辺りなら、流れも緩く川幅も狭い。霧が出ていようと渡りやすいでしょう」
宵近丸がそう進言した。
兵たちに調べさせたところ、宵近丸の言う通りだった。
宗明の兵たちは誰一人川に流されることなく対岸へ渡り切ったのだ。
「そのようなこと、どこで覚えたのだ?」
「いえ、そうだろうと思っただけです」
宵近丸はにこりともせずに答えた。
「まだ九つ、末恐ろしいな」
宗明はつぶやくと、馬を走らせる。
すると白い霧の向こう、馬の蹄の音が響いてきた。
うっすらと馬に乗った人の陰が映る。
「敵だーっ!!」
宗明は大音声で叫んだ。
その声に凪舟は身を凍らせた。
「父上・・・?」
川上から川を渡り、敵の背後を突こうと思っただけだ。
まさか、ここに父上が・・・・!?
・・・・・だが!
「父上!ならば好都合!!絶対にここは通さん!!」
凪舟は刀を抜くと、馬を蹴った。




