3-2 芽吹ノ章 幕間 二
「義陽、宗影と会った印象はどうであった?」
唐突に、宗近殿がおれに聞いてきた。
「・・・・どうと申されますと?」
「宗影に会った印象だ。子供を引き取りに行って、会ったのであろう?どのような男であったか?」
「・・・・ええと。実直そうで真面目な男の印象を受けましたが・・・・」
・・・・実のところ、宗影殿の印象は、困った顔をしていたことしか記憶にない。おれが誰よりもずっと泣いていたからだ。宗影殿の奥方でさえ、おれの泣き方に言葉を失っていた。
「・・・・そうか。おれに似ていたか?」
「・・・・いえ。そのようなことは・・・・。何か?」
「いや。気にするな」
そう言うと、宗影殿はすたすたと部屋を出て行った。
そう言えば、以前も宗影殿のことで兼信殿と話していたな。淡影殿も、宗影殿にあったことを黙っていた。それで責められるような言い方をされていた。
・・・・宗影殿に、何かあるのだろうか?
最後の、「おれに似ているか?」が気になるな。
もしかして、宗近殿の兄弟?
いや、まさか。
どう見ても、宗影殿の方が年上だ。そうなると、宗近殿の霞家の御曹司という立場が崩れる。本当の御曹司は宗影殿ということになってしまう。
・・・・まあ、そんなわけないか。
それならば宗影殿が立場を偽る理由がない。
「おれが霞家の御曹司だ!」
と言ってしまえば、各地から霞の縁者が木曽に集うはずだし、この関ノ府へ自分の息子を人質として差し出す理由もない。
考え過ぎか。
・・・・そんなことよりも・・・・。
「ぎゃあああああっ!!」
「ほら、ほら、泣かないで!!」
伊佐殿が竹丸を抱いてあやしている。
「ほうれ、高い高い!!」
狛丸が空に浮かぶ。
「きゃっ!きゃっ!」
「これ!嶺巴!赤子を放り投げるやつがあるか!!」
「なんだよミカナ!狛丸は喜んでいるぞ!」
「きゃっ、きゃっ!!」
「そうじゃ、れいは!あかごをほうりなげるやつがあるか!!」
「ほれ、岩姫も怒っておるぞ!」
「いわひめはおこっておるのじゃ!!」
・・・・・・ここはおれが筆を持つための部屋なのだが・・・・。
「あら、賑やかね」
そう言って姉上も入ってきた。
「・・・・姉上。筆が進まないのですが・・・・」
「ああ、ここが良いと私が言ったのです。この部屋は広いし、眺めも良いので」
「・・・・姉上・・・・・・」
「それに、わたしとしても、子供たちを見ながら義陽の隣にいられるので」
そう言っておれの横に腰を下ろす。
さすがにもたれかかってはこないが、子供たちと戯れる娘たちをほほえましく見ている。
・・・・おれも、姉上も大人になってしまったな。
「そう言えば、聞きましたか。木曽の宗影殿のこと」
唐突に姉上が言いだした。
「いえ。どうしたのですか?」
「緋家の大軍を戦で破り、京へ上ったらしいですよ」
「・・・・そうですか」
「同じ霞家として、殿と仲良くしてくれたらいいのですけど」
・・・・むしろ、宗近殿の方が木曽宗影を敵視しているようだ。
理由は・・・・まあ、わからないが。
「宗近殿は、武家の頭領の座を宗影殿に渡しはしないでしょうね」
「・・・・そうね。わたしもそう思うわ。それに」
そう言って姉上は立ち上がった。
「そんな簡単に諦める男なら、そもそもわたしは嫁に行きませんよ!」
「・・・・あんなに嫌がっていたのに?」
「何か!?」
「いえ・・・・何も・・・・・」
姉上の笑顔は、やはり怖い。
そして、おれの前に騒がしい子供たちと娘たちが残った。
「だぁ!!」
「これ、駄目じゃ!墨を喰うでない!それは字を書くものじゃ!」
「うわああ!伊佐!狛丸が小便をした!!」
「もう!!そういうときだけわたしを呼ばないで!!」
「ミカナ、そとであそびたいのじゃ!」
「では、あとのことは二人に任せて庭へ行こうかの、岩姫」
「こら、逃げないで!ミカナ!!」
・・・・姉上、出て行くなら連れて行ってくれたらいいのに。




