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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
三章 芽吹 めぶき

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93 芽吹ノ章 二十

翌日、おれは淡影殿に関ノ府を案内することになった。

「義陽殿、申し訳ないが、仲間が早く御造所(みぞうどころ)に行きたいと昨夜からうるさくて。まず、御造所と御体蔵(みたいぐら)を見せてもらえないか?」

「承知しました。参りましょう」

おれは先導して歩き出した。


それにしても・・・。

変な一行だ。

ひょろりと背の高いのと、やたらみすぼらしいの、このふたりの男は職人のようだ。

目のやり場に困る派手な女と、一見高貴な出のような娘。

そして・・・。淡影殿にべったりくっついている女児。

何か、なんとも言えない妙な雰囲気を持っている。愛らしい見た目ではあるが、これが噂に聞く座敷童子であろうか。

他の皆にも見えているのか不安になる。


あ、こっちを見た。目が合う。



「・・・お主、たいそう(おなご)に節操がないな?」



・・・え?



今、なんと?


「はい?」

今、おおよそこの女児の見た目から、かなり掛け離れたことを言われた気がするのだが!?


「あ、義陽殿、ミカナは陰陽師でな。人の持つ本質のような何かが見えてしまうらしいのだ。気にしないでくれ」


・・・淡影殿。なんの救いもないぞ、それ。







ほぼ完成間近の御造所へ。

「おおー!!」

一同が感嘆の声を上げる。

それはそうだろう。ここはともかく広い。おそらく飛鳥の大仏殿よりもずっと大きい。見たことはないが。

屋根も高く、御体が立って歩いても、少しばかり飛び跳ねても天井に当ることはない。

ここで八十人以上の織部衆(おりべしゅう)と他から来た御体匠(みたいしょう)たちが働いている。

「す、素晴らしい!!」

ひょろっと男が一目散に中へ走って行った。

「おい、皆秀!転ぶぞ!」

破廉恥(はれんち)な娘が声をかけた途端、向こうの方で「いてっ」と声がした。

「・・・言わんこっちゃない・・・・」

そして破廉恥娘が声を出したので、職人たちの手が一斉に止まる。

皆が若い衆ばかりだ。破廉恥娘を見て鼻の下を伸ばす。

「あの・・・この辺りはまだおなごが少なくて、職人たちにはやや刺激が強いかと・・・」

おれが言うと、破廉恥娘は不思議そうにおれを見た。

「何の話だ?」

「だ・か・ら!!胸を隠せっておっしゃってるの!」

そう言って、高そうな着物の娘が破廉恥娘の胸の襟を閉めた。

「胸が苦しいんだけどなぁ・・・。なあ、ミカナ?」

と言って女児の方を見る。

「苦しくないように、小さくなる呪いをかけてやろうかー・・・?」

そういうミカナ殿に、嶺巴殿は、おお怖い!と言いたげな顔でそっぽを向いた。

・・・いつもこんな調子なのだろうか?

「すまぬ。支離滅裂(しりめつれつ)。常時このようなものだ」

みすぼらしい男が小声でおれに言った。



久馬(きゅうま)殿!綴師(てっし)殿はおられるか?」

おれは近くにいた久馬殿を呼び止める。

「ああ、今日はわが師は買い付けに出ておる!何か御用か?」

「宗近殿の弟君が参られてな。案内しているところなのです」

「ほう!?大殿の弟君か!」

そう言って、こちらへ駆けよってきた。

「こちら、御体匠の織部久馬殿です」

「おれは霞四郎淡影。よろしく頼む」

「おお、若殿じゃな。兄上殿によく似てらっしゃる」


・・・そうか?

・・・そうか。


「忙しいところすまぬが、御造所を案内してはもらえないか?」

「おお、任せろ。付いてきな!」





そういう久馬殿に案内を任せたが、専門的な言葉ばかり使うので、何を説明されているのかおれにはさっぱりわからなかった。

わかっているのはひょろりとした男、皆秀(かいしゅう)といったか、その男だけで、久馬殿と話が弾んでしまい、他の者は蚊帳の外といった雰囲気になってしまった。

破廉恥娘、藍羽嶺巴(あいばれいは)という名前らしいが、欠伸が止まらないようだったし、ミカナという女児にいたっては勝手に繰り座に入り込んで寝息をたてる始末。白結丸殿がミカナを(だか)え、「うっかり石を握ると危ないので外で寝かせてくる」と言って出て行ってしまった。

黒部宿儀(くろべしゅくぎ)という鉄打ち職人と、伊佐(いさ)という娘だけは、最後まで付き合っていた。ふたりとも完全な無の表情だったが。




次に向かったのは、関ノ府を護る守護社、関ノ府(せきのふ)八幡宮大社(はちまんおおやしろ)。今はまだ名前がないので勝手にそう呼んでいる。

というのも、まだ本殿は出来上がっておらず、先にご神体となる八幡大菩薩像だけが置かれている。とても大きな菩薩様で、「御体よりも大きく作れ」と宗近殿が指示したのだ。結果、そのご神体に合わせて建物が作られることになった。敷地も広大で、玉砂利を運んでくるだけでも毎日かなりの数の人足が出入りしている。


八幡様にお参りを済ませると、市場へ向かう。

そこで、水を通すための溝掘りをしている、もしゃもしゃに会った。

「おお、義陽殿!そちらが噂の大殿の弟君か!?」

「おお・・・もしゃも・・長綱(ながつな)殿!いかにも、こちら宗近殿の弟君、淡影殿だ」

「淡影だ。よろしく頼む」

「噂に(たが)わぬ色男だな!町の娘たちが噂しておったぞ!」

そう言って豪快に笑った。



そんな挨拶を交わし、再び歩き出す。

ミカナ殿が頬を膨らませながら、さっきよりも淡影殿の腕にしっかりとしがみついている。

淡影殿を見る町の娘たちを威嚇しているように見える・・・のはおれだけか?

違うな。おれだけじゃない。猫みたいに「シャー!」とか言ってる。



「あのぅ・・・、聞いてもよろしいですかな、義陽殿」

皆秀がおれの横へ来て言った。

「はい。なんでもどうぞ。おれに答えられることは答えますよ」

「あの・・・先ほどの御造所と御体蔵にあれだけ御体があったのに、穴掘りに御体を使わないのはなぜですか?」


・・・・。


え?



「あの・・・戦御体というのは、穴掘りに使ってもよろしいのですか?」

「もちろん。もともと唐では御体は天威機(てんいき)といって、治水(ちすい)岩削(がんさく)に使われていたものです。それを戦に仕えるように速さと力を強くし、太刀などの武器を与えたのが戦御体です。ですから御体を使えば先ほどの大社の建築も今の倍以上は早く終わると思いますが・・・」


・・・・そうなの?


「仕方なかろう、皆秀。これだけの人足を抱える大仕事だ。なんといっても町を作るのだからな。早く終わればよいというものでもない。人の手でしかできないものもあるのだ」

と、淡影殿が言う。

「そうですね。人足たちにも(かて)が必要ですからね。仕事を奪うようなことはいけないですよね。失礼しました」

皆秀はそう言って頭を下げた。


「そ、そうですよ。これだけの人がかかわるからこそ、整ったときに皆から愛される町になるのですからねぇ・・・」

おれがそう言うと、ミカナがおれの方を見上げる。


じー・・・・・・。


「え、えと・・・・。そろそろ市に着きますよー・・・・」



関ノ府の南側、街道沿いに商人たちが自由に売り買いをできる市場を置いた。のちに関ノ市と呼ばれるようになるのだが、この時はまだ名前はない。

まだ商い人は少ないものの、少しづつ活気が出始めている。

娘たちはお気に入りの髪飾りや櫛を見つけて喜んでいるようだ。


妙珠にも何か買っていくと喜ぶのだろうか?


岩姫には・・・まだ早いな。櫛を通す髪が生えそろっていない。

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