71 風結ノ章 幕間 二
「みんな、次の行先が決まった!」
白結丸は成相寺の境内に皆を集めた。
「一度都へ戻り、橘中納言という人に会う!」
「中納言!?」
「おいおい!」
「ええっ!?」
「・・・・無理難題」
「なんだ?みんな駄目だと思っているのか?」
「白結丸、あんたわかって言ってんの?相手は公卿だよ?武士のあたしらが簡単に会える相手じゃないよ?」
嶺巴が呆れ顔で言う。
「でも、姉上からも文をもらったぞ?」
「それを渡すことが出来れば、じゃな」
「うーん、どうだろうねぇ」
首をひねる嶺巴とミカナ。
「ま、まぁ、行ってみないとわからないですし、ね?」
皆秀が言うと、宿儀は黙って頷いた。
「あ、あの・・・・」
伊佐がそっと手を挙げる。
「なら、わたしが一緒なら、もしかすると・・・・。いちおう、太政大臣の孫なので・・・・」
「「「「「おおおおっ!!」」」」
全員が伊佐を見る。
「あ、いえ、そんな・・・・」
「さすが、伊佐じゃ!」
ミカナが伊佐の腕に抱き着く。
「え?」
「あたしも、伊佐はやる子だと思ってたよっ!」
嶺巴が伊佐の頭をぽん、と軽くたたく。
「ですよね!さすが、緋家の姫だけありますね!!」
皆秀が腕を組んで頷く。
「千乗之君、天之驕子!!」
宿儀も大きく頷く。
「おい、待て待て!みんな!」
白結丸が皆を止める。
「伊佐はここまでの案内を頼んだだけだぞ!それに、紅羽や時千代が因幡で大変な思いをしている時に、おれのために伊佐を連れていくなんてできない!」
「・・・・わかっとらんな、白結丸」
「ああ・・・駄目男だねぇ」
「どうしてあんなに鈍いのですか?」
「木人石心・・・・」
「いいか、白結丸!!」
ミカナがずいっと白結丸に詰め寄る。
「は、はいっ!?」
「伊佐は、お主についていきたいと言っておるのじゃっ!!」
「ちょ、ちょっと、ミカナ!!」
伊佐が顔を真っ赤にする。
「そ、そうだったのか・・・・」
白結丸はミカナの言葉によろめく。
「伊佐、すまなかった!気が付いてやれなくて!」
白結丸はぎゅっと伊佐の手を握る。
「え、あ、そのっ!?」
「そんなに紅羽のところへ戻りたくないなんて、まさか姉妹で仲が悪いとは思わなかった。いつも一緒にいるから、てっきり仲良しだと勝手に思っていた!」
「は?」
・・・・・・・・・。
「あの・・・・わたしと姉様はこの世で一番仲良しですけど?」
「あ、そうなのか?じゃあ、なんで?・・・・もしかして、時千代?」
「そんな訳、ありますかっ!」
「でもな、紅羽とここまでって約束したし・・・・」
「そんなにわたしを連れていくのがお嫌ですかっ!!」
怒鳴って、伊佐はどこかへ歩いて行ってしまった。
「・・・・・・おれ、変なこと言ったのか?」
「言ったな」
「ああ、言ったね」
「言いましたよ」
「失言の極み」
「ともかく、追いかけて謝ってくるのじゃっ!!」
「あ、はいっ!!」
返事をすると、白結丸は伊佐を追いかけていった。
「・・・・なんで、伊佐を応援しなくちゃいけないんだろうねぇ、あたしたち」
「わからんが、あの娘を見ておると黙っておれなくなるのじゃ。嶺巴と違って」
「何であたしと違うって?」
「おー、可愛げの違いかのう!」
「伊佐は可愛いけど、あたしは別嬪だってことかい!?」
「ふん!可愛さならおれが一番じゃっ!!」
ぐぐぐぐぐぐぐ・・・・・。
「ああ、また始まりました」
「恒例行事」
◇
「伊佐!」
「白結丸様・・・・」
「すまない、おれ、何かわからなくて」
「そうです!あまりにもわからなさすぎです!」
「す、すまん・・・・」
「・・・・・・・」
「でも、さっきの話。伊佐がおれたちと一緒に来てくれたら、うれしい」
「・・・・本当ですか?」
「ああ。だけど、いつかおれたちは緋家一門と戦うことになる。それに伊佐を巻き込んでいいのか・・・・」
「いつか言ったでしょう?わたしは、爺様が大嫌い」
「でも・・・・刀を持って殺し合う場に・・・・」
「わたしは今までも、戦って生き抜いてきました!足手纏いにはならないつもりです!」
伊佐は白結丸をじっと見つめる。
「伊佐の強さは知ってる。たぶん、嶺巴や紅羽より上・・・いや、戦いにくい相手だ」
「なら、邪魔はしません!」
「いいのか?このままおれたちと一緒で」
「わたしは、白結丸様と一緒がいいのです!!」
伊佐の目に涙が溢れてきた。
顔が熱い。
わたし、なんで泣いてるの?
・・・・・・・。
(伊佐!がんばってっ!!)
気のせいかしら?向こうの物陰に母様が見える。
(今!口吸い!!)
「はぁっ!?」
「どうした?」
「あ、いえ、えーっと・・・・」
母様がイライラしてる。
・・・・だって、そんな!はしたない娘だって思われちゃう!
(口吸い!口吸い!!)
・・・・・・・。
「は、白結丸様・・・・?」
「なんだ?」
「殿方は・・・・その・・・・これが好きだと母様に・・・・聞いたので・・・・・その・・・・・わたしは、そんな娘ではないですが・・・・でも・・・・・」
か、顔が熱いっ!!
「?」
首を傾げる白結丸。
(今ですっ!!行きなさいっ!!)
「どどどどおっどお、どうぞっ!!」
伊佐は目を閉じて唇を差し出す。
「え!?」
「こりゃあああっ!!」
ミカナの声。
「伊佐っ!!そこまでしていいと言っとらんぞっ!!」
「え、えええっ!!見ていたのですかっ!?」
「当たり前じゃっ!!」
「なんだよミカナ!せっかくいいところだったのにさっ!!」
「嶺巴っ!?」
「そうですよっ!!邪魔するなんて!」
「皆秀殿っ!?」
「・・・・・・女の・・・・唇・・・・・」
「・・・・・・宿儀殿」
「なんだよ、みんなぞろぞろと!それに姉上まで!」
「あ、見つかってた!」
「もう、母様っ!!」
「だって、伊佐がちゃんと母の教えを守れるか気になって!」
「ふん!伊佐が悪させんように、伊佐のものはおれが先に奪うのじゃっ!!」
ミカナが伊佐に抱きついた。
「あ、あたしもまぜなっ!」
嶺巴も続く。
「ちょ、ちょっとぉっ!?な、なにぃっ!?なんなのーっ!!」
「お、おい!喧嘩するなよっ!」
「「「うるさいっ!」」」
「・・・・はい」




