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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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69 風結ノ章 六十九

紅羽は重臣じゅうしんたちの前に座った。

時千代は紅羽の少し後ろの上座に座っている。


此度こたび、緋家当主・緋浄基(ひきよもと)の嫡男、緋時千代ひときちよ殿が、仮ではあるが因幡国司の任につくことになった!ここに朝廷よりの書状も届いている!」


紅羽が書を開いて皆に見せる。

朝廷からの書面である旨の印が押されているものだ。


集まった家臣たち全員が時千代に頭を下げる。



「わたしはその輔佐ほさとして、まつりごとに当たる!」


紅羽は言葉を切ってゆっくりとひとりひとりの顔を見渡す。


「異論のある者は申し出よ!」


全員が再び頭を下げた。



今まで富士江家の圧政に苦しんできたのだ。

相当な不安があるだろう。


「では、ここにいる誰もが、このことについて異論なく認めたということである!今後、一切の申し立てを認めず、国司たる緋時千代殿のために死力を尽くせ!」


「はっ!!」


全員が声を上げる。


紅羽は満足そうに頷くと、時千代と目を合わせる。



「では、目代もくだい、緋時千代殿より言葉をいただく!!」


全員が頭を下げる。



「皆、よく集まってくれました!!」


その声はとても力強く、はっきりとしている。

そしてゆっくりと、ひとりひとり目を合わせる。




・・・・・・。






・・・・・・・。





その場の全員が、時千代の次の言葉を待った。










「これからよろしくね♪」








「「「「うわぁっ!!」」」」


ガタガタガタガタ!!


全員が盛大にコケた。




・・・・さすが時千代!やっぱりかわいいっ!!











「紅羽、ひとつ頼みがあるんだ」


白結丸が紅羽のところへ話をしに来た。


「なんだ?頼みとは。珍しいな」





「伊佐を、連れていきたい。許してくれないか?」






・・・・・・・。




「え?まさか・・・・・」





・・・・伊佐をめとるつもりか?


だ、だが・・・・そんな!?き、急にっ!?



「い、伊佐には話してあるのか!?」


「いや、まだだ。まずは紅羽の許しを得ようと思ってな」


「だ、だが、それは伊佐の気持ちもあるしだな・・・・」


「それもそうだが、伊佐は嫌とは言わないだろう?」


・・・・なんという自信!!伊佐が自分に惚れているのをわかった上での強気の態度かっ!!


「紅羽と時千代はこれから忙しくなるだろうからな。伊佐を少し連れて行ってもよいかどうかを聞いておきたくてな」


「あ、あわわわわ・・・・・・」


「なあに、大したことではない。千子せんこ姉上に挨拶がしたいのだ。それで伊佐を連れていきたいだけだ」



・・・・・母様にっ!?伊佐と二人で挨拶っ!?


もう、これ、決まった・・・・。たしかに、伊佐は嫌と言わないだろう・・・・。


「・・・・わかった。伊佐が良いと言えば許す・・・・」


「おお、すまんな、紅羽!ちゃんと返すからな!」


「返すなっ!!最後まで面倒見ろっ!!」


「?」


「幸せにしなければ、わたしがお前を許さん!」


「・・・・良くわからんが、わかった!ちゃんと道中面倒見るから心配しないでくれ!伊佐にも話してくるな!」


そう言って白結丸は走って出て行った。





・・・・・・ああ、伊佐が・・・・嫁に行ってしまった。

嬉しくもあり、寂しくもあり・・・・。









「ええっ!!」


ぼんっ!!


伊佐の顔が一気に赤くなる。


「わ、わたしと、白結丸様が、母様に、会いに、行くっ!?」



・・・・今度、いっしょにいらっしゃい。



母様には笑顔でそう言われた。だけど!

そ、そ、そそそそそそれって!

嫁入りの話じゃないっ!?


「わ、わたし、白結丸様と一緒に行って良いのですか!?」

「ああ、一緒に来てほしい。おれ一人では不安だからな」


・・・・?


まあ、姉とはいえ会ったことのない人と会う不安もあるでしょうね。

それに、嫁にもらう相手の母親となると・・・・。


「なあに、大したことではない。道案内と引き合わせを頼みたいだけだ」


「え?」


「それが済んだら因幡へ帰ってもいいからな!」






・・・・・・・・。





「あ、・・・・・・そう」




「じゃあ、頼むぞ!旅の用意をしておいてくれ!」

そう言って走って行った。









「う・・・・・そ・・・・・・・・」


ごうん、ごうん、ごうん・・・・・

伊佐の頭の中で寺の鐘が連打しているような音が聞こえた。











「皆、昨日話した通り、これからまず、姉上のいる丹波へ向かう。その案内と姉上との引き合わせを伊佐に頼んだ」


「はい・・・・」


あらためて紹介されると・・・・。


・・・・考えてみれば、白結丸様は霞家直系の子。わたしは緋家直系の娘。

共に旅をするなんて、とんでもない話だ。

白結丸様の仲間だって、皆、緋家一門に少なからず恨みを持っている。

受け入れがたいのは間違いない・・・・。



「・・・・また、白結丸はおなごを連れていくのか?」

ミカナが不満そうに言う。

「いかにも白結丸が好きそうな娘だからな。でも、残念だけど渡さないよ?」

嶺巴が白結丸の首に腕を回し、白結丸の顔を胸に押し付ける。

「むぎゅっ!?・・・・ぷはっ!そういうわけじゃないって!」


「何を言う嶺巴!そもそもおれと白結丸はひとつじゃ!」

「何を言うミカナ!おぬしはちんちくりんじゃ!」

「胸と尻だけのおなごには言われとうないわ!」

「ふん!なんもないよりましだと思うねっ!!」

ぎりぎりぎりぎり・・・・・・。


「もう、喧嘩するなよ」


「「うるさいっ!!」」



「・・・・・・・・・はい」



そこへ、皆秀が伊佐の前に来る。

「ああ、そう言えば杜若とじゃくですけど、この前壊れた足の部分、もっと強くできますよ。それに、体全体としてみた時にとっても不安定です。もっといろいろ調整すると今の倍くらい頑丈で速くできますから、今度御造所に行ったときにわたしがやってみますよ。まったく誰が作ったのか知らないですが、もうちょっと乗る人のことを考えればわかることなんですけどね。それと、腕の辺りの〇×▽◇・・・・・」


「戦力増強・・・・熱烈歓迎・・・・・・・」

喋り続ける皆秀の後ろで、宿儀がぼそりとつぶやいた。






・・・・本当に、変な人たち。






因幡の町が見下ろせる高台に、小さな墓が作られた。

盛られた土と、石を積んだだけのとても質素で小さな墓。

それが誰の墓なのか、町の人は誰も知らない。


それは、生き別れた妹を思い続け、永遠の命の呪縛から解き放たれた、男の墓である。

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