67 風結ノ章 六十七
嶺巴、どうして泣いている?
そうか、荊火が傷つけられたんだな。
荊火、可哀そうに。
今、わかった。
記憶が雪崩れ込んできた。
荊火も、緋家にやられたんだ。
子供の頃、妹を奪われて、母親を見殺しにされた。
そして自分自身も殺され、そんな体にされたんだ。
緋家の血を恨んでいるだろう!
嶺巴だってそうだ。
あいつらに父親を殺された。
そして生きていくために六原にいたんだろ?
そして、あらぬ罪を着せられて追い出された。
嶺巴、もうお前を泣かせるような奴ら、生かしておけない。
おれが、みんなみんな、根絶やしにしてやるよ。
今、すごく殺したいんだ。
緋家の血を、地面にぶちまけたい。
怒りが、止まらないんだよ!
殺したい!!
今、一番近くにいる奴らの血はどこだ!?
ああ、いた。
三人も。
いいじゃないか。
死んでもらおう。
◇
『なんだとっ!?』
牛鬼蜘蛛の片足が崩れる。
「おっと!!」
英醐が牛鬼蜘蛛の下から転がり出る。
ずうん!!
牛鬼蜘蛛は右足三本が力をなくし、地面に落ちる。
『石が、やられた!?』
牛鬼蜘蛛はガシャガシャと動き回るが、片方の三本では巨体を支えきれない。
『貴様かぁっ!!』
夜和が吼える。
その先に英醐がいた。
「どんなにまっすぐ飛ばなくとも、近ければ当たる!!」
英醐は牛鬼蜘蛛の背中の上に乗り、もう片方の足の付け根にある大きな御霊石に矢を放つ。
ばきいいん!!
音を立てて御霊石がはじけ飛ぶ。
ずううん!!
残った方の足も力を失い、牛鬼蜘蛛は完全に地面に落ちた。
『やはり、成正では足りない!』
夜和が呻く。
『だが、あの小僧なら・・・・!』
◇
殺したい!
緋家の血を、地面にぶちまける。
それは、気持ちいいだろうな!
向こうに感じる。
緋家の血を引く者。
おれが殺しに行く!!
『おいっ!!白結丸!!』
・・・・・・・。
『くぅ、お主、おれの父様の仇を討つと約束したじゃろう!?どこへ行く気じゃっ!?』
・・・・・・・・ミカナ。
『白結丸!おれとお主はひとつじゃ!お主が今、何を考えておるかわかっておる!』
・・・・・・なら、止めないでくれよ。
『じゃから、止めておるのじゃ!!今すべきは、あの妖を討つことじゃ!!』
・・・・・・でも、おれは・・・・殺したい!緋家の奴らを!!
父上を殺し、母上を追いやり、皆を苦しめた!!
そんな奴ら、全部殺したい!!
『違う!!』
違わないっ!!
『違う!!お主がやるべきは、よき世に戻すことじゃ!!緋家によって曲がってしまった世の中を、元ある場所へ戻すこと!そのためにお主は生まれたのじゃろう!?』
・・・・・・それには、奴らを殺さないと!!
『白結丸!お主の母はそれを望んでお主を育てたのか!?お主の父親は何を望んでお主に何を託したのじゃ!?』
・・・・・・。
『何のために生まれてきた?何のために、おれと風結を見つけたのじゃ?何のために、ここまで来たのじゃ!』
・・・・・・。
『おれを暗闇で見つけてくれたのはお前じゃ、白結丸・・・・。お前のおかげでおれは目覚めた。おれは、おれのすべてを、白結丸に捧げるつもりじゃ・・・・。じゃが、おれの慕う白結丸は、あんな妖に心を操られるような、弱い男ではない!』
・・・・・・。
『目を、目を覚ませーーーーーっ!!』
・・・・違う。
父上はそんなことのために死んだんじゃない。
母上もそんな人じゃない。
兄上たちもそうだ。
おれが憎しみに飲まれたら、
みんなが守ろうとしたものまで失ってしまう。
・・・・ミカナ!
そうだ、おれはミカナを守りたい。
ミカナの想いを叶えたい。
ミカナと出会ったのは、たくさんの偶然が重なっていた。
でも、おれはあの時、光る風に引き寄せられた。
偶然が必然だったんだ。
そうだな、ミカナ。思い出した。
おれの中にやっぱり憎しみがあるんだ。
そうだ。
憎しみに心が染まっていた。
でも今、憎しみを向けるべきなのはこっちじゃない!
ミカナも、嶺巴も、皆秀も、宿儀も、荊火も、紅羽も、伊佐も、時千代も!
みんな仲間だ!
おれが憎むべきは、その仲間を傷つけるやつだ!!
「ミカナ!!すまない!もう大丈夫だ!」
『白結丸・・・・』
風結の御霊石の光。
赤から緑へゆっくりと戻って行く。
「大丈夫か?ミカナ!」
『ああ。じゃが、ちと霊力を使いすぎた・・・・。あまり長くもたん!』
「わかった!すぐに片付けよう!!」
風結は太刀を構える。
牛鬼蜘蛛に向かう。
◇
「もう絶対許さないよっ!!」
蒼刃が牛鬼蜘蛛めがけて太刀を振り下ろす。
ぎいん!!
それを牛鬼蜘蛛が太刀で受ける。
・・・・・・やっぱり、少しづつ固まってきているんだ。今までよりずいぶんと動きが鈍い!
足の付け根の御霊石を失った牛鬼蜘蛛だが、それでも六本の足をずりずりと動かして、這い回るように動いている。
その動きも、牛鬼部分の動きも少しづつ遅くなってきていた。
「だけど・・・・こっちもだね」
意識が薄れてきている。
◇
びゅしゅっ!!
「おっと!当意即妙!」
英醐は牛鬼蜘蛛の腹の先から出る白い液体をさっと避ける。
「こちらも勢力減退!!」
そのまま近づくと、足の先の関節に矢を撃ちこむ。
ばきん!!
御霊石が砕け散る。
「まだ、たくさんあるな・・・・そこまで霊力が、もたん」
◇
「宿儀!嶺巴!すまなかった!あとはおれが片づける!!」
風結が牛鬼蜘蛛の前に立つ。
「白結丸!頼む!もう、霊力が・・・・」
「白結丸殿!おれもだ!」
「ああ!これで最後だ!」
『行くぞ、白結丸!』
「ああ、ミカナ!この後のことは何も心配いらない!これで終わりだ!」
風結が低い姿勢で太刀を構える。
牛鬼蜘蛛も太刀を振り上げ、風結に向かう。
「ミカナ!」
『行くのじゃ!』
風結が、地を蹴った。




