66 風結ノ章 六十六
「・・・・これは、何でしょうね。石灰?それと、粘土のような・・・・。でも、こんなに早く固まる漆喰は見たことがありません」
皆秀は時千代の金冠が運んできた綾芽を見上げていた。綾芽の足に張り付いた白い液体が固まったものを見て首をひねった。
「とりあえず、綾芽を動くようにできないか!?」
紅羽が皆秀に言う。
「ううん・・・・とりあえず固まったものを外さないといけないので、足の関節をばらばらにするところからが必要です。今すぐは難しいでしょう」
「・・・・だが、白結丸たちが戦っているのに!」
「姉様、白結丸様を信じましょう」
「伊佐・・・・。足は?」
「姉様のおかげで杜若の足だけで済みました。痛みはありますが、大丈夫です」
「よかった・・・・」
「白結丸様は、きっと勝ちます。相手が何であろうと・・・・」
・・・・だって、だって!
『よくも伊佐を!おれの大事な想い人を傷つけたなっ!絶対に、ぜえええええっったいに!許さないっ!!』
(脳内補完)
・・・・ああ、格好良かった♪
◇
『こりゃ、動かんかっ!!白結丸っ!』
「あ、ああいい!あ、あしがぁ!絡まってぇ!!」
「い、痛いじゃないかぁっ!それ、こっちの足だよぉっ!!」
ふたりとも目を回している。
『そんなことしとる場合かぁつ!!もう目の前じゃぞっ!!』
地面に横たわる風結と蒼刃の上に、月明かりを背に受けた牛鬼蜘蛛の影が落ちる。
「くそっ!!来たっ!!」
『じゃから、言うとるじゃろっ!!』
「避けられないよっ!!」
嶺巴が叫ぶ。
牛鬼蜘蛛が大きく太刀を振り上げる。
「くそっ!!止められるかっ!?」
風結が太刀を構える。
がしゃんっ!!
鉄が絡む音がした。
「きしゃあああああああっ!!」
「荊火っ!?」
嶺巴が叫ぶ。
荊火の鎖が牛鬼蜘蛛の腕に絡みつく。
蒼刃と風結が立ち上がる。
「駄目!荊火っ!!もういいから!」
「きしゃああっ!!」
「駄目、駄目だってぇ!!」
蒼刃が牛鬼蜘蛛めがけて走り出す。
「嶺巴っ!!」
がしゃんっ!!
牛鬼蜘蛛は腕に絡んだ荊火の鎖を引きちぎった。
「しゃああああっ・・・・・・」
荊火の体は宙に弧を描く。
青い血がぽつぽつと飛ぶ。
「荊火ーっ!!」
蒼刃が手を伸ばす。
その手は、届かなかった。
地面に荊火は叩きつけられる。
「ぐしゃぁっ!!」
「荊火っ!!」
駆け寄る蒼刃。
その蒼刃の背中めがけて牛鬼蜘蛛の太刀が振り下ろされる。
「させるかぁぁぁっ!!」
白結丸が叫び、一瞬で蒼刃と牛鬼蜘蛛の間に入る。
ぎいいん!!
ずざざざっ。
牛鬼蜘蛛の一撃を受け止めた風結は、その力に後ろへ押される。
「嶺巴!荊火を連れて離れろ!」
「荊火・・・・」
蒼刃は荊火の体を掬い上げると、走り出した。
「こいつ!!」
牛鬼蜘蛛はそのまま力で押してくる。
『力では勝てん!離れろ、白結丸!!』
「ああ!」
風結が、牛鬼蜘蛛の太刀を跳ね返そうとした時だった。
ふうううううううううっ・・・・・・。
・・・・・・なんだ!?
白結丸の意識が、何かに包まれた。
『い、いかん!!奴に取り込まれるなっ!!』
牛鬼蜘蛛の、牛鬼の目が赤く光る。
すると、緑色に光っていた牛鬼蜘蛛の御霊石がすべて赤の光に変わった。
◇
『おまえは何者だ?和邇賊ではないな。なぜ和邇賊を庇う?』
『和邇賊?何の話だ?』
『お前が庇った、あの娘たちだ。やつらは和邇賊の末裔。血を引いている。根絶やしにせねばならん!』
『・・・・緋家の血のことか。そんなもの、関係ない。おれがやるべきは、ミカナの父の仇を討つ、そして、父上と母上、兄上たち、緋家に虐げられたすべての人々の無念を晴らすことだ!』
『ならば、その敵はわたしと同じ。わたしの器になれ。ならば、永遠に生きる体にしてやる』
『そんなもの、興味はない!』
『抗えるのは今のうちだ。もう、おまえもわが術の中にいる。お前に力と命をやる。そのかわりに、わたしに精を納めよ』
『そんな話に、乗ると思うかっ!!』
『ふふふ・・・・言っているだろう?すでにおまえはわが術中だと・・・・』
◇
『な、何じゃっ!?御霊石が、赤くなる!?』
御霊石の中のミカナが苦しそうに顔を歪める。
『は、白結丸っ!!く、苦しいっ!!飲まれるなっ!!』
・・・・ミカナ。
『は・・・・・・白結・・・・・・丸・・・・・・・・・・』
なんだろう?
おれ、今・・・・・。
途方もないほど、怒りを感じている!!
何もかもが憎い!!
こんなにも、憎いなんて!!
緋家の血!!
奴らだ!
奴らが、父上を、そして母上を追い込んだ!!
宗矢兄上と凪舟兄上を殺し、宗近兄上を遠くへ追いやった!
そして今、この俺を殺そうとしている!!
何が気に入らない!!おれの何が気に入らないというんだ!!
もう許せない!!
緋家の血を引く者は全て許せない。
紀基、孝基、貞基!!
そして、紅羽、伊佐、時千代!!
殺してやる!!
おれが、この手で!!
絶対に、殺してやる!!
◇
「矢を拾っていたところ、牛鬼蜘蛛の真下へ入ってしまった。前後不覚」
宿儀の英醐は四つん這いで、落ちている竹の矢を矢筒に戻しながら、ふと上を見上げて驚いた。
牛鬼蜘蛛の腹の下がすぐ手に届くところにある。
・・・・・・矢。
地面に刺さっている矢を一本拾う。
「撃たずとも、刺せばよいのだ、竹の弓」
ざしゅっ!!
英醐は手に持った竹の矢を牛鬼蜘蛛の足の付け根に突き刺した。
ばきいいん!!
赤く光る御霊石が砕け散る。




