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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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64 風結ノ章 六十四

綾芽あやめの目前に迫った牛鬼蜘蛛が大きく太刀を振り上げると、綾芽めがけてその太刀を振り下ろす。


「姉様っ!!」


牛鬼蜘蛛が太刀を振り下ろした刹那、伊佐の杜若とじゃくが彩芽めがけて飛び込んだ。

綾芽はそのまま飛ばされて地面に転がる。



ざんっ!!

だが、牛鬼蜘蛛の太刀は杜若の右足を切り落とした。


「きゃぁぁぁぁっ!?」

伊佐の悲鳴が響く。


「伊佐ぁっ!!」

紅羽が叫ぶ。

綾芽は立ち上がろうともがくが、足が思うように動かない。


「うっ!!ああああっ!!」

伊佐が痛みに悶える。


「伊佐!伊佐っ!!」


「に、逃げてっ!!紅羽姉様っ!」



牛鬼蜘蛛が再び太刀を振り上げる。



「駄目!伊佐!諦めては駄目っ!!」


綾芽が地面を這って、必死に手を伸ばす。


「あ、姉様っ!!」


杜若も彩芽に向けて手を伸ばす。


指先が触れ合う。


牛鬼蜘蛛は、杜若めがけて太刀を振り下ろした。



その瞬間、杜若の腕を掴んだ彩芽が杜若を力一杯引き寄せる。




ざんっ!!




牛鬼蜘蛛の振り下ろした太刀は、杜若のいなくなった地面に斬り跡をつけた。


「姉様っ!!」

「伊佐・・・・」




ひゅん!



その瞬間、牛鬼蜘蛛の肩に何かが飛んできた。


かん!


乾いた音がして、それは跳ね返されて地面に落ちた。


竹の矢。



「まいった。矢が効かん。鉄壁、堅固」


牛鬼蜘蛛が崩した瓦礫の上に立つ英醐えいご



牛鬼蜘蛛は英醐へ向けて腹の先端を向けると、白い液体を放出した。


びしゃあああっ!!



「お!?なんだ!」


それを横へ跳んで逃げる英醐。




跳びあがりざまに次の矢を放つ。


その矢は牛鬼蜘蛛の上を大きく外れていった。


「むう、やはり難題山積なんだいさんせきっ!!」





「大丈夫か、伊佐、紅羽!!」


白結丸の風結が倒れている杜若と彩芽の前に立つ。


「白結丸様っ!!うっ!!」


杜若の右足が切り落とされている。


「白結丸!わたしは無事だ!杜若を、伊佐を!!」

紅羽が叫ぶ。



「・・・・・・よくも!」


風結は牛鬼を見上げる。


「よくも、伊佐をこんな目にっ!!おまえが何だかわからないが、絶対に、ぜぇぇぇったいに許さないっ!!」




「・・・・白結丸様・・・・・」


伊佐が風結を見上げる。

その風結は、牛鬼蜘蛛に向かい、太刀を構える。



次の瞬間、風結の体は牛鬼蜘蛛の目の前に飛んだ。


あまりの速さに牛鬼蜘蛛は対応が遅れる。


慌てて太刀を構える。


だが、風結の太刀は牛鬼の体へ振り下ろされる。


きいん!!


だが、固い体にはじき返される。



ずんっ!!


風結は地面に降り立つと、すぐに地を蹴って跳び上がる。


牛鬼蜘蛛も風結めがけて太刀を振る。


きいいんっ!!


両者の刃が重なって火花が散った。


そのまま、風結は強引に刃を押し込む。


「うりゃあああっ!!」


気合一閃、風結の刃は牛鬼の角を一本切り落とした。



「ぐおおおおっ!!」



牛鬼蜘蛛から人が呻く声がする。




風結はそのまま牛鬼蜘蛛の腹の上に飛び乗ると、思い切りそこへ太刀を突きさした。


ざんっ!!


「がはああっ!!」


またも声がする。



『人が乗っておるようじゃな!』

「なら、こいつも霊力れいりきで動いているんだな!?」

『じゃが、底なしの霊力を感じる!霊力切れは期待できんのじゃ!』

「おれたちと同じ、繰り手以外に霊力を流している妖がいるってことだな!」

『嶺巴の見た女の妖で間違いないじゃろうな!』

「固くて刃が通らない!どうすればいい?」

『御霊石を狙え!緑に光っておるところじゃ!』

「なるほど!さすがミカナ!」

『褒めるな・・・・照れるのじゃ』

「いくぞっ!!」


『じゃが、おれは妖じゃないぞ!』

「わかってる!」



「やっと着いたっ!!」

やっと到着した嶺巴の蒼刃。


「・・・・嶺巴、もう戦いに遅れないんじゃなかったのかよっ!?」


「白結丸があたしを置いてったからだろっ!!」


「ついてきてると思ってたんだよっ!」


「なによ、もっとちゃんとあたしのこと見てなさいよ!!」


「・・・・え?」


「あたしだって、白結丸がいないと心細いんだからっ!!」



・・・・・。



・・・・・。



「ちゃんと・・・・見てるさ・・・・・」

「・・・・・・そりゃ・・・・ごめん・・・・・」




『こりゃ!そんなことしとる場合か!』

「あ、ああ!そうだった!嶺巴!宿儀!あいつの御霊石、緑色に光ってるところを狙うんだ!」


「承知!」

「・・・・あはは、あいよっ!」



「と、言ったとて・・・・・」

宿儀はつぶやく。

英醐は矢を番え、弓を引き絞る。


「行けっ!」


矢を放つ。


ひゅううう・・・・・。


しなりながら竹の矢は跳んでいく。



かん!



狙った御霊石とは違うところへ当たり、跳ね返って地面に落ちる。


「・・・・・・隔靴掻痒かっかそうよう!!」


地団駄を踏む英醐。






「姉様たち!」


動けない彩芽と杜若のところへ時千代の金冠が走ってくる。


「時千代!」

「・・・・・時・・・・」


「近くの民たちは逃げてもらいました!兵たちも無事です。姉様たちも、わたしが運びますね!」


「すまない、時千代・・・・」

「大丈夫です!・・・・しかし、近くで見るといっそう不気味ですね」


金冠は彩芽と杜若を肩に背負う。


「あんなものに立ち向かっていくなんて、姉様たちはすごいです!やっぱりわたしの自慢の姉様方ですね!」




「・・・・・・」

紅羽は息を飲んだ。


・・・・時千代が、急に男らしく見えた。


あの、かわいい時千代が。


幼くて、丸っこくて、ふわふわで、人懐っこい笑顔の・・・・。


あの時千代が・・・・。



・・・・かっこいい!?




「時、こういう時にそう言うこと言うの、恥ずかしいからやめなさいね?」


「はあい」

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