62 風結ノ章 六十二
「皆秀、直してやれるだろ?頼むよ・・・・」
荊火の体は、足は折れ、管は外れて青い血を噴き続けていた。
「嶺巴殿・・・・すみません。ここには小御体の部品がないんです。すでに羅城門と一緒に崩れてしまいました・・・・」
「そんな、そんなことないだろっ!?荊火は、死ねないんだよ!?こんなにばらばらになって、血をいっぱい吐いて、それでも死ねないんだ!助けてやらなくちゃ、ずっと苦しいままじゃないか!」
「嶺巴・・・・」
白結丸が嶺巴の肩に手をやる。
「だって、だって!荊火!妹に会いたいんだろ!?あたし、きっと、その妹に似てたんだろ?・・・・だから・・・・だからっ!」
嶺巴は荊火のそばにしゃがみ込むと、涙をこぼし続けた。
「ごめんな、何もしてやれない!あたし、妹じゃなかった!ごめんな、荊火!」
「す・・・・・み・・・・・・」
・・・・しゃべった!?
嶺巴以外は全員が驚く。
「何だい、荊火?」
「お・・・れ・・・・を・・・・死なせて・・・・く・・・・れ・・・・・」
「そんなこと、そんなこと言うんじゃないよ!」
「も・・・・う・・・い・・・い・・・・」
「馬鹿言うなってのさ!!あんた、妹に会いたいって言ってたじゃないか!」
「この・・・・か・・・ら・・・だ・・・・み・・ら・・れ・・・た・・・・・・・くな・・・・・い」
「何言ってるんだ!わかってくれるよ!!」
「し・・・・・に・・・・・たい・・・・・・・」
「嶺巴、荊火は苦しんでる。苦しんでいる姿を妹に見られたくないんだろう」
白結丸がそっという。
「なんで・・・・なんでこんな・・・・・・」
「白結丸の言う通りじゃ、嶺巴。知らない方が幸せなことだって、世の中には往々にしてある。わかってやらねば、荊火が可愛そうじゃろ。それに、その悪意のある霊力の持ち主が、この屋敷の奥におる。あいつを倒さないと荊火は幸せになれん」
ミカナが言うと、嶺巴の目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれた。
・・・・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「そうだね・・・・・・」
長い沈黙の後、嶺巴は立ち上がった。
「荊火、ごめん。あたし、やっぱり妹じゃないわ」
袖で涙を拭う。
「兄様のこと、幸せに死なせてあげたいなんて思う妹、嫌だろ?」
◇
「おかしいね、確かにこの部屋だったんだよ?」
白結丸と嶺巴、宿儀の三人は、嶺巴が夜和を見た部屋に来ていた。
「誰もいないな・・・・」
「何もない。雲散霧消」
「もしかしたら・・・・因幡国府かもしれないね・・・・」
「国府?」
「ああ。夜和という妖と一緒にいた男、ミカナの父様の仇の息子なんだ」
「富士江か?」
「そう。さっきの緋道明も、紅羽たちも門前払いしたんだ。何か隠してる!」
「・・・・紅羽たちも来ているのか?」
◇
・・・・和邇賊の末裔がひとつ減った。
だが、感じる。
和邇賊の血を引く者たちがまだ近くにいる。
今、この男を使わねば。
このまま、和邇賊の末裔を根絶やしに・・・・。
◇
「そろそろここも潮時か・・・・」
朽平は荷物をまとめていた。
六原を飛び出してから、思う存分、戦御体を作らせてくれる雇い主を探して因幡まで来た。因幡の富士江という家は羽振りがいいと聞いたからだ。
たしかに、これ以上ないものを作らせてくれた。
知る限り、これほどのものを作り上げた御体匠はいない。
今後も出てこないだろう。
間違いなくあの常秀などでは考えもしないものだ。織部もおれには届かない。あの楠慶秀さえ超えたのではなかろうか。
六原ではこの先も作ることのできないものだ。
この”土蜘蛛”は人が作りえた最大にして最高の傑作だ。
◇
朽平が御造所を出るために荷造りを済ませた時、急に人の入ってきた音がした。
「誰だ?」
音のした方を見ると、裸の男がひたひたと歩いている。
「若殿か?どうした、そんな恰好で?」
「・・・・・・」
「おい、しっかりしろ?」
気のせいか、目が赤い。赤く光っているように見える。
ひた、ひた、ひた、ひた・・・・。
「おい!どこへ行く?」
成正が歩いていく先には、戦御体・土蜘蛛の繰り座がある。
「おい、土蜘蛛はまだ・・・・・」
朽平が成正の肩に手をかける。
・・・・冷たい。
その体は異様なほど冷たく、青白かった。
まるで、死人だ。
だが、歩いている。
そして突如、成正の体が宙に浮いたかと思うと、土蜘蛛の繰り座へ吸い込まれるように入って行った。
そして繰り座の蓋がひとりでに閉まる。
土蜘蛛の全身に散りばめられた御霊石のすべてが、鈍く光り出した。
そしてゆっくりと光が増して、暗い御造所の中が、緑色の光で満たされた。
「くっ!?何なんだ?憑りつかれているのかっ!?」
・・・・・・もう、関わらない方がいい。
朽平の直感がそう告げた。
◇
「紅羽姉様、眠れませんか?」
「伊佐・・・・」
伊佐は夜風に当たっていた紅羽の隣に腰を下ろした。
「もう、六原には帰らないと決めたところで、これからどうすればよいのかと考えていた」
「・・・・そうですか。紅羽姉様は本当に父様に似ていますね」
「・・・・母様にも言われたました。でも、伊佐にまで言われるとは」
「わたしも、もっと旅をしたいです」
「白結丸についていきたいのだろう?」
一気に伊佐の顔が赤くなる。
「な、何を?姉様、突然!?」
「わかっている。何年、伊佐のことを見てきたと思っているんだ?」
・・・・母様に言われるまで気づかなかったけど。
「い、いえ、そんな・・・・でも、あの・・・・・」
伊佐が体をくねくねさせる。
・・・・あははは(汗)
・・・・・・・・。
?
・・・・・・・。
ず、ず、ずん・・・・・・。
ず、ず、ずん・・・・・・・。
ず、ず、ずん・・・・・・・。
「何の音?」
ず、ず、ずん・・・・。
ず、ず、ずん・・・・。
「何か、近くなっています」
ず、ず、ずん・・・・。
「紅羽姉様、あれ・・・・」
伊佐が遠くを指さす。
紅羽もそちらを見ると、息を飲んだ。
「はっ!?」
「山が、こっちへ来ます・・・・・」
伊佐が小さな声でつぶやいた。




