60 風結ノ章 六十
道明の腕めがけて鎖が鞭のように飛んでくる。
びしゃあっ!!
道明は咄嗟に嶺巴を離すと、荊火の鎖は道明の手を掠める。
「な、な、なんだ?こいつは!?」
屋敷の暗闇から、上半身は男、下半身は蜘蛛のような六本足の男がこちらへ向かって来る。
「きしゃあああっ!!」
道明へ向けて両腕の鎖を振るう。
「くっ!?」
慌てて刀を抜く道明。
きいん!!
荊火の鎖を刀で跳ね返す。
「おい!おれは護堕天で出る!おまえたち、こいつを押さえていろ!!」
「はっ!!」
道明配下の兵たちが荊火を取り囲む。
「い、今のうちに!!」
嶺巴は蒼刃めがけて走り出す。
「きしゃああああっ!!」
「うわぁつ!?」
「な、なんだこいつ!」
「化け物だっ!?」
後ろの方で声が聞こえる。
「荊火・・・・戻ってくれるといいけど・・・・」
嶺巴は森の中へ飛び込むと、蒼刃の繰り座へ滑り込む。
御霊石を握ると、意識が同化して蒼刃自体が嶺巴の体となる。
「待ってな荊火!今、元に戻してやるよっ!!」
蒼刃が森の木々を揺らしながら立ち上がった。
◇
「きしゃあああっ!!
ぎゅんっ!!
「うわぁっ!?」
荊火が振り回す鎖に弾き飛ばされる兵たち。
荊火を囲んでいた兵たちも、あっという間に四人、三人と減っていった。
「きしゃあああっ!!」
荊火が吼える。
ずうん、ずうん・・・・。
暗い草原の中に、黒紅色の戦御体の陰が現れた。
「お前たち、どいていろ!こいつはおれが片づける!」
護堕天。
長くすらりと伸びた手足と、鋭く光る眼光。
他の戦御体より一回り大きな体躯は夜の闇の中、圧倒的な威圧感を放つ。
「きしゃああっ!!」
「来い!出来損ないめ!!」
荊火が地面を蹴り跳び上がる。
その瞬間、護堕天はすっと動いた。
腰の太刀を抜いた瞬間、荊火めがけて振り下ろす。
ぎん!!
「きしゃあああっ!!」
荊火が苦痛で吠えた。
荊火の右肘から先が宙に舞う。
失った右腕から青い血が滴り落ちる。
「きしゃああああっ・・・・!!」
「ふふふ!この護堕天、やはりそこらの戦御体とは違う!」
「うりゃああっ!!」
護堕天が太刀を振り上げて荊火めがけて踏み込む。
「きしゃあっ!!」
荊火は地面を蹴って飛び上がる。
「もらったぁつ!!」
ばきゅっ!!
「きしゃあああああああつ!?」
荊火の右側の足三本が斬られる。
ばらばらになった足と体は、勢いを失って地面に叩きつけられる。
ずしゃっ!
「きしゃああああっ!!」
痛みに悶える荊火。
「おら、どうした!!人と虫の間の分際で、おれに向かってきたのが運の尽きだ!」
護堕天は地面をのたうち回る荊火を蹴り飛ばす。
「しゃおうっ!?」
地面を転がる荊火。
「ぐふっ!?ぐえつ・・・・」
草原に青い血が広がる。
荊火の口からも吐血する。
「残念だが、おれはお前のような気味の悪い奴にかまっている暇はない!死ねい!!」
護堕天は上から太刀を、荊火めがけて振り下ろした。
きいいいいいん!!
「やらせないよぉっ!!」
「貴様っ!!」
嶺巴の蒼刃の太刀が、護堕天の太刀を受け止める。
「お前、またおれとやり合う気か!あのときの魁怨のようにはいかんぞっ!!」
「何だろうと関係ないっ!!あたし、あんたみたいなしつこいやつが嫌いだからねっ!!」
「ほざけっ!!」
護堕天は後ろへ跳ぶと、地面に着くなり地を蹴って再び前へ跳ぶ。
「速いっ!?」
蒼刃は地面を転がって護堕天の一閃を避ける。
「・・・・・・なんだ、こいつ!?前の奴とは、違う!?」
「当たり前だぁぁぁぁぁっ!!」
護堕天が太刀を蒼刃めがけて振り下ろす。
ぎいん!!
それを何とか受け止める。
「まだだっ!!」
護堕天は間髪入れず、何度も何度も蒼刃めがけて太刀を振り下ろす。
ぎいん!ぎいん!ぎいん!!
「くそっ!?これじゃあ・・・・・」
その時。
じゃらっ!!
護堕天の太刀を持つ両腕に鎖が絡みついた。
「きしゃ・・・・ああ・・・・・!!」
「荊火っ!!」
「こいつ、まだ動けるのかっ!?」
護堕天は鎖が絡みついた両腕を振り回す。
荊火はそのまま引っ張られ、宙を舞う。
「荊火っ!!」
蒼刃は立ち上がって護堕天めがけて太刀を突く。
「おりゃああっ!!」
護堕天が荊火の鎖を持って、蒼刃めがけて振り下ろす。
ぐしゃっ!!
荊火は蒼刃めがけて叩きつけられる。
「うあっ!!」
「しゃああっ!?」
蒼刃も、そのまま後ろへ倒れ込む。
「くっ!大丈夫かい、荊火!!」
地面に倒れ込んだ荊火は動く気配がない。
「待ってな!あとで皆秀に直してもらうから!!」
立ち上がる蒼刃。
「まだやるか?まだ、お前の戦御体と、護堕天との力の差がわからんのかっ!?次は命がないと思え!」
「わかってないのはあんただよっ!戦御体が強ければいいんじゃない!操る人で強さが決まるんだよぉっ!!」
蒼刃は再び太刀を構えて護堕天へと突っ込む。
「もう、死なせてやるっ!!」
護堕天が太刀を振り上げた。
護堕天と、蒼刃。
二体が同時に太刀を、お互いに向けて振り下ろした。
「・・・・同時なら、護堕天が早いっ!!」
道明が叫ぶ
「負けるかーっ!!」
嶺巴が雄叫びを上げた。
護堕天の太刀が、蒼刃の肩に突き刺さった。
「うわあああああああっ!!」
嶺巴の悲鳴が響いた。
次の瞬間。
「くうっ!?」
蒼刃の太刀は護堕天の額に傷をつけた。




