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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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60 風結ノ章 六十

道明どうみょうの腕めがけて鎖が鞭のように飛んでくる。


びしゃあっ!!


道明は咄嗟に嶺巴を離すと、荊火いばらびの鎖は道明の手を掠める。


「な、な、なんだ?こいつは!?」


屋敷の暗闇から、上半身は男、下半身は蜘蛛のような六本足の男がこちらへ向かって来る。


「きしゃあああっ!!」


道明へ向けて両腕の鎖を振るう。

「くっ!?」

慌てて刀を抜く道明。


きいん!!


荊火の鎖を刀で跳ね返す。


「おい!おれは護堕天で出る!おまえたち、こいつを押さえていろ!!」


「はっ!!」


道明配下の兵たちが荊火を取り囲む。



「い、今のうちに!!」

嶺巴は蒼刃そうじんめがけて走り出す。



「きしゃああああっ!!」


「うわぁつ!?」

「な、なんだこいつ!」

「化け物だっ!?」



後ろの方で声が聞こえる。


「荊火・・・・戻ってくれるといいけど・・・・」


嶺巴は森の中へ飛び込むと、蒼刃の繰り座へ滑り込む。

御霊石を握ると、意識が同化して蒼刃自体が嶺巴の体となる。


「待ってな荊火!今、元に戻してやるよっ!!」


蒼刃が森の木々を揺らしながら立ち上がった。






「きしゃあああっ!!


ぎゅんっ!!


「うわぁっ!?」


荊火が振り回す鎖に弾き飛ばされる兵たち。


荊火を囲んでいた兵たちも、あっという間に四人、三人と減っていった。


「きしゃあああっ!!」


荊火が吼える。



ずうん、ずうん・・・・。


暗い草原の中に、黒紅色の戦御体の陰が現れた。

「お前たち、どいていろ!こいつはおれが片づける!」


護堕天ごだてん


長くすらりと伸びた手足と、鋭く光る眼光。

他の戦御体より一回り大きな体躯は夜の闇の中、圧倒的な威圧感を放つ。


「きしゃああっ!!」


「来い!出来損ないめ!!」


荊火が地面を蹴り跳び上がる。


その瞬間、護堕天はすっと動いた。

腰の太刀を抜いた瞬間、荊火めがけて振り下ろす。


ぎん!!


「きしゃあああっ!!」


荊火が苦痛で吠えた。


荊火の右肘から先が宙に舞う。



失った右腕から青い血が滴り落ちる。




「きしゃああああっ・・・・!!」



「ふふふ!この護堕天、やはりそこらの戦御体とは違う!」


「うりゃああっ!!」


護堕天が太刀を振り上げて荊火めがけて踏み込む。

「きしゃあっ!!」

荊火は地面を蹴って飛び上がる。


「もらったぁつ!!」


ばきゅっ!!


「きしゃあああああああつ!?」


荊火の右側の足三本が斬られる。

ばらばらになった足と体は、勢いを失って地面に叩きつけられる。


ずしゃっ!


「きしゃああああっ!!」


痛みに悶える荊火。



「おら、どうした!!人と虫の間の分際で、おれに向かってきたのが運の尽きだ!」


護堕天は地面をのたうち回る荊火を蹴り飛ばす。


「しゃおうっ!?」


地面を転がる荊火。


「ぐふっ!?ぐえつ・・・・」


草原に青い血が広がる。

荊火の口からも吐血する。


「残念だが、おれはお前のような気味の悪い奴にかまっている暇はない!死ねい!!」


護堕天は上から太刀を、荊火めがけて振り下ろした。




きいいいいいん!!




「やらせないよぉっ!!」


「貴様っ!!」


嶺巴の蒼刃の太刀が、護堕天の太刀を受け止める。


「お前、またおれとやり合う気か!あのときの魁怨かいおんのようにはいかんぞっ!!」


「何だろうと関係ないっ!!あたし、あんたみたいなしつこいやつが嫌いだからねっ!!」


「ほざけっ!!」



護堕天は後ろへ跳ぶと、地面に着くなり地を蹴って再び前へ跳ぶ。


「速いっ!?」


蒼刃は地面を転がって護堕天の一閃を避ける。


「・・・・・・なんだ、こいつ!?前の奴とは、違う!?」


「当たり前だぁぁぁぁぁっ!!」



護堕天が太刀を蒼刃めがけて振り下ろす。



ぎいん!!



それを何とか受け止める。


「まだだっ!!」


護堕天は間髪入れず、何度も何度も蒼刃めがけて太刀を振り下ろす。



ぎいん!ぎいん!ぎいん!!



「くそっ!?これじゃあ・・・・・」



その時。


じゃらっ!!


護堕天の太刀を持つ両腕に鎖が絡みついた。


「きしゃ・・・・ああ・・・・・!!」


「荊火っ!!」


「こいつ、まだ動けるのかっ!?」


護堕天は鎖が絡みついた両腕を振り回す。


荊火はそのまま引っ張られ、宙を舞う。


「荊火っ!!」


蒼刃は立ち上がって護堕天めがけて太刀を突く。


「おりゃああっ!!」


護堕天が荊火の鎖を持って、蒼刃めがけて振り下ろす。


ぐしゃっ!!

荊火は蒼刃めがけて叩きつけられる。

「うあっ!!」

「しゃああっ!?」


蒼刃も、そのまま後ろへ倒れ込む。



「くっ!大丈夫かい、荊火!!」


地面に倒れ込んだ荊火は動く気配がない。



「待ってな!あとで皆秀に直してもらうから!!」



立ち上がる蒼刃。



「まだやるか?まだ、お前の戦御体と、護堕天との力の差がわからんのかっ!?次は命がないと思え!」


「わかってないのはあんただよっ!戦御体が強ければいいんじゃない!あやつる人で強さが決まるんだよぉっ!!」



蒼刃は再び太刀を構えて護堕天へと突っ込む。


「もう、死なせてやるっ!!」


護堕天が太刀を振り上げた。




護堕天と、蒼刃。


二体が同時に太刀を、お互いに向けて振り下ろした。



「・・・・同時なら、護堕天が早いっ!!」

道明が叫ぶ



「負けるかーっ!!」

嶺巴が雄叫びを上げた。




護堕天の太刀が、蒼刃の肩に突き刺さった。


「うわあああああああっ!!」


嶺巴の悲鳴が響いた。


次の瞬間。


「くうっ!?」


蒼刃の太刀は護堕天の額に傷をつけた。

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