表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/239

57 風結ノ章 五十七

「・・・・やっぱり何が何だかわからないねぇ」

嶺巴は首をひねった。


「ちょっと、言葉を修練してみようか?」

「しゃああ!!」

「あたし、あ・い・ば・れ・い・は」

「す・・・・・み・・・・・」

「いや、そうじゃなくて」

「しゃあああああ・・・・・」

「うん、駄目だね。こりゃ」


嶺巴は深く息を吐いた。

「それで、そのすみって誰なんだい?あたしに似てるのかい?」

「・・・・・・・・」

・・・・やっぱりわからないね。


「あ、出てきたよ!」


翌日の朝も、同じように男は廃屋敷から出てきた。


「行くよ!追いかけよう!」


「しゃああ!」


そう言うと、荊火は嶺巴の股の下に潜り込み、持ち上げて肩車する。

「ちょ、ちょっと!そうじゃないでしょっ!ひゃあっ!!」


そのまま荊火は六本足で地面を蹴って飛び上がり、木の枝を跳び移りながら男の馬を追う。


「うえっ!うはっ!?おほおっ!」


枝から枝へ跳び移るたびに嶺巴が呻き声をあげる。







「すでに因幡へ入ってしまったではないか。間違いないのか!?」

緋道明ひどうみょうは苛立ちが隠せない。

「わかりません。ですが、霞の末子が西へ向かっていたのは、これまでの街道の進み方からして間違いないでしょうな」

坂忠房さかただふさは道明の苛立ちなど意にも介さないように答える。


役人を二十人ほど。御体車に護堕天ごだてん、中御体を二体連れて但馬出石の国府を出た。

それから街道沿いに霞の末子の痕跡を追っているが、一向にその痕跡は見つからない。


「忠房殿、別にお主が付いてくることなどなかろうに」


「何を言いますか。もしものことがあれば、護堕天を回収しなければ。これは使い捨ててよいものではないので」


「・・・・・おれが負けるとでも言いたいのか?」


「ですから、もしもの話ですよ」


「・・・・・・」


「それに、御体守みたいのかみとして、すべて見届けなければ六原様に報告できませんのでね」


「・・・・食えない奴だな」


「それと、約定を守ってもらわなくてはいけませんからね」


「わかっている!!手柄はくれてやる!」


「ですが、その前に、その手柄を上げてくださいよ」


「当たり前だ。そのためにここまで来たのだろう」

いちいち喋るたびにこちらの神経を逆なでする。本当にいけ好かない奴だ。


「ともかく夜通しの進軍で兵も馬も疲れています。こうなれば因幡国府に立ち寄り、そこで休ませていただきましょう。霞の末子のことも聞けるかもしれません」


「・・・・それを決めるのはおれだ」


「では、反対なさいますか?」


「いや、そうしよう」

苦虫を嚙み潰したような気分だ。







「・・・・あの屋敷に入っていったね」


男の後を追ってきた嶺巴と荊火は、物陰から男が屋敷の門をくぐる様子をそっと見ていた。


「・・・・それにしても大きなところだね。屋敷というよりは・・・・国府?」


「・・・・・・」


「門兵がいるから、あたしが探ってくるよ!」

そう言って嶺巴が跳び出そうとした。


「しゃっ!」


その嶺巴の足に、荊火の鎖が巻き付く。


べちゃっ!!


「ふぎゃっ!?」


地面に突っ伏して顔から倒れる嶺巴。


「ちょっと!何すんのっ!?」


「・・・・・・」


無言で荊火が見る先に、屋敷へ近づいてくる一団があった。


「・・・・・・なんだい?こんな朝早く」


その一団は門兵としばらく何かやり取りをしていたが、あきらめたのか怒鳴り散らしながらどこかへ下がって行った。


「・・・・・・あの男、どこかで見た気がするけど」


腕を組んで首をひねる。


「・・・・・・思い出せない!まあ、いいか。今度こそ行くよ!」


嶺巴が勢いよく飛び出す。


「しゃっ!」


ばたっ!


べちっ!!


「うぎゃっ!?」

またも荊火の鎖が嶺巴の足に巻き付いた。


「何でまた同じことすんのっ!!」


「しゃっ」


屋敷の方を見る。



「・・・・今度はなに?」


またも屋敷に近づいてくる一団がある。


「あれは・・・・紅羽じゃないか!?」





「今はたとえだれであってもお通しするなと言われておりますので」


「わたしたちが誰だかわかった上で言っているのか?」


「はい。もちろん承知しております」


「それは、六原いや、朝廷に対して因幡国府が矢を射るのと同じことだぞ?」


「ですが、国司殿からお通ししてはならぬと言われております!」


「そうか、わかった。この事は六原へ知らせておく」


「何卒、ご容赦を!」



・・・・因幡国司・・・・確か、富士江だったか?見られてはならないものを隠している?


「姉様、どうでしたか?」

伊佐が紅羽に聞く。

「いや、門前払いだ」

「・・・・そんなこと、ありますか?」

伊佐も驚きの顔だ。


「うむ。何かおかしいな」

紅羽は顎に手を当てる。

「それに、つい先ほど道明殿が来て、同じように追い返されたそうだ」

「・・・・ああ、追いつきましたね!夜通し進んできた甲斐がありました!」

嬉しそうな伊佐。

「では、先に白結丸様を見つけないと!!」


「とはいえ、どこを探せばよいものか?」


「紅羽姉様!」

時千代が声をかけてくる。

「どうした、時千代!」

「紅羽姉様、兵も馬も疲れております。どこかで休みましょう」

そういう時千代もかなり疲れた顔。


・・・・そんな時千代も、かわいい。

膝枕してあげたい。いや、してほしい。


「よし、どこか休めるところを探す。さきほど寺があったな。引き返そう!」


「えー、白結丸様はっ!?」

「とりあえず休んでからにしなさい!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ