56 風結ノ章 五十六
「なあ、阿義。こいつがおれたちの仲間になりたいそうだ」
そいつを連れてきたのは伏良だ。
「なんだ、そいつ?ひょろひょろだが、大丈夫か?」
「なんでも、東雲山にいたらしい。焼き討ちにあった時に、逃げ出してきたんだと」
伏良がそう言うと、石榴がそいつをじろじろ見て言った。
「あたしの見立てじゃ、まあ、役には立たないね」
「名前はあるのか?」
「・・・・叢方・・・・」
とても小さな声でぼそりと言った。
「東雲山ってことは、もともと僧侶か。大丈夫か?おれたちは賊だぞ?」
「かまわない。緋家・・・・朝廷に復讐したい」
「ほう、朝廷とは大きく出たねぇ!」
「石榴、茶化すな」
「あいよ」
「まあ、碌な死に方はできないと思うが、仲間はひとりでも多い方がいい」
◇
おれたちは皆、緋家の横暴でまともに暮らせなくなった家の者ばかりだった。
おれと伏良、叩造、紅一点の石榴。
最初は四人だけだった。
緋家一門の牛舎を襲ったり、屋敷に火を放ったり、くだらない嫌がらせくらいのことを繰り返していた。
それが知らないうちに仲間が増え、だんだん大きくなってきた。
おれたちは”滅創衆”と名乗った。
「すべてを滅して新しい世を創るんだ」
おれが言うと、皆がはぁ、とため息をついた。
「・・・・そこまで大げさなもんなの?」
石榴は相変わらずだ。
「いや、名前は大切だ。この名を残していけば、いつか同志が増え続ける」
そう言ったのは伏良だ。
「まあ、いいんじゃねえか!?仲間も増えてきたことだしな!」
「もう、ちまちま牛車なんて襲っているんじゃいつまでたっても埒が明かない!滅創衆の名を世に知らしめなきゃな!」
おれが言うと、皆が讃えてくれた。
「そうだ!!」
「紀基を討つぞ!!」
それが、おれを勘違いさせた。
あるとき、六原を襲った。
◇
「くそっ!みんな、やられちまった!!」
叩造が悔しそうに怒鳴った。
「まだ、おれたちには早かったか・・・・」
伏良も奥歯を噛みしめている。
「もう一度、出直しだ・・・・すまない、皆」
「何言ってんだよ、阿義のせいじゃないだろ?」
石榴が言った。
ともかく、もう都にはいられない。
おれたち四人は残った数人の仲間を連れて、西へ逃げた。
その中にあの叢方はいなかった。
◇
おれたちはかなり遠くまで来た。
何という土地だかわからないが、古い屋敷を見つけ、そこをねぐらにした。
「いつまでもこんなところにいたんじゃ、緋家を倒すなんて夢のまた夢だよ」
石榴はいつも持て余していた。
「しかし、まだ人数が足らん。緋家を討つとなれば、一国並の兵力がいる」
伏良はいつも冷静だった。
六原へ攻め込むと言った時も、唯一反対したのは伏良だ。
「こんな山の中で山賊の真似事をしてるほかないのかねぇ」
「そう言うな、石榴。また最初からやり直すしかあるまい」
叩造がそう言った。
◇
「夜和、おれたちが六原を攻め込むときには、お前もおれについて都へ来い」
おれは毎夜、夜和のところへ通った。
「あら、わたしはここを出るわけにはいきません」
「どうしてだ?」
「ふふ。わたしはこの土地を守っているものですから」
「おかしなことを言うなぁ。まるで鎮守か里神のようだ」
「あら、そんなようなものです」
夜和は切れ長の目を光らせて、少しだけ口元で笑った。
今、思えば、いつから夜和はおれと一緒にいたのか?
当たり前のように、毎日床を共にしていた。
その時、すでにおれは取り込まれていたのだろう。
◇
「阿義!すごい話を聞いたよ!!緋孝基が、もうすぐ西国遠征でこの近くの街道を通るらしいよ!!」
石榴が町で噂を聞きつけたらしい。
「なんと!?」
「まことか!?」
叩造と伏良も声を上げた。
「孝基と言えば紀基の次郎、首を上げれば滅創衆の名をあげることが出来るよ!」
石榴が言った。
皆がおれを、期待の目で見た。
「よし、山賊や落ち目の武家でも何でもいい!仲間を集めよう!」
おれも、また調子に乗った。
◇
仲間はすぐに集まった。その数、二百人。
「よし、おれたちで緋孝基を討つ!!滅創衆の名を世に知らしめる!!」
◇
所詮は寄せ集めの烏合の衆だ。
訓練された兵たちに敵うはずもない。
そのうえ、相手には戦御体があった。
その頃、戦御体などというものは誰も知らなかったが。
「もうだめだ、阿義!おまえだけでも逃げろ!」
「伏良!」
叩造は《《あれ》》に踏み潰されて、血と肉となって飛び散った。
石榴は全身に矢を撃たれ、目を開けたまま息絶えた。
伏良はひとり、おれを逃がすために残った。
おれは走った。
気が付くと辺りは暗く、月が出ていた。
「夜和!!」
気が付くといつものように、夜和のところへ来ていた。
「あら、緋家の首は取れましたの?」
「いや、おれたちは負けた!一緒に逃げよう!」
「なぜですの?言ったでしょう、わたしはここを離れない」
「もうそこまで緋家の軍が来ている!おれを追って・・・・」
その瞬間だった。
どおおん!!
轟音とともに、屋敷の屋根が崩れた。
「ぐはぁっ!?」
紀基の戦御体の腕が、おれの下半身を潰した。
「う、うがっ・・・・うがっ・・・・・」
意識が薄れる。
もう、駄目か。
すみ、もう一度会いたかった。
兄として、母様のかたきをとってやりたかった・・・・。
◇
「・・・・まだ死ねないのですか?」
・・・・夜和?
「ならば、永遠の命をあげましょう」
?
「その命で、この世を変えてみせなさい・・・・」
全身に、血が巡った。
何かが目覚めた。
「う、うがぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・」
それが、自分が出している声だと気づくまで、少し時間がかかった。
◇
「孝基様!こいつが・・・・」
「なんだ?」
唐から持ち帰った戦御体。
首はなく、腕や脚は異様に太い。人型、とは言い難い姿をしていた。
そこから孝基の声がした。
「体を半分失っているのに生きています」
「なんと・・・・」
「妖でしょうか?」
「・・・・もしや、使えるかもしれん。そいつを六原へ運び、幻丈へ渡せ。小御体に使えるものを見つけたと言ってな!」
「・・・・え・・・・はい・・・・」
「これを・・・・運ぶのですか・・・?」




