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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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53 風結ノ章 五十三

ひゅるるるるる・・・・・。


どすっ!!


飛んできた竹は的を大きく外れ、地面の土に突き刺さった。


「やはりだめですね、まっすぐ飛びません!」

皆秀は首を横に振った。


「矢が軽い!しなり過ぎる!曲がっている!問題もんだい山積さんせき!」

宿儀が声を上げる。


そこには、宿儀が作り出した戦御体・英醐えいごが弓を持って立っている。

御霊石が手に入り、宿儀の作り出した戦御体は無事に動いた。

だが、それからも皆秀と宿儀の改良が続き、宿儀の得意な弓を使う戦御体にするために軽量化の改造が日夜問わず行われた。


ちなみに”英醐”という名前は、「とにかくすばらしいもの」という意味らしい。


「まあ、そうですよね。ただの竹ですから!」


「ようやく弓が出来たと思ったら今度は矢かい?」

嶺巴が皆秀に声をかける。

「嶺巴殿、あまり近づくと今度は英醐に抱き着かれますよ!」

「だって、退屈でさぁ」

「まあ、弓を作るだけでも大変でしたからね・・・・」


皆秀が見る先には、無数の巨大な弓の残骸。

「ほとんどが戦御体の力に耐えられなくて・・・・」


「木を削ったらいいじゃないか。普通の矢みたいに」

「そんなことしたら、十本作るのに何日もかかってしまいます!」

「でもねぇ、宿儀ほどの腕があってもこれじゃぁ。前に立つあたしらも怖くて仕方ないよ」

「確かにそうですよね・・・・。でも、いつまでもここにいるわけにもいきませんから。とにかくまっすぐの竹を何本か探しに行きましょう!」

皆秀が英醐に合図すると、竹藪の中へ入って行った。





白結丸は刀を構え、意識を集中する。


風が背中を押す。その想像を膨らませる。


「はっ!!」


気合を入れて、足を前に踏み出す。


その瞬間、空気が白結丸の背中を押す。


一瞬で白結丸の体は一間先まで移動した。


「おお、そうじゃ!その調子じゃ!」

ミカナが手を叩く。

「ありがとう!ようやく何かつかめてきた!」

「じゃが、やり過ぎるなよ。霊力れいりきもじゃが、動いたときに血が偏って目を回すぞ」

「わかった。だが、あと少しで使いこなせそうだ。もう一度やってみる!」



「・・・・・・なんであんなことができるのかねぇ。本当に人間か?」

嶺巴は少し呆れ気味に白結丸を見る。


「なんじゃ、嶺巴。暇なら飯炊きでもしたらどうじゃ?」

「や、やめてくれよ!もうこりごりだよ!」

そう言って嶺巴は自分のお尻を押さえる。


「嶺巴も一緒にやろう!」

白結丸が声をかけてくる。


「・・・・白結丸が言うなら・・・・」





嶺巴は刀を構えると、意識を集中する。

風が、背中を押す。

それを想像して、一歩前へ踏み出す!


「はぁっ!」


とっ。


ばたっ!!


鼻の頭を地面で打ち付けた。

「いってぇ!」


「あはははっ!全然だめじゃな!嶺巴!」

ミカナが笑い転げる。

「普通の人間にはできないんだよっ!!自分で風を起こすなんてっ!」


「大丈夫か、嶺巴!?」

白結丸が駆け寄ってくる。

「・・・・白結丸、心配してくれるのかい?」

「傷はないか?」


白結丸が顔を寄せてくる。


「・・・・白結丸・・・・」





「乳が重たくてこけたんだろ?」





ぴしっ。

嶺巴の頭で何かが弾けた。




がんっ!!



白結丸の頭に拳を振り下ろす。


「いってぇ!?」



「もう、あんたたちは勝手にやってろ!」

嶺巴はすたすたと歩き去る。


「なんだよ、本当に心配したのに・・・・」

にやにやしながら白結丸の頭を撫でるミカナ。

「よしよし。でも今のは白結丸が悪いのじゃ」







「まったく、つまんないね!あたしは退屈だよ!」

嶺巴はそう言いながら、廃村の真ん中あたり、手ごろの石に腰を下ろす。



「まったく、白結丸もあたしのこと何と思っているのさっ!」

「しゃあ・・・・」

「そうだよ!あんたもそう思うだろ!?」

「しゃあ!」

「最近ずっとミカナとべったりでさ!あんなちんちくりん、どこがいいのさ!」

「きしゃああ!」

「・・・・で、いつの間にいたんだい?」


嶺巴が振り向くと、六本足がカタカタとなる。

荊火いばらび


「・・・・最初はあんなに気持ち悪かったけど、さすがに見慣れるもんだね」


・・・・・・。


「退屈だから、あんたの髪を切ってやるよ」


「か・・・み・・・・・」







「今、あんたが言った?かみって」


「い・・・・・・ま・・・・・あん・・・・・た・・・・・・」


「すごい!いつの間に喋れるようになったんだい!?」


「す・・・・・ご・・・・・・・」


「あ、あたし、嶺巴!わかるかい?れ・い・は!」


「す・・・み・・・・・・」


「すみじゃないよ!嶺巴!」


「すみ・・・・・・」


「だから、すみじゃないって!」


「すみ!!」


がばっ!

突然嶺巴に抱きつく。




「ぎ、ぎゃああああああっ!?」




「すみ!」



「だから、すみじゃないってぇのっ!!」


荊火の鎖を振りほどく嶺巴。


「すみ、いっしょ・・・・こい・・・・・・」


「・・・・・・一緒に来いって?そんなわけにいかないだろ?みんなに心配かけちまうよ。ただでさえあたし、すぐいなくなるって言われるし・・・・」




・・・・・・でも、少し、心配してほしいかな。


だって・・・・・。


『乳が重たくて転んだんだろ?』


あれは・・・・・腹立つ!!






「白結丸殿!!大変です!!」


皆秀が白結丸とミカナのところへ走ってくる。


「どうした?」


「これ!!」


皆秀が持ってきた、小さな木の板。


そこには石で削って書いた字。


「先に行く」


とだけ書かれていた。


「ほ、本気か!?」

「これは・・・・」

ミカナも絶望的な顔をする。


「はい・・・・。嶺巴殿が見当たりません」



もう、この世で見つけることができる気がしない・・・・。

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