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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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49 風結ノ章 四十九

ぽろつ。


しゅう・・・・・・。






「え?」



・・・・・・。





・・・・・・・。




「どうした?」

嶺巴は、目の前の魁怨を見る。



魁怨は太刀を振り上げたまま、静止していた。


「な、なんだ!?何が起きた?」



道明の意識は自分の体に戻っている。

自分の手を見る。

顔に手を当てる。

自分自身だ。




「なぜ、おれに戻っておるっ!?」


魁怨の中で叫び声をあげる。


「なななな、なんじゃこりゃあ!?」


道明の手の上には、御霊石がぼんやり緑色に光っている。

さっき無理やり嵌めたものが、外れてしまっていた。



「しまったっ!!ち、力が入り過ぎたかっ!?」

慌てる道明。



「ははぁん、さては霊力れいりき切れだねぇ?」

ニヤリとする嶺巴。




「おしかったねぇ、あとちょっとだったねっ!!」

魁怨の額の辺りをつん、と指で突く蒼刃。


「な、何とかせねば!こ、この御霊石をっ!!」

道明は魁怨の中で御霊石を持ってじたばた暴れる。


「だ・け・ど!」

蒼刃が魁怨の喉元に太刀を突きつける。



「これでおしまいだよ!!」

そう言いながら、一気に力を込めて太刀を突きさす。



ずしゃっ!!



一気に突き刺した蒼刃の太刀は、魁怨の喉元を貫く。



「ま、まずい!このままではいかんっ!!」

慌てる道明。


手に持った御霊石を、どうにかしてもう一度はめ込もうと、繰り座にあるくぼみに無理やり御霊石を押し付ける。


はまれっ!嵌れっ!!」


かちっ。


一瞬、嵌ってしまった。



その瞬間、道明の意識は魁怨と同期する。

魁怨が受けた痛みを道明の神経が、道明の脳に伝える。


「うぐっ!?」


喉元を太刀で貫かれた痛み、死に値する激痛。


「!!・・・・・」


声も出ないまま、道明は口から泡を吹いて気を失った。



ずうん・・・・・。


魁怨は、ゆっくりと仰向けに倒れた。







「皆秀、頼む!!」


「はい!嶺巴殿!」

魁怨が動かなくなったのを見て、嶺巴が隠れていた皆秀を呼ぶ。


蒼刃が魁怨の繰り座の蓋をこじ開ける。

白目を剥いて泡を吹いている道明が見える。


「ああ、南無三・・・・」


両手を合わせる蒼刃。


辺りに役人たちが集まってくる。

が、蒼刃が睨むと近づいてくる者はいない。


「嶺巴!大丈夫か!」

風結が壁を越えて入ってくる。

それを見た役人たちはさらに後ずさる。


さらにその役人たちの足元に、どこからか宿儀が放った矢が突き刺さる。

「あわわわっ・・・・」

「ち、近づけん!」

「こ、こら、押すな!!」



「白結丸!」

「嶺巴!よくやったなっ!!」

「あとでもっと褒めておくれよ!」

「ああ、あとでな!」


『まったく、遅すぎて寝てしまうところだったのじゃ。ふわぁ』

「ミカナ、さっきまで寝てたじゃないか・・・・」


皆秀が道明の手から御霊石を取り上げて高く掲げる。

「取れましたよ!!」


「よし、もう用はない!戻るぞ!!」


「あいよ!」

「はいっ!!」

嶺巴と皆秀がその場を離れる。

風結は役人たちを牽制しながら、ゆっくりと下がっていった。


『おれはいらんかったのじゃ・・・・むぅ・・・・すぴぃ・・・・』




そして国府を後にした。







「なあ、あとどれくらいで動かせるんだい?そいつ」

嶺巴が皆秀と宿儀の作業を覗きに来る。

宿儀が作り続けてきた戦御体が横たわっている。

その繰り座には、御霊石がうっすらと緑色に輝いている。


「ええと、木材の部分が作り直しがいくつか。でも、十日ほどですかね」

「そうかい。でも、今まで賭けた十何年に比べれば、か」


「・・・・・・」


宿儀は俯いて小刻みに震える。


「そうだよね、辛い十何年だったんだからねぇ」

「でも、御霊石を手に入れたので、すべて揃いました。あとは少しづつ新しい技を取り入れていけば、風結並みに動けるようになるかと!」

皆秀が嬉しそうに言う。


その時突然、宿儀が顔を上げて嶺巴に飛び掛かった。

「女体!!妖艶無比ようえんむひっ!!」


「いやあああああっ!!」

悲鳴をあげる嶺巴。


「こら!」


白結丸が宿儀を嶺巴から引きはがす。


「はぁはぁ、びっくりした!!」

「もう、言ってるだろ?宿儀が見慣れるまで近づくなって!」

「で、でもさ、遠くから見ていたら見慣れるもんなのか?」

「・・・・それもそうだな」


白結丸は眠そうなミカナを宿儀の前に置いた。


「まずはミカナで練習だ」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」


無言で見つめ合う二人。


「ふっ」

宿儀が口元を上げた。

「こ、こいつ!!」


ミカナが白結丸の袖を引っ張る。


「今、見たか!?こいつ、おれを見て憐れむ笑いをしおったぞ!!」


「ふっ・・・・」


「ほれっ!!これじゃこれ!!おれをまったく女としてみておらんぞ!!」


「・・・・まあまあ」


「き、傷つくのじゃ!!おれは深く傷つくのじゃっ!!」


「まあ、ちんちくりんだからな」

「・・・・なんじゃ、嶺巴!やるのか!?」

「やるも何も、あたしの勝ちじゃないか」

胸を寄せてあげる嶺巴。


「・・・・・・・・・」


白結丸に顔をうずめるミカナ。


「おお、よしよし」

そう言って頭を撫でる。


「白結丸までおれを子供扱いしおって!」

頬を膨らませて怒るミカナ。



・・・・・・どこをどう見ても子供だ。

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