47 風結ノ章 四十七
「今の光は・・・・なんだ?白結丸殿からの合図か?」
宿儀は塀の上で目を凝らしていた。
御体蔵から緑色の光が見えた。
その後、役人たちが騒ぐ声や、大勢の人の足音が聞こえてくる。
・・・・何か、騒がしいが・・・・この暗さではさすがに離れていて見えん。
まあ、見つかったことは間違いなさそうだな。
「五里霧中、混迷窮乏といったところか?」
◇
「くそっ!!まだ出てくる!」
すでに白結丸と嶺巴は役人を七人、あて身で倒した。
倒された役人たちは地面に転がって、痛そうにのたうち回っている。
だが、次から次へと役人が現れ、逃げ道を塞ぐ。
「白結丸!後ろから!」
「!?」
御体蔵に並んでいた、赤く丸いもの。中御体が迫ってきた。
二つ、いや、三つ!
「これは・・・まずいな!」
「白結丸!あたしが前に出る!白結丸はミカナのとこまで走りな!」
「だが、ひとりで相手するには多すぎる!」
「でも、これじゃふたりともやられちまうよ!」
その時、群がる役人たちの間から強面の大男が現れた。
「盗賊如きにいつまでもたもたしておる!!」
「ど、道明様!」
役人たちに動揺が広がる。
「・・・・あれが、緋道明か。但馬出石の国司だね・・・・」
嶺巴が耳打ちする。
「お前ら、とんでもないことをしてくれたな!よりにもよってこの国府を狙うとはな!」
そして道明が懐から淡く緑色に光るものを取り出す。
「お前たちの狙いはこれだろう!?」
・・・・御霊石!?
「す、すみません・・・・・つかまりました・・・・。御霊石も取り上げられて・・・・」
道明の後ろから、役人に後ろ手を掴まれた皆秀が前に出る。
「御霊石をねらうとは、大胆な盗賊だ!おろかにも、この国府に忍び込むなど、即刻処刑せねばならんな!」
道明は腰から刀を抜くと、皆秀の首に当てた。
「ひいっ!?」
「おとなしくしていろ。お前たちも刀を捨てろ!」
「どうする?人質とられて、後ろに中御体。四面楚歌ってところだね」
・・・・嶺巴が宿儀のようなことを言った!?
「よく知ってるな、そんな難しい言葉」
「あたし、よくあるからね。四面楚歌」
「仕方ない。皆秀を見捨てよう」
「・・・・そうだね」
ふたりは刀を構える。
「え!?」
「は?」
驚く役人たちと皆秀と道明。
それを尻目に、白結丸は高く刀を上げる。
うっすらと雲の切れ間からのぞく月明かりに刀身が光る。
その瞬間。
どすっ!!
皆秀の腕を掴んでいた役人の背中に矢が突き刺さった。
役人は力が抜けてゆっくりと倒れる。
「なにぃっ!?矢だと?他にも仲間が・・・・?」
道明が振り向くと、誰もいない。
「ど、どこだっ!?」
「殿!あそこに!」
役人が指さした先、遠くの塀の上に豆粒よりも小さな人影がうっすら見える。
「馬鹿言うな!あんな遠くからの矢が届くわけがなかろう!!」
ひゅっ!
どすっ!
道明の目の前の役人が矢を受けて倒れた。
「な、なんだとっ!?」
「皆秀!!」
「あ、あわわわっ!!」
皆秀は慌てて白結丸たちのところへ駆け寄る。
「くそっ!!」
道明は刀を構え、向かって来る。
白結丸が刀を構える。
「嶺巴!皆秀を連れて逃げるんだ!おれもすぐに風結まで行く!」
「でも、御霊石が!!」
皆秀が情けない声で言う。
「失敗だ!ともかくここを出る!」
「逃がすわけがないだろうがぁっ!!」
道明の合図で中御体が嶺巴と皆秀の逃げ道に立ちふさがる。
「ひいいっ!!」
「おちつきな、皆秀!中御体は人より動きが鈍い!しっかり気をつければ避けられる!」
「そ、そんなこと言っても!!」
相手は見上げる大きさの丸い物体。
それだけで威圧される。
「うりゃあああっ!!」
道明が叫ぶ。
ぎんっ!!
道明の振り下ろしの一撃を、白結丸が刀で受け止める。
・・・・重いっ!!
柄を持つ手に振動が走る。
びりびりと痺れが伝わる。
「うりゃああっ!!」
再び雄叫びを上げながら道明が攻撃を繰り出してくる。
・・・・まともに受けていたら、腕がやられる!
するりと後ろへ跳んで躱しながら、距離をとる。
だが、背後に殺気を感じ、横へ体を捻る。
ずん!
中御体が白結丸めがけて拳を振るった。
その拳は白結丸の背中を掠めて地面を叩く。
「あ、危ない!」
「もらったぁ!!」
そこへ、道明が飛び掛かって来る。
その瞬間、道明が何かを感じ取った。
ひゅん!
白結丸めがけて振り上げた刀を横へ一閃する。
きいん!!
跳んできた矢が、弾かれて地面に落ちる。
「くそっ!なんてやつだ!おい!あいつを何とかしろ!!」
道明が命じると、役人たちが宿儀のいる塀へ向けて走り出した。
「くそっ!邪魔ばかりしやがって!これでもう、お前は逃げられ・・・・あれ?」
道明の目の前にいたはずの白結丸がいない。
「奴はどこだぁっ!?」
「あ、あっちに逃げました!」
中御体の中から役人の声がする。そして短い腕で向こうを指さす。
盗賊たち三人が、広い中庭を走って逃げて行く。
「何をしておる!追わんか!!」
「承知!」
どすん、どすん、どすん・・・・。
「遅いっ!!」
「そう言われましても、これは足が短くて・・・・」
「もういい!おれが魁怨で出る!!」
そう言うと、道明は御体蔵に向かって走る。
一番奥の戦御体へ走り、縄梯子を昇ると繰り座へ滑り込む。
そして、御霊石を握る。
・・・・ない!?
「あいつら、よりによってこの魁怨の御霊石を・・・・!!許さんぞぉっ!!」
懐から御霊石を取り出して、取り付ける。
・・・・うまくつかない。
「・・・・この管と、この石のここと・・・・。あれ?何か余るな。何だ、これは?」
かちっ。
・・・・は、嵌った!!
その瞬間、道明の意識が戦御体・魁怨と同調する。
そう、同調してしまった。
ずうん、ずうん。
解怨の巨体が動き出す。
ちゃんと嵌りきっていない御霊石は、少し揺れるたびにかたかたと鳴った。
「盗賊ども!!覚悟しろぉっ!!」




