46 風結ノ章 四十六
「緋道明様へ納める御体の石を運んでいるんだ!」
但馬出石の関所にさしかかった時、商人のひとりがそう叫んでいた。
「すなわち、但馬出石の国府には、戦御体があるってことさ!」
「すごいですね、嶺巴殿!」
皆秀がしきりに感心している。
「だろ?どの商人が何を運んでいるか知っておかなきゃ、襲って空振り、なんてことになりかねないからね!」
「あまり自慢できないことですけど・・・・」
「でももう、さすがに但馬出石へ入っているだろうな」
白結丸が言うと、嶺巴はちっちっと首を振る。
「商人なんて襲っても意味ないのさ。それじゃ、緋家はちっとも痛手を受けないだろ?」
「・・・・もしかして、但馬出石国府を襲うのか?」
「当たり前だろ?あたしらは山賊じゃあない。正々堂々、御霊石をこっそり頂戴するのさ!」
「いろんなところで矛盾しているが・・・・」
◇
「いいかい、まず、宿儀は国府を見渡せるところで弓を持って待つ。中へ入るのはあたしと白結丸、皆秀。ミカナは国府の壁の外の風結で待つ。敵に見つかった時はあたしと白結丸で引き付けるから、その間に皆秀は石を持って逃げる!」
「そんなにうまくいくとは思えんが・・・・」
ミカナが渋い顔をする。
「まあ、あとはその場その場で何とかしよう!」
嶺巴はそう言うと、国府の壁をよじ登り、中へ入って行く。白結丸と皆秀が続く。
「今夜は曇っていて月が出てない。ちょうどよい夜だねぇ」
「嶺巴、ちょっと楽しんでないか?」
「当たり前だろ?なんでも楽しくやらなくちゃ!」
「山賊に戻る!なんていわないでくださいよ!」
皆秀が言うと、嶺巴は白結丸の腕をぐっと引き寄せた。
「白結丸と一緒なら山賊の方が楽しそうだね!」
さっ。
さささっ。
さささっさっ。
三人は御体蔵の入口へたどり着く。
白結丸が手を挙げると、遠くで塀の上にいる宿儀が手を挙げて応える。
「よし、中へ入ろう」
ぎぃ・・・・・。
「・・・・しかし、見張りもいないとは。怠慢だねぇ」
「普通、国府を襲うなんて誰も考えませんよ。重罪ですよ?」
御体蔵の中は真っ暗。
しばらく暗闇に目を慣らす。
徐々に中が見えてくる。
入り口から伸びる通路を挟み、両側に御体が並んでいる。
ほとんどが通常の戦御体より小さい。
「これ、羅城門で見たやつだね」
「ええと、中御体とか言っていたな」
白結丸の倍くらいの高さの毬のような丸いものに、短い腕と足が付いている。
「奥の方に大きな戦御体があります。それをいただきましょう」
暗く広い御体蔵の中で見上げる、ずらりと並ぶ戦御体は少し不気味だ。
「突然動いたりしないよねぇ」
「皆秀、手身近に頼む!」
「わかってます!」
大きな戦御体が奥の一台しかないようで、あとは中御体が五台。
こちらを見下ろすように立っている。
皆秀は戦御体の繰り座から伸びる縄梯子を昇ると、上半身を中へ入れてガチャガチャとやり始めた。
白結丸と嶺巴は身を低くしてあたりの気配に気を集中させる。
暗闇と静寂の中、皆秀が御霊石を外す音だけがやけに大きく聞こえる。
その時。
ざっざっ・・・・。
足音。
・・・・こちらへ近づいてくる。
白結丸と嶺巴は目を合わせる。
「・・・・皆秀、誰か来た。ひとまず隠れろ!」
「後、あと少しなんです!」
「やり過ごしてからでいい!ともかく隠れるんだ!」
「でも、今、手を離せません!」
ざっ、ざっ・・・・。
「皆秀、まずいよ!もうそこまで来た!」
「御体蔵の入り口が開いている!中を見に来るぞ!」
「でもっ!」
「誰か、いるのか!?」
・・・・見回りは二人。
白結丸と嶺巴は戦御体の足の陰に隠れて息を潜める。
カチャカチャ・・・・。
・・・・・あいつ、まだ!!
ざっ、ざっ・・・・。
見張りが近づいてくる。
松明の明かりを持っている。
ぼんやりとした火がこちらへ近づいてくる。
その手に持った松明を、皆秀がいる戦御体に掲げる。
「おい!!」
そこには誰もいない。
「誰かいたか?」
「いや、いないな」
「最後のやつが締め忘れたのか?」
「まったく、しっかりしてほしいもんだな。道明様に知れたら恐ろしいぞ」
ふたりは出て行った。
・・・・・・ふぅ。
白結丸と嶺巴は戦御体の繰り座を見上げる。
戦御体の繰り座の中から皆秀が身を乗り出して、緑色の石を持ってこちらへ手を振る。
「はやく、降りてこい!」
「はい!ちょっと待って下さい!」
そう言って、縄梯子に皆秀が手をかけた時。
赤子の頭くらいある御霊石は、皆秀の手をするりと抜けて、下へ真っ逆さまに落ちてくる。
「「「あっ!!」」」
三人が同時に声を上げた。
白結丸が飛び出す。
そして、御霊石が地面に落ちて割れる前に、それを受け止めた。
「ふぅ・・・・」
深く息を吐く三人。
その瞬間。
びかっ!!
白結丸の霊力に反応して、御霊石が眩いくらいの緑色の光を放った。
「あっ!!」
「し、しまったっ!!」
その光は一瞬で暗い御体蔵を光で満たした。
さらに明り取りの窓、出入り口や屋根の隙間から、その光が漏れてあたりを照らす。
「なんだ!?やっぱりだれかいるぞっ!?」
外で声がする。
「まずいぞ!皆秀、早く降りてこい!逃げるぞ!!」
「まったく、何やってんだろうね!!」
白結丸と嶺巴は腰の刀を抜く。
「す、すみません!」
皆秀が降りてきて、御霊石を受け取る。
「最初の通り、おれと嶺巴が役人たちを引き付ける。その間に逃げろ!」
「承知しました!」




