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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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46 風結ノ章 四十六

緋道明ひどうみょう様へ納める御体の石を運んでいるんだ!」

但馬出石の関所にさしかかった時、商人のひとりがそう叫んでいた。


「すなわち、但馬出石の国府には、戦御体があるってことさ!」

「すごいですね、嶺巴殿!」

皆秀がしきりに感心している。


「だろ?どの商人が何を運んでいるか知っておかなきゃ、襲って空振り、なんてことになりかねないからね!」

「あまり自慢できないことですけど・・・・」


「でももう、さすがに但馬出石へ入っているだろうな」

白結丸が言うと、嶺巴はちっちっと首を振る。

「商人なんて襲っても意味ないのさ。それじゃ、緋家はちっとも痛手を受けないだろ?」

「・・・・もしかして、但馬出石国府(こくふ)を襲うのか?」

「当たり前だろ?あたしらは山賊じゃあない。正々堂々、御霊石をこっそり頂戴するのさ!」

「いろんなところで矛盾しているが・・・・」








「いいかい、まず、宿儀は国府を見渡せるところで弓を持って待つ。中へ入るのはあたしと白結丸、皆秀。ミカナは国府の壁の外の風結で待つ。敵に見つかった時はあたしと白結丸で引き付けるから、その間に皆秀は石を持って逃げる!」


「そんなにうまくいくとは思えんが・・・・」

ミカナが渋い顔をする。


「まあ、あとはその場その場で何とかしよう!」

嶺巴はそう言うと、国府の壁をよじ登り、中へ入って行く。白結丸と皆秀が続く。


「今夜は曇っていて月が出てない。ちょうどよい夜だねぇ」

「嶺巴、ちょっと楽しんでないか?」

「当たり前だろ?なんでも楽しくやらなくちゃ!」


「山賊に戻る!なんていわないでくださいよ!」

皆秀が言うと、嶺巴は白結丸の腕をぐっと引き寄せた。

「白結丸と一緒なら山賊の方が楽しそうだね!」



さっ。


さささっ。


さささっさっ。



三人は御体蔵の入口へたどり着く。


白結丸が手を挙げると、遠くで塀の上にいる宿儀が手を挙げて応える。



「よし、中へ入ろう」



ぎぃ・・・・・。




「・・・・しかし、見張りもいないとは。怠慢だねぇ」

「普通、国府を襲うなんて誰も考えませんよ。重罪ですよ?」



御体蔵の中は真っ暗。

しばらく暗闇に目を慣らす。


徐々に中が見えてくる。


入り口から伸びる通路を挟み、両側に御体が並んでいる。

ほとんどが通常の戦御体より小さい。


「これ、羅城門で見たやつだね」

「ええと、中御体なかみたいとか言っていたな」

白結丸の倍くらいの高さの毬のような丸いものに、短い腕と足が付いている。

「奥の方に大きな戦御体があります。それをいただきましょう」


暗く広い御体蔵の中で見上げる、ずらりと並ぶ戦御体は少し不気味だ。

「突然動いたりしないよねぇ」


「皆秀、手身近に頼む!」


「わかってます!」


大きな戦御体が奥の一台しかないようで、あとは中御体が五台。

こちらを見下ろすように立っている。


皆秀は戦御体の繰り座から伸びる縄梯子を昇ると、上半身を中へ入れてガチャガチャとやり始めた。


白結丸と嶺巴は身を低くしてあたりの気配に気を集中させる。



暗闇と静寂の中、皆秀が御霊石を外す音だけがやけに大きく聞こえる。




その時。



ざっざっ・・・・。


足音。




・・・・こちらへ近づいてくる。



白結丸と嶺巴は目を合わせる。


「・・・・皆秀、誰か来た。ひとまず隠れろ!」


「後、あと少しなんです!」


「やり過ごしてからでいい!ともかく隠れるんだ!」


「でも、今、手を離せません!」



ざっ、ざっ・・・・。



「皆秀、まずいよ!もうそこまで来た!」


「御体蔵の入り口が開いている!中を見に来るぞ!」


「でもっ!」




「誰か、いるのか!?」


・・・・見回りは二人。


白結丸と嶺巴は戦御体の足の陰に隠れて息を潜める。




カチャカチャ・・・・。



・・・・・あいつ、まだ!!



ざっ、ざっ・・・・。


見張りが近づいてくる。


松明たいまつの明かりを持っている。

ぼんやりとした火がこちらへ近づいてくる。


その手に持った松明を、皆秀がいる戦御体に掲げる。


「おい!!」



そこには誰もいない。




「誰かいたか?」


「いや、いないな」



「最後のやつが締め忘れたのか?」

「まったく、しっかりしてほしいもんだな。道明様に知れたら恐ろしいぞ」



ふたりは出て行った。




・・・・・・ふぅ。



白結丸と嶺巴は戦御体の繰り座を見上げる。


戦御体の繰り座の中から皆秀が身を乗り出して、緑色の石を持ってこちらへ手を振る。


「はやく、降りてこい!」


「はい!ちょっと待って下さい!」


そう言って、縄梯子に皆秀が手をかけた時。


赤子の頭くらいある御霊石は、皆秀の手をするりと抜けて、下へ真っ逆さまに落ちてくる。


「「「あっ!!」」」


三人が同時に声を上げた。


白結丸が飛び出す。



そして、御霊石が地面に落ちて割れる前に、それを受け止めた。


「ふぅ・・・・」


深く息を吐く三人。


その瞬間。



びかっ!!



白結丸の霊力に反応して、御霊石が眩いくらいの緑色の光を放った。


「あっ!!」

「し、しまったっ!!」



その光は一瞬で暗い御体蔵を光で満たした。

さらに明り取りの窓、出入り口や屋根の隙間から、その光が漏れてあたりを照らす。



「なんだ!?やっぱりだれかいるぞっ!?」


外で声がする。



「まずいぞ!皆秀、早く降りてこい!逃げるぞ!!」


「まったく、何やってんだろうね!!」


白結丸と嶺巴は腰の刀を抜く。

「す、すみません!」

皆秀が降りてきて、御霊石を受け取る。


「最初の通り、おれと嶺巴が役人たちを引き付ける。その間に逃げろ!」


「承知しました!」

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