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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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45 風結ノ章 四十五

「はっ!?」


男は目を覚ました。

「またあの時の夢だ・・・・。おれは・・・・万死痛恨ばんしつうこん

男は顔を拭う。


「良くわからんが、たぶん違う。鼻血を出しているんだ」

白結丸が言うと、男は手を見て驚いた顔をした。

「血だと!?」

「だから鼻血だ」


「お前たちは緋家の者か?おれを殺しに来たのか?」


「あたしたちはここを通りがかっただけだよ。ここは、何なんだい?」

嶺巴が男を見ながら言う。


婀娜艶麗あだえんれい!!女・・・・女の体・・・・・・」

男が地面を這いながら嶺巴に迫る。


「い、いやぁっ!?」


「落ち着け!」

白結丸が男を抑え込む。





「すまなかった。おれの名は黒部宿儀くろべしゅくぎ。この郷でずっと一人で暮らしてきた。形影相弔けいえいそうちょう

「一人でじゃと?」

ミカナが言う。

「ああ。郷の者は皆、十数年前に緋家に殺されたんだ」

「それはまた、どうしてだい?」

「お、女の・・・・体・・・・・」


ごん!

白結丸が宿儀を抑え込む。


「嶺巴、こいつが見慣れるまで少し離れていてくれ」

「ちぇっ!」

「おい、何でおれには女を感じないのじゃ!」

ミカナがご立腹だ。



「すまん。閑話休題かんわきゅうだい

「・・・・話を戻すってことだな?」



「おれは緋家の連中に、郷の皆の敵討ちをするために臥薪嘗胆がしんしょうたんしてきたのだ」

「良くわかりませんが、苦労してきたということでしょうね」

皆秀が頷く。

「でも、緋家に対して敵討ちって・・・・」

嶺巴が口を挟む。


「お、女!・・・・いかん!不撓不屈ふとうふくつ堅忍不抜けんにんふばつ!!」


「嶺巴、あっちへ行ってなさい」

「ちぇっ!!」


「おれには、この絵図があるのだ!」


男は懐から油布を取り出すと、丁寧に開いた。

その中には、ぼろぼろになった紙に書かれている人型の絵図があった。

ひとつひとつ、とても丁寧に書かれている。


「なんと!?・・・・これは、御体の絵図です!」

一気に皆秀が目を輝かせる。

「ここを見ろ!」

白結丸が指さす。

楠慶秀くすのきけいしゅう!?」

ミカナが声を上げた。


「えっ!?どれどれ!?」


「くっ!!うぷっ!!」

「嶺巴!!」

「ちぇっ!!早いとこ見慣れてくれよ」

「もっと隠せばいいんじゃないか?」


「そんなことより、これ、楠慶秀の御体絵図・・・・どこでこんなものを?」


「おれに、村長むらおさが託したんだ」


宿儀は地面に手をついて、頭を下げた。

「頼む、もう少しで出来上がるんだ!十年以上かかった!これを見るだけで天威機が何かわかったお前たちなら、わかるだろう?これが何か!」


そう言って、絵図にある丸い形の小さなものを指さす。

「これがないと、おれの天威機は動かないんだ!」


「・・・・これは・・・・あれじゃな、皆秀?」

「はい。間違いないです」

ミカナが皆秀の顔を見ると、皆秀も頷いた。


「だが、これは・・・・・・」

白結丸が首をひねる。


「そうですね、そう簡単に手に入りません」

皆秀が言うと、宿儀が悲しそうに皆秀を見た。


「頼む!おれは・・・・これだけを成し遂げるために、十数年ここでひとり苦しんできたんだ!これがあれば、緋家の奴等を倒せるんだろ!?」


「・・・・宿儀殿」

皆秀も難しい顔で首をひねる。


「何とかしてやりたいがのう・・・・こればっかりは・・・・」

ミカナも顔を曇らせる。

「はい。御霊石みたまいしはどこにでもあるものではないです」

皆秀がため息交じりに言った。








「それに、この絵図の御体は相当古いものです。恐らくですが、慶秀が風結を作る前に描いた絵図でしょう」


「そうなのか?」

白結丸が言うと、皆秀は深く頷く。


「はい。彦佐殿のところで見た風結の絵図は、もっと新しいものでした。何度も何度も練り直して、ようやく風結になったのでしょうね。それでも十五年経てば、その頃のものは古くなります」


「で、では、皆秀殿!おれの作ったものを見てくれ!そして、直すべきところを教えてくれ!」

必死の形相の宿儀。


・・・・しかし、御霊石がなければ、御体は動かない。


皆秀にもその思いはあったが、ともかく宿儀が作ったという御体が見てみたくて仕方なかった。

「わかりました。見てみましょう!」

「おお!感涙至極かんるいしごく結草銜環けっそうかんかんの思いだ!」




たたら場から見える空は、すでに明るかった。

そのたたら場から少し離れたところ。そこに、《《それ》》はあった。

屋根と壁は木が一枚貼ってあるだけの簡素な掘っ立て小屋だったが、御体の大きな体を置くにはじゅうぶんな広さがあった。


そして、ほぼ人型の御体がそこに横たわっていた。

「あとは、腕と足を覆う鉄の板を張れば、ほぼ完成なのだが・・・・」


「おお、これをひとりで、十年以上かけて作ったのか!?」


それは以前の風結と比べても遜色のない、人型の戦御体だった。

風結に近い頭部、そして細い腕と足。

当時の緋家の戦御体になかった、慶秀ならではの姿が、再現されていた。

色が塗られていないので木と鉄の色がそのままだが、ここには顔料などないだろう。だが、一打ち一打ち丁寧に鍛え上げられた鉄の肌からは、彼の凄まじい執念が鈍く光っている。


「すごいですね!これは・・・・」


「そ、そうか!?おれは、すごいものを作ったか!?」


「はい。細かいところは直しが必要ですが・・・・それでもすごいことです!」


欣喜雀躍きんきじゃくじゃく!細かいところ、直せるところを教えてほしい!」


「はい。まず、ざっと見て感じたところで言うと、足の木の部分は、木目がこの向きだと弱くなるので、跳んだり走ったりすると割れてしまいます。こういう向きにして・・・・」


「うむ、なるほど、なるほど・・・・」




あっという間に皆秀と宿儀は二人だけの職人空間に入ってしまった。



「なあミカナ。あれ、動かせるようにしてみたいな」

「そうは言ってもじゃな、御霊石はそう簡単に落ちとらんぞ?」

「だけど、宿儀のあの弓の腕前と、風結とほぼ同じというこの御体があれば、相当な戦力になると思わないか?」

「それはそうじゃが・・・・」


「ふふん!そこで、元山賊、嶺巴様の出番だよ!」

「・・・・何か策があるのか?」


「そりゃあ、白結丸、考えてごらん!無いものは、あるところから奪えばいいのさ!」



「久しぶりに見たな。嶺巴の、その悪者の顔」

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