43 風結ノ章 四十三
但馬出石へ向かう街道は旅人でごった返していた。
「罪人がこちらへ逃げてきたとの知らせがあった!荷は全てここで検める!」
関所が設けられており、旅人、商人が多く順番を待つ列に並んでいる。
「すべて但馬国司の緋道明様からのお達しだ!順番に並べ!」
「いつまでかかるんだ!」
「魚を積んでいるんだ!早くしないと腐っちまう!
「武家様に頼まれた書を運んでいる!早くしないとおれの首が!」
「その道明様へ納める御体の石を運んでいるんだ!」
「病の親に会いに行きたいだけなのに!!」
「まいったね、どうやら白結丸をさがしてるみたいだよ」
嶺巴がため息交じりに言う。
・・・・あの、重国が何か言ってたな。
「われらは戦御体が壊れたので六原へ戻ります!ですが、あなたたちはこれ以上行かせません!」
「おれも六原へ帰るのか?父上に怒られるではないか!」
「馬鹿、ちっとは怒られなさい!」
「また馬鹿って言ったか?」
「いいえ、言ってません!」
・・・・あいつらが政を背負う将来が、余計に心配になってくる。
「ともあれ、このまま進んで御体を見られると厄介だな」
「さっきの分かれ道まで戻って、あの細い枝道に入り、山を抜けて但馬へ入ったらどうでしょう?」
皆秀が言うと、嶺巴も頷く。
「そうだね。道を選んでいる場合じゃなさそうだ」
「ふわぁ・・・・。荷検めなど蹴散らせばよいではないか」
あくまで過激派のミカナ。
「派手にやればやるほど、この先進みにくくなるんだよ!これだからお子様は」
「誰がお子様じゃ!」
「誰がお子様じゃろうなー?」
ぬぬぬぬぬ・・・・。
「はいはい、とっとと戻るぞ!」
白結丸はいつものふたりにあきれ顔で言った。
◇
最初は道だった。
すぐに獣道になり、あっという間に道ではなくなった。
「おい!これ、ほんとに但馬へ行けるんだろうね!?」
嶺巴が先に立って刀で笹を斬りながら進む。
「わかりませんよ!わたしも初めて来たんですから!」
皆秀は馬の手綱を引いて歩いている。
「とにかく方向はこっちであっている!・・・・と思う!進むしかない!」
白結丸が言う。
「白結丸の言う通りじゃ!荷検めが通れんなら、道を作るしかないじゃろ?」
ミカナは荷車の風結の上に跨っている。
「こらミカナ、お前だけ楽すんな!」
「おれがここから降りたら笹に埋もれて見えなくなるではないか!」
確かに、生い茂っている笹は白結丸の胸くらいまである。
小さなミカナは姿がすっぽり隠れる。
「お前たちが迷子にならんよう、ここで見張っておるのじゃ!」
「都合いいときだけお子様定めを利用しやがって!」
「ですが、白結丸殿!もうすぐ陽が暮れます!野宿できるところを見つけないと!」
皆秀が言う。
昼間ではあるが、すでにこの竹藪は薄暗い。
陽が傾くと、すぐに真っ暗になってしまうだろう。
「そうだな、仕方ない。風結と蒼刃で進もう。皆秀は馬を連れて後からついてきてくれ」
◇
風結の太刀で竹と笹を斬りながら進む。
蒼刃は御体車に繋いだ縄を引っ張ってついてくる。その後ろを馬を連れた皆秀が進む。
「なあ、ミカナ」
『なんじゃ?』
「聞きそびれたけど、老江山の妖・・・・たしか、妃寐って言ってたけど、あの時使った、ミカナの力って、いつでも使えるのか?」
『ああ、風を吹かす力のことか?』
「そう、それ」
『あれはもともと、おれが陰陽師として悪い”気”を追い払うときに使っていたものじゃ。霊力を使って風を吹かし、悪いものを吹き飛ばすのじゃ』
「・・・・すごいな、ミカナ。そんなこともできるのか」
『この風結もそうじゃ。”枷を外す”という言い方をしたが、実のところはおれから流れる霊力を押さえているだけじゃ。おれの霊力を目いっぱい流すと、風結が動きすぎてばらばらになってしまうからな」
「ああ、紅羽たちと初めて会った時みたいにか?」
『そうじゃ。あの時はああするしかなかった。戦って勝てる見込みはなかったからな』
「やっぱりすごいな。この前、ミカナなしで風結に乗って、風結の重さを感じた。やっぱりミカナが必要だ」
『おう、惚れ直したか?』
「まあ、そういうことだ」
『・・・・素直に認めるでない。自分で言って恥ずかしいのじゃ・・・・』
◇
『この先に何か見えるぞ?・・・・集落のようじゃ!』
「こんなところに集落?」
『人の気配はないが・・・・いや、何か・・・・』
◇
そこは、荒れ果てた廃村だった。
家屋には草が生い茂り、畑はすでに野生となって作物の蔦が伸びきっていた。
人の姿はおろか、犬や獣の鳴き声もしない。まるで時が固まってしまったかのようだ。
数件の小さな家、そして村落の長の家だろうか。少し大きめの屋敷が一軒建っている。
どれもすでに廃屋となっており、人が暮らしている気配はない。
「とりあえず、今夜はここで夜を明かしましょう」
皆秀が馬を繋ぎとめる。
「水を探してきます」
そう言うと、桶を持って歩いて行った。
「寝られそうな家、残ってないかねぇ」
嶺巴も、蒼刃を御体車に乗せると外へ出てくる。
白結丸も風結を御体車に寝かせ、上に布をかける。
「出来ればせっかくじゃから、屋根のあるところで寝たいのう・・・・」
ミカナが言う。
「・・・・ああ。だが、ミカナ」
「なんじゃ?」
「風結から出たら、まず着物を着なさい」
「・・・・いちいち脱げるのは面倒じゃの・・・・」
辺りがすっかり暗くなった時、皆秀が水の入った桶を持って戻ってきた。
「みなさん、大変です!!」
「どうしたのじゃ、血相変えて」
「この村のずっと上の方、山の中腹に”たたら場”があります!」
「・・・・たたら場?」
「はい、鉄を打つところですよ!」
「ふうん。じゃあ、ここは鉄打ちの住んでいた集落か」
白結丸が言うと、皆秀が頷く。
「それで、何が大変なのさ?」
嶺巴が言うと、皆秀が水の入った桶を持ったまま、大きな身振りで答えた。
「そのたたら場に、火が入っているんです!煙が出てます!誰か住んでいるんですよ!この廃村!!」
桶の水がちゃぷっと音を立てて跳ねた。




