42 風結ノ章 四十二
「さすが紅羽だ!父上を灯台代わりにするとは!今度おれもやってみよう!」
貞基がうれしそうな声を上げる。
「・・・・あいつ、本当にやりかねんな。まあ、いいけど」
紅羽は冷や汗が止まらない。
「紅羽姉様!」
時千代が駆け寄ってくる。
「時千代!ここは、とても幅広くいろんな意味で危ない!向こうへ行っていなさい!」
「いえ、紅羽姉様!もう、わたしたちのためにしなくてよい我慢をするのはおやめください!」
・・・・!!
その真剣な時千代の顔に、言葉を失う。
「わかっています。姉様がいつも、わたしたちの親代わりをしようとしてくれていること!でも、紅羽姉様には、わたしも伊佐姉様も、自分のことをもっと考えてほしいと思っております」
「・・・・時千代!」
「時の言う通りですよ!もっと紅羽姉様はご自身を大切にしてください!」
「伊佐・・・・」
「よし、わかった!!」
急に貞基が声を上げた。
「ここは、紅羽に免じて引いてやる!だが、そいつはおれが捕らえる!」
びしっと風結を指さす翔鶴。
「・・・・何が”わかった!”なのっ!?さっきまでと同じじゃない!」
「伊佐・・・・。下がっていろ」
風結が伊佐の杜若の肩に手を置く。
「は、白結丸様!?」
「伊佐、おれは、負けない!おまえのおかげだ」
「・・・・・・え?」
・・・・だって、お前たちがごちゃごちゃしている間に、ミカナが風結に入ったから!
「・・・・・・白結丸様のお役に立てた!いやん、うれしい!!」
「あああっ!伊佐姉様の杜若がくねくね踊りをっ!?」
「ミカナ、おかしな茶番に文字数を使いすぎた!一気にたたむぞ!」
『裏事情まで言わんでいい!』
風結はさっき手離した太刀を拾うと、切っ先を翔鶴へ向ける。
「貞基!話はどうだか知らないが、決着をつける!」
「ふふふ、面白い!!おれが勝ったら紅羽を嫁にもらう!」
「なんでだっ!?そればっかりだな、お前っ!」
紅羽が叫ぶ。
「どうでもいい。好きにしろ!!」
「どうでもよくないだろっ!!絶対勝てよっ!!」
また紅羽が叫ぶ。
・・・・・。
・・・・・。
風結と翔鶴が間合いを取って睨み合う。
姿勢を低く、太刀を構える。
・・・・勝負は一瞬。
相手の動きを読んだ方が勝ちだ。
・・・・・・。
・・・・・・相手の動きを読んだ方が勝ち?
「うりゃああああっ!!」
雄叫びとともに、翔鶴が迫る。
「もらった!!」
ざんっ!!
風結が太刀を一閃する。
どふううっ!!
翔鶴が地面に倒れる。
「・・・・・・何故、おれの動きが・・・・・」
「なぜって・・・・」
風結が翔鶴を見下ろす。
「お前、最初からずっと跳び上がってばっかりじゃないか」
◇
「待たせたね!蒼刃、嶺巴参上!!」
・・・・・・・あれ?
誰もいない?
◇
「皆保、いつでも帰ってきていいんだぞ!」
「みなさん、皆保をよろしくお願いします!」
「兄様、帰ってくるときはミカナを連れてきてね!!」
「・・・・うげぇ」
ミカナが苦い顔をする。
白結丸たちは船井家の屋敷を発ち、因幡へと向かう。
むすっ!!
「どうしたんだ、嶺巴?むすっとして」
「だって、せっかくあたしの蒼刃の出番だったのに!白結丸がひとりで片づけちゃうなんてさ!」
「なら、もう少し早く来てくれよ・・・・」
「紅羽殿たちはどこへ行かれたのですか?」
皆秀が言う。
「なんでも、丹波に千子姉上が隠居しているらしい。そこへ行くらしいぞ」
「伊佐殿、泣いていましたけど、よかったのですか?」
「ふん。緋家の娘が白結丸を狙うなど、百年早い!」
「ミカナ殿は百年くらいなんでもない感じがしますね」
「何か言ったか、皆秀?」
「いえ、何でも・・・・」
「そういえば丹波には温泉があると言っていたな。帰りに行ってみようか」
「・・・・・・あたしと入りたいのかい?」
嶺巴が白結丸にくっついてくる。
「ええと、そうは言っていないが・・・・」
「嶺巴、お主は皆秀の家で嫁修行しておればいいのじゃ!」
そう言いつつ、ミカナが嶺巴のお尻を叩く。
ぱしっ!!
「いっ、痛ったいで・・・・ございますっ!!」
・・・・もう、口癖になっちまったよ!
◇
「ああ、白結丸様・・・・」
伊佐は何度も後ろを振り向いていた。
「伊佐、どうしたのだろう。丹後を出てからずっとあの調子だが・・・・」
紅羽が時千代に耳打ちする。
「・・・・まあ、温泉で治る病ではないでしょうね」
「・・・・病なのか?やはり悪霊が!?」
「紅羽姉様、そっとしておいてあげましょう」
「・・・・・・その時千代の言い方、大人っぽくて嫌だな」
◇
但馬の国。
山奥。
ここに、鉄打ち職人たちの隠れ里があった。
野兎が一羽。
巣穴から抜け出て、あたりをきょろきょろと見回す。
次の瞬間。
ざくっ!!
寸分たがわず、野兎の喉元へ矢が吸い込まれるように刺さった。
黒部宿儀はその獲物を持ち上げると、隠れ里へ戻って行く。
捕えた獲物の野兎を、皮を剥ぎ火で炙って食べる。
そして暗くなると、鉄を打つ。
古い絵図の書を開き、ひとつひとつ見比べていく。
その絵図の下の方に、楠慶秀という名が書かれている。
誰だか知らないが、この絵図を書いた者だろう。
でも、それはどうでもいい。
十年以上がかかった。
たった一人でここまで来た。
天威機。
あと少しで完成する。
この、絵図にある丸い小さな何か。これが何かわかれば・・・・。
緋家に復讐できる。




