41 風結ノ章 四十一
・・・・ミカナがいないぶん、残りの霊力にも気をつけないといけないな。
白い戦御体、翔鶴。
その横に赤い戦御体、朱獄。
見た目で行けば、動きが早いのは翔鶴。
力は朱獄が上、といったところか。
「うりゃあああっ!!」
重国が叫び声をあげる。
朱獄が前へ出てくる。
風結は太刀を構えると、朱獄の突進を横へ躱す。
次の瞬間、飛び上がった翔鶴の太刀が風結を襲う。
ぎいん!!
風結は振り下ろされた翔鶴の一撃を、太刀を振るってはじき返す。
そのまま走り、間合いを取る。
「甘いわっ!!」
再び朱獄が向かって来る。
それと同時に、体を反転させた翔鶴が再び跳び上がる。
・・・・同時か!
二体同時の一閃を風結は身をよじるが、翔鶴が振り下ろした太刀が肩を掠める。
「くっ!!」
白結丸の肩に痛みが伝わる。
・・・・いつもより風結が重たい!ミカナがいないせいか!
はぁ、はぁ・・・・。
たったこれだけで息が上がってくる。
打って出なければ、やられる!
風結は一気に前に出る。
狙いは、朱獄!!
「よし、来いっ!!」
朱獄が太刀を構える。
「でえええいっ!!」
風結が太刀を横に一閃する。
朱獄はそれを太刀で受け止める。
ぎいいんっ!!
太刀同士がぶつかり合い、火花が散る。
・・・・必ずここで、上から翔鶴が来る!
「でやあああああっ!!」
貞基の声が響く。
・・・・思った通り!
風結は組み合った太刀を手放す。
すると、朱獄は勢い余って前によろける。
「何っ!?太刀を捨てた!?」
そして風結はするりと朱獄の後ろへ回り込むと、朱獄の背中を、ぽん、と押した。
「え?」
「あ?」
どうううん!!
翔鶴は、そのまま朱獄の上に落ちた。
・・・・とても太刀筋がいいのに、跳び上がってばかりだからだ。
「よくも重国をやってくれたなっ!!」
翔鶴がすっと立ち上がる。
朱獄は、胸の辺りがへこんでいる。重国は相当痛いのだろう、気を失っているようだ。
翔鶴が再び風結に向けて太刀を構える。
・・・・・・はぁ、・・・・はぁ、・・・・・・・。
さっきより息が苦しい。
・・・・・・ミカナ。やっぱり、すごいな。
真っ白の顔、丸眉でこちらを見つめるミカナ。
・・・・ぷっ。
◇
「嶺巴はまだか!?」
ミカナが叫ぶ。
「まともに行けて、まともに帰って来れたらもうとっくについています!」
「このままでは白結丸の負けじゃ!」
「え!?でも・・・・」
「霊力が足りんのじゃ!おれがここにおるから!」
「そ、そうなんですか?」
「しっかりしろ、御体匠!風結は御霊石が大きいぶん、霊力をたくさん喰らう!その分速くて強いのじゃ!」
「そうか・・・・!それが風結の強さの秘密!」
「秘密を大きい声で言うな!」
「でも、ミカナ殿のような方がいなければ出来ないことですし!」
「それはそうだが・・・・。嶺巴の蒼刃が、おれが風結に入る時間を作ってくれれば勝てるのじゃが!」
◇
そこへ、戦御体の足音が聞こえてきた。
ざん!ざん!ざん!
一直線にこちらへ走ってくる。
「やっと来たか!嶺巴・・・・・・あれ?」
そこへ現れたのは、蒼刃ではなかった。
青紫色に塗られている。
女性的な姿かたち、細い腕や脚が特徴の戦御体。
「杜若!?伊佐かっ!?」
急にむっくりと紅羽が起き上がった。
「紅羽姉様がいつまで待っても来ないからおかしいと思いました!」
翔鶴と風結の間に割って入る。
そして、風結を庇うように、翔鶴の前に立ちはだかる。
「貞基!白結丸様を傷つけるなら、この伊佐が許しません!」
「伊佐・・・!?」
貞基が呻くように声を上げる。
翔鶴が構えた太刀を、ゆっくりと下す。
「すまない、伊佐!」
「・・・・貞基?」
「おれは紅羽一筋!おまえの気持ちには応えられん!!」
「・・・・はぁ!?」
「まさか、お前までおれを・・・・」
「ちょっと待て!誰もそんなこと言ってない!」
「わたしだって言ってないぞ!」
紅羽も叫ぶ。
「だが伊佐、そこをどけ!おれはそいつを捕えねばならん!」
「それがおかしいと言っているのです!白結丸様自身は何をしたというのですか!」
「霞宗明、大罪人の子だ!生かしておけば、いずれ我ら緋家に対して仇なすこととなる!」
「白結丸様の父様はすでに、わたしたちの父、浄基が討ち取ったではないですか!十五年も前の話です!」
「だが、おれは父上の命を受けてここへ来ているのだ!」
「それがおかしいと言っているのです!ここにいる、誰もが、あの禿坊主爺のことなど好きではないでしょう!」
「・・・・・あ、言っちゃった」
紅羽がつぶやいた。本日二回目。
「お、おまえ!・・・・・・そう言われてみれば確かにそうだ!」
貞基の翔鶴が、ぽん、と手を打つ。
「あいつ、底なしの馬鹿だな」
紅羽は苦い顔が止まらない。
「そうです!《《船井家の方たち》》もそうでしょう?《《わたしたちみんな》》、あの禿坊主爺が大嫌いです!」
困った顔でお互いを顔を見合わせる皆家と潮。
「こほん、ええと・・・・何か、聞こえたか、潮?」
「いえ。わたしには何も」
良くわからない顔でミカナに抱き着いている茂菊。
「あの・・・・伊佐、それくらいにしておいた方が・・・・。兵たちも見ているし・・・・」
「何を言いますか!姉様だっていつも言っているじゃないですか!あの紀基の糞坊主、いつか畑に埋めて牛に喰わせてやるって!」
「言ってないっ!!そんなこと言ったことないっ!!」
「じゃあ、ついこの間!あの死にぞこない、頭に油塗って火をつけて、灯台代わりにしてやろうかしら!って言っていたでしょう!?」
「言ってないだろう!!」
その場の全員が紅羽の方をじとっとした目で見る。
「ほ、本当に言ってないぞぉっ!!」




