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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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40 風結ノ章 四十

「待ってくだされ!このお方は、わが愚息のあるじ!そして我が館の客人です!なにとぞ、ここは穏便に!」


皆家みないえが前に出る。

「父上・・・・」


「わたしからもお頼みいたします!」

うしおも皆家の隣に膝を降ろし、地面に両手をついた。


「母上まで・・・・」


皆秀は湧きあがる涙を拭うと、二人の横に並んで膝をつき、両手を地面について頭を下げた。



「・・・・・・勘違い召さるな!わしも、命をとろうと思うてのことではない!ただ、このままでは船井家の存続も危ういものとなると申しておるのだ!」

朱獄から重国が叫ぶ。


「・・・・・・わかった!!」


白結丸が皆秀たちの前に出る。


「白結丸殿!!」

「皆秀、いろいろすまなかった。これ以上、皆秀の家に迷惑をかけられない」


「いけません、従者殿!」


「あ、従者ではありません。念のため」


そう言うと、朱獄へ向けて顔を上げる。

「重国殿と申したか、お前の言うことも最もだ!だが、おれとて謂れのない罪で六原へ引き立てられるつもりもない!」


「だが、われらとて戦御体に傷ひとつなくお主を見逃したとあれば、わが首に関わることとなるのだ!」




「わかっている!だから、相撲しよう!」






「・・・・・・・」





「・・・・・・・」




「え?」


「御体同士で、相撲しよう!」










「白結丸!おれ無しで本当に大丈夫か?」

ミカナはすっかり化粧が終わったようだ。

茂菊が満足気にミカナを眺めている。


ぶっ!!

紅羽が鼻血を噴いた音。


「ああ。これは一対一の勝負だからな!」

風結が前に出る。


「確かに広い中庭と言えど戦御体同士で戦えば被害は免れん。相撲での決着とは、よく考えたな!」

重国の朱獄も一歩前に出る。


「ああ!これなら正々堂々、真剣勝負だ!」


「わしが勝てば、お主を六原へ連れていく!」

「おれが勝ったら、おとなしく六原へ帰ってもらう!」



「両者、よろしいか!」

皆家の声で、風結と朱獄が向き合って、腰を落とし構える。


「足の裏以外が地面に着いた時点でそちらの負けとする!異論ないな!」


「おう!」

「おうとも!」


「やっちまえ!白結丸!」

嶺巴が叫ぶ。

「何でおれにやらせないっ!重国っ!!」

貞基も叫ぶ。



「では、始めぇっ!!」



「行くぞっ!!」

「さあ来いっ!!」

「きしゃああっ!!」





「え?」




朱獄が前に出ようとした瞬間、朱獄の足に鎖が巻き付いた。


「お?お?おーっ!?」


重国が訳も分からないまま叫び声をあげる。

そのまま鎖に引っ張られて朱獄はうつ伏せに倒れた。




ずううん!!



「・・・・えっと、なんだこれ?」



次の瞬間、鎖をほどいて屋敷の塀の外へ飛び去る荊火の姿を白結丸は見た。


「あ、あいつ・・・・」




ばたばたばた・・・・・!

もともと手足の短い朱獄は、一度転ぶと起き上がるのが大変なようだ。


「貴様!!何やら怪しげな術を使ったな!!」


「いや、術は・・・・使ってない!」


「最初からまともに勝負する気はなかったのだな!この卑怯者めっ!!」


「ええと・・・・なんというか・・・・」


「久しぶりにこの伴藤重国、かなりお怒りになられましたぞっ!!」


「うわぁ・・・・・・」






「ちょっと、あれはどういうことだ!?」

紅羽が嶺巴に詰め寄る。


「あ、ああ。あれはちょっと・・・・なんというか、言うこと聞かなくて・・・・」

嶺巴も苦笑い。

「仕方ないのじゃ。仕切り直せ」

ミカナが言う。


ぶっ!!

ミカナを見て紅羽が鼻血を噴きだす

「・・・・なんて尊い可愛さ・・・・・ばたっ!」




「父様!母様!何か気持ち悪いものが一瞬見えました!」

茂菊が叫ぶ。

「今のは何!?皆保!!」

潮が言うと、皆秀は空を見上げながら知らんぷりをする。



「あれ、おれが作ったってこと、言わない方がいいな、きっと・・・・」



「皆保!!」

「あ、知りません」









「もう、許さん!霞の末子、ここで勝負をつける!!」


朱獄は腰の太刀を抜く。


「・・・・はぁ、結局こうなるなら最初から普通に戦えばよかった!」


風結も太刀を抜く。



その時。


どううん!!


中庭のはずれにある御体蔵の壁が崩れた。

崩れ落ちる瓦礫の中から、白い大きな影が現れる。


「重国!ここはおれも戦わせてもらうぞ!」

「若!」


「戦御体・翔鶴!さあ、霞の末子、孝基兄者を押し返したという腕前、見せてもらおうか!」



白くなだらかな曲線を描くその戦御体。

びしっと白結丸の風結を指さす。

「お前はこの手で倒す!」


・・・・・・ふっ。紅羽!壁を壊しながら登場するという、このおれの格好いい姿で惚れ直しただろう!



紅羽は鼻血を出して倒れている。



「何であの馬鹿、出入り口がすぐ横にあるのに壁を壊したんだーっ!!」

皆家が怒り狂う。

「落ち着いてください!父様っ!!」

「取り乱してはいけませんよっ!あとで六原に文句を言えばよいのですっ!!」

茂菊と潮が皆家を必死に抑える。




「ああ、結局こうなるのか!皆秀、あたしも蒼刃で出るよ!」

「はい!嶺巴殿、蒼刃はあっちの壁の向こうにあります!」

「わかった!こっちだね!」


嶺巴が走り出す。


「あーっ!!そっちは違います!こっち!」

「なんだよ!さっきはあっちって言ったじゃないか!」

「さっきはあっちでしたけど、嶺巴殿がそっちに行ったから今はこっち!」

「なんだい!皆秀のこっちはあたしのあっちだよ!そっちはこっちからすればあっちじゃないか!」

「・・・・わけわかりませんが、言い方の問題ではなくて、蒼刃はこっちなんです!」


「お主ら、そんなことでもめておる場合か!白結丸はおれがおらん風結で二体を相手にしようとしておるのじゃぞ!」


「そうです!ミカナ殿の言う通り!」


「そうだね!わかった!」

嶺巴は再び走り出す。


「だから、そっちじゃないっ!!」


皆秀は頭をかかえた。

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