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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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39 風結ノ章 三十九

「わあああっ!皆、逃げてくださいっ!」


白結丸たちのところへ、皆秀が走ってくる。


「あ、皆秀が戻ってきたね」

嶺巴が言うと、ミカナが目を凝らした。

「何か、様子がおかしいぞ?」


「逃げてぇぇぇぇっ!」


「逃げろって」

「なぜじゃ?」



「・・・・待てぇ!皆保っ!!お主を斬って、おれも死なねばならんっ!!」



「・・・・父親から逃げてるね」


「ああ、おれの身分がばれたのだな」



・・・・・。



・・・・・。




「「「逃げろっ!!」」」






「皆保!!わが家系が緋家の恩恵によりここまで大きくなったこと、それに報いる務めがあること、なぜにわからん!!ましてや紅羽様、貞基様がおられる際に、霞の末子を主君と崇めるとは何事かーっ!!」


「い、いや、待ってくださいっ!!別に白結丸殿は罪を犯したわけでなく・・・・」


「問答無用!!今すぐ霞の子とお前の首を取り、おれの命を持って緋家へお詫びするっ!!」


皆秀は屋敷の広大な中庭を逃げ回る。

それを刀を振り回しながら追いかける、皆秀の父・皆家。



「待て待て、皆家殿!わたしたちは別に霞の末子を捕えに来たわけでもない!ただ、母様のところへ行く行脚の途中で立ち寄っただけで・・・・」

紅羽が宥めようと必死だ。


「なんだと!!霞の末子がここにいるのかぁっ!!」

貞基が白装束で現れた。


「なんでこんなややこしいときに、ややこしい奴が出てくる!?」

紅羽が叫ぶ。

「待っておれ、紅羽!今すぐ霞の末子を捕えて、祝言してやる!」

「なんだ、その”祝言してやる”とはっ!」




ばたばたばたばた!



「皆秀!なんでこっちへ逃げてくるんだっ!!」


「そんな!助けてください!」


「待てっ!!皆保!その”従者”がお前の”主”、霞の末子か!?」


「だから、待てっ!!落ち着いて話しを聞けっ、皆家殿!!」


「そいつが霞の末子なのか!?さっきは紅羽の居所を教えてもらって助かったぞ!ありがとう!」


「わたしのことを教えたのか!?」


「そうしないとこいつ、話通じないから!!」


「なんてことを!待て、白結丸ーっ!わたしを売ったな!!」





「いいかげんに、なさーいっ!!」





ぴたっ。



うしおの叫びで全員の動きが止まった。


「あなた!」

「はい!」

皆家が背筋を伸ばす。

「屋敷の中で刀を振り回すなど、何のおつもりですか!!」

「いや、皆保が・・・・」

「かわいいわが子の命を奪うなど、あなた、正気ですか!?」

「す、すまん・・・つい、かっとなって・・・・」


「皆保!!」

「はい、母上!!」

皆秀も背筋を伸ばす。

「あなた、我が家の者がそんなに信用ならないのですか?身分を偽るなど!!」

「い、いえ、ですが誰もおれの話を・・・・」

「言い訳無用っ!!」

「はい!すみません、母上!!」


「紅羽様!貞基様!!」

「はい!」

「はっ、はい!?おれもか!?」

「緋家にどのような理由があるかわかりませんが、ここは我が屋敷。我が子の失態は家の恥。ですが、先ほど聞きました。この子には大きな夢があり、まだその旅の中。いずれ、必ずや皆様のお役に立てるようなものになるとお誓いいたします。なので、ここは穏便にしていただけますか?」

「ま、まあ、わたしは最初からそのつもりでいたのだが」

「・・・・深い母の愛だな。ぐすっ」

「・・・・こいつ、何で泣いてる?」




「それと、あなたたち!!」

「「はい!」」

白結丸と嶺巴が背筋を伸ばす。

「皆保は子供の頃から気が弱く、引っ込み思案で自分のやりたいことなど口にしたこともありませんでした。それが、木彫り職人になりたいと言った時だけ頑固に譲らず。わたしの反対を押し切ってまで都へ・・・・。そして、今日、あんなに自分のやりたいことをはっきりと言える男になって・・・・。あなたたちのおかげなのでしょう」

潮は顔を上げた。とても優しい母の顔をしている。

「どうぞ、これからもあの子をお願いいたします」

そう言って頭を下げた。

白結丸はちょっと気まずそうに嶺巴を見ると、嶺巴も頬を指で掻きながら斜め上を見ている。


「嶺巴殿!」

「は、はいっ!!」

「強くあたってごめんなさいね。あなたのようなお綺麗な方がうちの皆保のようなもののところに嫁に来るなど、考えたら滑稽ですわね」

「い、いやぁ、そんな・・・・」

まんざらでもなさそうな嶺巴。


「で、ここは納めてくれるのか?」

ミカナがさらっと言う。

茂菊がまだミカナの顔に白粉おしろいを塗りたくっている。

「はい。あのお方たちもわかってくれておいでです」

潮が答える。



「だから、わたしは元より白結丸を追っているのではない。たまたまここまで来ただけで・・・」

紅羽が言う。

「おれは・・・・なんというか、紅羽と婚儀をしに来ただけで・・・・」

「こら、嘘つくな!」


「若、いや、馬鹿!そういうわけにはいきますまい!」

突如、伴藤重国ばんどうしげくにの声が響いた。

「重国!?」


ずううん!!


船井屋敷の広大な中庭。

そこへ姿を現したのは、赤い色の戦御体、”朱獄しゅごく”。

首はないが、全身を真っ赤に塗られたその姿はひどく重く、威圧感を与える。


「戦御体!?」

紅羽が叫ぶ。


「重国!なぜおれを置いて勝手に戦御体など!おれにも翔鶴に乗りたい!しかも若と言ったのを馬鹿と言い直したな!」

「貞基、何を言っているっ!!伴藤ばんどう殿を止めんかっ!!」


「お待ちくだされ、皆様方!我ら、緋家の頭領、六原の紀基様よりその霞家末子、白結丸を連れ帰る命を負ってここまでやってまいった!それを目の前でみすみす逃がすなどすれば、我らはおろか、この船井家にまでわが大殿の怒りは落ちまする!ここは済まんが、この庭をお借りして、霞の末子と勝負するが正道とお見受けいたす!」







「紅羽姉様、遅いですね」


屋敷の裏側で紅羽を待っている伊佐と時千代。



「白結丸様に会いたかったなぁ・・・・・・」

「伊佐姉様、もう隠す気もないんですね」

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