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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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38 風結ノ章 三十八

「おお、紅羽ではないか!!」


「うげっ!?貞基・・・・!?」

紅羽が呻く。

「貞基・・・・」

伊佐も露骨に嫌そうな顔。

「貞基様っ!!」

時千代は嬉しそう。


「おお、伊佐と時千代も!達者だったか?」

「はい!貞基様!」

時千代の頭を撫でる貞基。


・・・・ああっ、かわいい時千代に馬鹿がうつる!


「・・・・貞基、ここへは何しに来たのか?」

紅羽がそっと貞基の手を時千代から離しながら言う。


「おお、言わずと知れたこと!紅羽を嫁に迎えに来たのだ!」

「誰がお前の嫁になるか!」

「何を言う、幼い頃に約束したではないか」

「してない!」




・・・・そう、あれはおれが三つの頃だった。

「貞秀丸!あたしがお嫁さんになってあげる!」

「しょーがないな、許す!」



「こら、勝手な回想を入れるな!しかも、そんなことはわたしは言っていない!」

「まあ、覚えておらんだけだな!」

「頭の覚えがのみ以下の奴に言われたくないわ!」


「まあ、おれの勝手なでっち上げだとしても約束は約束。さあ、祝言だ!」


「・・・・・・だーかーらー!!」


「姉様、もうこいつとまともにやり合うのはこっちが損です。ここを出て先を急ぎましょう」

「伊佐・・・・そうだな。兵たちにも言って今すぐここを出よう」

「はい。時、支度して!」

「えー!せっかく貞基様も来てくれたのに!」

「馬鹿がうつるからこいつと関わっちゃいけません!」






「待ちなさい!嶺巴殿、どこへ行かれるのですか!」

「そうよ!ミカナのおめかしはまだ残っているわ!」


「「うわぁ。出た・・・・」」


嶺巴とミカナの顔が引きつる。


「もう、あたしは皆秀の嫁じゃないって!」

「何を言うのです!修行が辛いからとそんなごまかしを!」


「母上、本当です!嶺巴殿はおれの嫁ではないのです!」

皆秀が前に出る。


「勘違いさせて申し訳ないですが、本当におれはここへ帰ってきたわけではないです。まだ旅の途中です!これから、大きなことを成し遂げるために、またこの家を出ます!」


皆秀が叫ぶ。


「皆保・・・・」

「兄様・・・・」


ふたりは少し驚いた顔で皆秀を見上げる。


「・・・・わかりました。皆保がそこまで言うなら、母は止めません」


「母上!」


「今まで皆秀はいつも自信なさげで頼りなくて・・・・。でも、こんな風に自分のやりたいことを言うようになるなんて・・・・」


「・・・・そうね。兄様はいつも俯いてばかりだったから、心配していたの」


「母上、茂菊・・・・」



・・・・妹からも心配されていたのか。


「嶺巴殿!」


「は、はいっ!」

急に呼ばれて背筋を正す嶺巴。


「これからも皆保をお願いいたしますよ。頼りない子でごめんなさいね」

「え、あ、いや。その・・・・」

「わたしからも兄上をお願いします!」

「あ、あの・・・・えと・・・・はい」


「もう、ふたりともやめてください!嶺巴殿が困っています!」

皆秀が声を上げる。


「ですが、皆保。旅に出るなら父様にもちゃんと挨拶していきなさい」

「・・・・・・・」


「皆秀、行ってきな。おれたちはここで待っている」

「白結丸殿・・・・」

「ちゃんと、自分のやりたいことを見つけたと、話しておいた方がいい。きっとわかってくれると思うぞ」


「・・・・はい、わかりました!行ってきます!」


そう言って皆秀は走って行った。


「あなた、従者のくせに偉そうなこと言うのね?」

茂菊が白結丸をじとっとした目で見上げる。


「え・・・・あ、いや、おれは・・・・」


「それと、あなたたちは旅に出てもいいけど、ミカナだけは置いて行ってくれないかしら?まだ着せたいころもがあるのよね」


「い、いやじゃぁ!!助けてくりゃれっ!!」

白結丸にしがみつくミカナ。



・・・・くりゃれ?







「若、なぜ婚礼の白装束などを?」

重国は無表情のまま貞基に言う。

「ふふふ。聞いて驚け。紅羽と祝言を挙げるのだ」

「その紅羽殿、もうここを出立するとか」



「・・・・なんだとっ!?」





「皆家殿、世話になった。今すぐ発つことにした」

「これはえらく急ですな、紅羽様」

「父上、お世話になりましたが、今すぐここを発つことにしました」

「こっちも急だな、皆保」


紅羽と皆秀は二人そろって小さく頭を下げる。


「ええと、何かありましたかな?」


「貞基が・・・・」


「おれは、一人前の御体匠みたいしょうになります!」


「御体匠?」

「はい。これからは御体がこの世を変えます。その担い手になりたいのです」

「御体は戦の道具ではないか!」

「違います!御体は、人の暮らしの役に立つもの!間違っているのは人が作り出した技ではなく、その使い方なのです!」

「だが、今の世は・・・・」

「はい!世は乱れています!ですが、我が主が変えてくれます!おれはそう信じて付いていこうと思っております!」


「・・・・主?皆保、お前、誰かに仕えておるのか?」




「はい。我が主、霞家の白結丸殿です!!」

皆秀は誇らしげに胸を張った。



「あ・・・・・言ってしまった・・・・・」

紅羽が顔を覆う。


「・・・・・・」



・・・・・・。



・・・・・・。



「なぁにぃ!!」






皆家は激怒して立ち上がった。

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