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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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37 風結ノ章 三十七

「馬鹿、この先に宿守の船井家がありますので、そこで宿をとりましょう」

「そうだな。やっと、床で寝られるな」

「老野坂の関では立ったまま寝ていましたね」

「なにか、霧が出てから眠くてな。それはそうと、さっき馬鹿と言ったな?」

「言っておりません」

「そうか、ならよい」


貞基は重国と五十人の兵を連れて船井家に入ることとなった。





「なんだ、また何か入ってきたぞ?」


厩から白結丸が御体蔵を覗く。


べろっ。


「こら、舐めるなよ。ほんにめんこいな!」


馬の鼻を押し返す。


べろっ!


「あー、もう!干し草やっから!」




「何を馬と馴染んでいるのさっ!!さっさとここを出ないと!」

馬の後ろから嶺巴が顔を出す。



「そうじゃ!紅羽たちが来ておる!何かあったらすぐに白結丸のことがばれてしまうぞ!」

ミカナも顔を出す。



「そうだな。それで、何でそんな恰好なんだ、ふたりとも?」


「白結丸が馬と遊んでいる間にあたしたちは地獄を見たんだからね!!」

「そうじゃ!こんなところで馬と仲良くなりおって!」


「何を怒っているんだよ。おれも好きで厩で寝泊まりしていたわけじゃ・・・」


「「そっちの方が百倍マシっ!!」」



「・・・・はいっ」


背筋を正す白結丸。


「では、ともかく皆秀を呼んでここから出よう」



「あいつ、ここに置いて行った方がいいんじゃないか?」

「いや、そんなわけには・・・・」

「じゃが、あいつは家の者にも好かれておるようじゃし、木彫りよりもこの家の跡取りの方が幸せな気がするのう」

「ミカナまで・・・・」


でも、確かに。

これだけ立派な生活ができるのに、あえて命がけの旅を続ける必要もないだろう。

・・・・それに、おれについてきたら、いずれ緋家と戦うことになる。そのとき、家柄とおれとの間で苦しむことになるかもしれない。



「よし、置いていこう!」


「それはひどい!」


馬の足の間から皆秀がひょっこり現れる。


「いた!?」


「”いた!?”じゃないですよ!置いていくなど酷いです!」


「す、すまん。だけど、皆も同じ意見だったし・・・・」


「何を言うのじゃ、白結丸」

「あたしらは置いていくには反対さ」


・・・・・・こいつら。


「ともかく白結丸殿、今入ってきたは紀基の末子、緋貞基ひさだもとです。紅羽殿たちはともかく、彼らに見つかるとややこしいことになります。隙を見て逃げ出しましょう」







「白結丸様たちがここにきているのですかっ!?」


紅羽の話を聞いて飛び上がりそうな勢いの伊佐。


「まて、伊佐!ここで白結丸のことが家の者に知れたら白結丸もただでは済まないぞ!」


「・・・・ですが・・・・・」


・・・・会いたい!




「そうか、千子姉上に会いに行くのだな?」

「はい!白結丸様もご一緒にいかがですか?温泉もあります!」

「なるほど、千子姉上に伊佐との婚儀の報告をして、温泉で初夜を迎えるとは、なんとも洒落ているな!」

「いやん、白結丸様ったら!」

「あはははは!」

「でも、白結丸様ぁ!」

「何だ、伊佐?」

「わたしの、身も心も・・・・・あ、げ、ま、すっ!」


きゃーっ!!恥ずかしいっ!!





「もう、伊佐姉様のくねくね踊りは見飽きてきましたね・・・・」

時千代がしっとりした目で言う。

「・・・・まだ悪霊が抜けておらんのか?見ているこっちも恥ずかしいぞ?」

紅羽は目を伏せた。







「またまた今度は貞基様とは!」


船井家は連日の来客で大騒ぎとなっている。


「すまないが、世話になるぞ!」


「はい、もちろん!じつはわが家も、近頃うれしいことがありまして!」

船井皆家は顔をほころばせる。


「そうか!うれしいことがあったのはうれしいな!」

「若、どんなうれしいことがあったのか、聞いてからそう言ってあげてください」

重国が釘をさす。


「よし、わかった。うれしいことはなんだ!?どんなことがうれしい?」


「は、はあ。実は、息子が嫁を連れて帰ってきまして」


「それはうれしいな!・・・・よかった、よかった!」

「馬鹿、気持ちが入っておりません」

「だが、所詮他人事だし」

「そこをちゃんとわが身のように喜んであげないといけません」

「・・・・・・難しいのう」


貞基は皆家の手を取って、引き寄せて抱き締めた。

「さ、貞基様っ!?」

「よかったな!それは本当に・・・・よかった・・・・」



「・・・・やり過ぎです」



「と、ともかくお祝いいたしますので、ごゆるりとお過ごしくだされ」

皆家は戸惑いながらもそう言うと、「御免」といって貞基のところを離れた。


「それはそうと、”またまた今度は”と言ったな。他に誰か来ておるのか?」


「若、馬鹿なのに変なところ鋭いですよね」


「馬鹿といったか?」

「言っておりません」

「さっきも馬鹿と言ったな?」

「言ってません」

「そうか、ならよい。おれは屋敷の中を歩いてくる。武士の子たるもの、いつ何時でも己のいる場所を把握せねばな」

「はい。ご自由に。迷子にならぬよう」

「子供扱いするな!」







「迷った」

貞基はあっという間に迷子になった。


「それにしても広い屋敷だな。六原ほどではないが・・・・」


どこを見上げても高い屋根があるばかり。


「お、あそこに人がおる。やつらに道を尋ねよう」

少し先の中庭に、四人の人影。

男が二人、女が二人。



「おーい、そこの者!ちと、道を尋ねたい」


「え?おれたち?」


「おお、そうだ。お主たち。おれは道に迷ってしまってな。どうしたら戻れる?」


「・・・・どこからいらしたのですか?」

ひょろっと背の高い男が言った。


「六原だ」


「!!」


「いや、六原へ帰る道を知りたいのではない。六原へ帰る前に、やることがあってな。それで、どうしたら霞家の末子を倒せるのか聞きたいのだ」


「・・・・は?」


「いや、今ここでお主らにそんなことを聞いても仕方あるまい。おれが聞きたいのは、すなわち、おれはどうしたらよい?」




「・・・・・・」



白結丸たちは集まって顔を寄せ合う。

「こいつ、さっきから何を言っている?」

「良くわかりませんが、白結丸殿を追ってきたらしいですね」

「適当にごまかしてさっさとここを出ようぜ。皆秀の母に見つかったら、あたしお尻が八つに割れちまう!」

「そうじゃ!もうおれもこりごりじゃ!」



「どうした?こそこそして」

貞基が声をかけた。


「・・・・」


四人が揃って遠くを指さす。

「「「「あっちに紅羽たちがいる!そっちで聞いて!!」」」」



「おお!紅羽!おれの嫁だ!」

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