表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/240

36 風結ノ章 三十六

「これはこれは、紅羽姫!よくお越しくださいました!」

船井皆家ふないみないえは懐かしそうに紅羽たちを見渡した。

「最後にお会いしたのは、まだ浄基きよもと様がご存命の頃でしたからな!」

その皆家の言葉に紅羽は苦苦しい笑みを作る。

「おう、これは申し訳ない。ですが、我が家は昨日、息子が帰ってきましてな!」


「ほう、ご子息が?どこかへ行っていらしたのですか?」


「ええ、都に行っておりました。ですがついに嫁と従者を連れて帰ってまいりました!」

「ほう、それはめでたいですね!」

「なので、今宵はおもてなし致します!この船井家、緋家一門の宿守としてお仕えできたこと、恩返しと思いごちそういたします!」


伊佐と時千代は嬉しそうに顔を見合わせる。


「それは、せっかくなので、あやかりいたそう。世話になります」

紅羽は少し頭を下げた。






「ミカナ・・・・・・頼む」


ミカナのところへ、小袖と頬かむり姿の嶺巴が来た。

濡れた手拭いをミカナに差し出す。


「わかった」

それを受け取るミカナ。

顔は白塗り、丸眉。

長い黒髪は椿油でべっとりとして、重い重い十二単を着させられている。


ばたっ。


嶺巴はそのままうつぶせに倒れ込み、小袖のすそをまくってお尻を出す。


「・・・・ひどいな。ただでさえ大きな嶺巴の尻が、赤く腫れて倍くらいになっておる」

うしおの手のひらの跡が痛々しい。


「四つに割れてないか?」

「今はまだ・・・・いや、明日には四つじゃな」

「た、助けてくれ・・・・」


嶺巴のお尻に濡れた手拭いをかぶせる。


「うっ!痛っく感じてそうろう!染みますがこと!」

「・・・・おかしな言葉になっておるぞ?」


「・・・・助けてぇ・・・・・・くりゃれぇ・・・・」







厩の朝は早い。



なぜなら、朝日が射してくると同時に、馬たちが白結丸の頬を舐めるからだ。


「まて、まて、今すぐに干し草ぁ持って来てやっからなぁ」


手押し車で干し草を運んでくる。

馬たちがむしゃむしゃと食べてくれると、こちらもうれしくなる。


「たんと食べろぉ!力ぁつけて、これからもがんばってもらわねぇといげねぇんだっぺ!」


馬の鼻を愛おしくなでる。

愛情を持って育てた馬は、立派に育っていく。


「しっかし、めんこいだなぁ、馬ぁ、ほんにかわいっぺ!」




・・・・そんなことやっている場合ではない。




さっき、紅羽たちの御体車みたいぐるま御体蔵みたいぐらに運び込まれたのを厩から見た。


「緋家よりの家系ですので・・・・」

皆秀はそう言っていた。


考えてみれば、紅羽たちは緋家の姫だから、この宿守に立ち寄るのは当たり前だ。

もし屋敷内で鉢合わせでもして、白結丸が霞家の直系だとわかれば皆秀の立場も危ういだろう。


何とかして、早くここを出なければ・・・・・。







「懐かしいな、この屋敷も」


紅羽はこの船井の宿守に思いを馳せていた。

父様と母様、そして私。伊佐も生まれていたかどうだったか。

丹後の温泉へ、父様の背中の傷の療養に行くと言って、必ずここへ立ち寄っていた。

その頃から、あの船井には世話になっている。


その頃から、ここは女中も多くて、賑やかだった。


そう、廊下を歩いていると、いつもこんな風に、女たちとすれ違って・・・・。


「藍羽の娘?」

女中たちの最後を歩く伏目がちの女を呼び止める。


「・・・・・・」


紅羽が覗き込むと、顔をそむける。

だが、間違いない。

藍羽嶺巴だ。


「なぜ、お主こんなところで・・・・」


「あなや、かかる所に紅羽なる姫君とお目にかかりぬることの、いとめでたく、かたじけなきことにはべるかな」


「・・・・何を言っている?」


「なほ、いと急ぎの事の侍れば、これよりまかり立ちなむ」


と言って、嶺巴は立ち去ってしまった。




「・・・・わたしは、まだ夢を見ているのか?」





「いや、あれは間違いなく、藍羽の娘だったが・・・・」


・・・・ということは、ここに白結丸たちもいるのか?


おいおい、ここの家は緋家の息のかかった一族。

こんなところで身分がわかれば、六原へ突き出されてしまうぞ・・・・。





「もう、いやじゃぁぁぁっ!!」


「あっ!待ちなさい!!まだお化粧が終わってないでしょっ!!」


向こうから、何か小さい子が廊下を駆けてくる。


「おおっ!!紅羽ではないかっ!!助けてくりゃれ!!」


・・・・くりゃれ!?


やっぱり、まだ夢を見ているのだ。


こんなところにまで妖の力が届いているとは・・・・。



そしてこの子・・・・。


ぶかぶかの十二単、白塗りの顔。丸眉。長い黒髪。

頬紅と赤い唇。大きな瞳にうっすらと涙を浮かべて、こっちを縋るように見上げている。




・・・・かわいすぎる。


どんな高名な人形師でも、こんなかわいい人形は作れないだろう。



なんて破壊力。




世に愛らしいものは数あれど、《《これ》》に敵うものなどないだろう。




こんなかわいい生き物、いるはずがないじゃない!





そうね、これは夢だから。


「あは、あははははは!」


「・・・・紅羽?」



「あ・・・・は・・・・・・」





ぶしゅっ!!


ばたん!



鼻血を噴いて倒れた。


「べ、紅羽っ!?」








目を覚ました。


時千代と伊佐の顔がこちらを覗き込んでいる。


「大丈夫ですか!?姉様!」

「紅羽姉様!心配しました!」


「伊佐、時千代・・・・」


「よかった・・・・。紅羽姉様、ご病気かと思って・・・・」


安心したのか、うっすら涙目の時千代。



「ごめんなさい、時千代・・・・」


「いえ、いいんです!紅羽姉様がご無事なら・・・・」



「違うのです。そういうごめんなさいではありません」


「?」


「でもそう、あれは夢です!」



・・・・これを、浮気、というのでしょうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ