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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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35 風結ノ章 三十伍

老江山おいえやまの峠を降りると、丹後の国へ入る。

そして丹後の郷から南へ降りれば丹波の国。西へ進めば但馬の国へ出る。

交通の要所でもある。


「そして、ここがおれの生まれた屋敷です!」


皆秀が両手を広げた。


その皆秀の後ろには、とんでもなく大きな屋敷がそびえ立っている。

高い櫓、巨大な蔵。母屋は大仏が暮らしているのかと思うくらい高い屋根と長大な敷地を誇り、左右を囲む壁はどうやっても同じ視界に納めることが出来ない。


「皆秀、あんた御体匠やめて家を継ぎな!」

「そうじゃ!お主、なんで木なんぞ彫っとる!」


珍しく嶺巴とミカナの意見が一致した。


「あはは、いろいろありまして」


そう言って門を開けようとした。

「あ、そうだ」


皆秀は振り返って皆を見る。

「我が家は昔から緋家と縁が強い家です。くれぐれも白結丸殿のことは内密に!」






皆保かいほうーっ!!」


そう言いながら、涙を流して飛びついてきたのは父親の船井皆家ふないみないえだ。

「よく戻ってきてくれた!よく戻ってきてくれた!もう木彫りは諦めたんだな!よかったよかった!」


「いえ、父上、諦めたのではなくて・・・・」


「皆保!」

「兄上様!」


「母上!茂菊!大事ありませんでしたか!?」

続いて現れたのは母親のうしおと、妹の茂菊もぎくだ。


「潮、茂菊!ついに皆保が木彫りを諦めて帰ってきてくれたのだ!!」


「いえ、ですから・・・・」


「本当ですか!兄上様!」


「ち、ちが・・・・」


「だからあれほどやめなさいと言ったのにっ!!」


「ですから、ちが・・・・」


「で、」

潮が嶺巴を睨む。

「・・・・?」

嶺巴がきょとんとした顔をする。


「やはり都に行かせたのは間違いでしたわ!こんな破廉恥な端女はしためを嫁に連れてくるなんて!」


「え?」

「え?」

「え?」


白結丸、ミカナ、皆秀。


「えーっ!?」

嶺巴。


「違う、違う!あたしは・・・・」


「問答無用!これから船井家にふさわしい嫁になるよう、わたしがしつけさせていただきます!!覚悟なさい!」


「ちょ、ちょっと!!違うって!!」


「その言葉遣いもお気をつけなさい!」


そう言って嶺巴のお尻をべしっと叩く。

「いってぇ!」


「いってぇ!ではありません!「痛く感じます。」と言いなさい!!」


「そんな無茶なぁ・・・・」


「そうなれば早速その性根を叩き直し致します!ついていらっしゃい!」


「え、あの!?ちょ、ちょっとぉ!?」


嶺巴は潮に襟首をつかまれて奥へ引き摺られていった。




「・・・・嶺巴、可哀そうじゃな!」

「なんで嬉しそうなんだよ」



「・・・・兄様、この娘は?」

茂菊がミカナをじろじろと見ながら言う。



「おれはこの白結丸の嫁じゃ!」

「いや、妹で・・・・」

白結丸が慌てて言う。

「なんじゃ、嫁でよいではないか!」

「おかしいだろ、ミカナはどう見ても子供なのに」


「ふーん、従者の妹か!」

茂菊がミカナを見ながら言う。


「・・・・従者?」



ぽかんとする白結丸。


「おい、茂菊!この方は違うぞ?」

「え、違うの?じゃあ、誰?」


「ええと・・・・」

さっき、皆秀自身が白結丸の素性は伏せるようにと言ったばかりだ。


「従者」

「おいっ!」


「やっぱりそうなんじゃない!じゃあ、この娘はわたしが可愛くしても良いのね?」

「・・・・それはどういう理屈じゃ?」


「あなた、とっても顔立ちが愛らしいのに、そんな汚い装束で化粧もしてないから損していらっしゃるわ!わたしが着つけてあげます!」

「え?お、おい!よせ!よすのじゃっ!!助けて!白結ま・・・・うぎゅっ!?」



・・・・ああ。連れていかれた。



「よし、皆保。お前の部屋はそのままにしてある。いつでも帰って来られるようにな!」

「はい。では、白結丸殿、とりあえず荷をおろしましょう・・・・」

「そうだな・・・」


「何を言う、皆保」


「え?」

白結丸の中に嫌な予感が走った。


「荷物など、従者にやらせておけばよいではないか。お前はゆっくりなさい」


・・・・やっぱり、そう来たかぁ!


「おい、従者!きちんと荷を運んでおけよ。お前の寝床はうまやだからな!」

「いえ、違います!父上!」

「違うものか!おまえの従者だろう?」

「・・・・はい」


・・・・・おーい!!



それは、従者だとしてもあんまりじゃないか?







「わぁ、かわいいっ!!」


ミカナは完全に茂菊の人形となっていた。


色とりどりの単衣を着せられて、顔に化粧を塗りたくられた。

真っ白に化粧した顔に丸眉。紅を差して・・・・。


「本当に、お人形みたい!」


満足気な茂菊。


「・・・・疲れたのじゃが」


「駄目よ、まだ愛らしさが足りないわ。あなたはもともと愛らしいのだから、もっともっとできるはずよ!」


「・・・・うげぇ・・・・」


「こら、そんな顔してはだめ!また化粧のやり直しじゃない!」


「え、えええっ!?」


「ほら、口をそんなに開けるから!紅が取れちゃったわ!」


「た、助けてくれぇ・・・・」





「あたし、窮屈なのが苦手でさぁ!!」


一方、嶺巴は下女の格好で窯の火を起こしていた。


「まあ、何という言葉をお使いになるの!!」


べしっ!!


潮が嶺巴のお尻を叩く。

「いってぇ!!」

「違うでしょっ!!」


べしっ!!


「いっ、いったいでございますっ!!」

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