34 風結ノ章 三十四
その刹那、白結丸の体を一陣の風が纏った。
白結丸は突如巻き起こった竜巻のような風に煽られて浮かび上がる。
「うわっ!?」
「があっ!!」
襲いかかった白虎の牙が白結丸の肩を切り裂く。
血が滲みだす。
なおも飛びつこうとする白虎の爪を紙一重で躱すと、白結丸の体は飛ばされて地面に転がった。
「なんだっ!」
そう言いながら勢いのまま立ち上がる白結丸。
「白結丸!無事かっ!?」
そこには、馬に跨った少女の姿。
「ミカナ!」
「何とか間に合ったようじゃな!」
「ミカナ、今のはっ!?」
「白結丸!くるぞっ!!」
唖然とする白結丸に白虎が襲いかかる。
「がぁぁぁぁぁぁっ!!」
「白結丸!!」
「くそっ!!」
白結丸が刀を横へ一閃する。
その瞬間、白虎が消える。
「まただっ!」
「後ろじゃ!」
その声に、白結丸は振り向かず横へ跳ぶ。
その瞬間、白結丸のいたところを白虎の爪が空を切る。
「次、右じゃっ!!」
目で追っていては間に合わない。
ミカナの叫ぶ方向へ刀を振る。
ざしゅっ!!
捉えた!!
確かな手ごたえ。
白虎の喉元に刀が突き刺さる。
「ぎゃああうううっ!!」
白虎は叫び声をあげて地面に転がる。
青い血があたりに飛び散って土を染める。
「緩めるな!斬れーっ!!」
ミカナが叫ぶ。
白結丸は刀を振り上げると、白虎めがけて飛び上がる。
「うりゃああああああっ!!」
白虎の首を捉えた。
「がふっ!」
確かな手ごたえと、肉を裂く感触。
吹き出す青い血。
そして、落ちる白虎の首。
白虎の首はごろごろと転がっていく。
お堂の入り口あたりに、こちらを向いて止まる。
「お主が麒麟の巫女か」
首だけの白虎がしゃべりだす。
「・・・・何の話じゃ」
ミカナが答える。
「麒麟の子はまだ目覚めておらん。いずれ力に目覚めた時、その力をもらい受ける」
「ふん!妖なんぞに!」
ミカナはそう言うと、馬を降りて白結丸のところへ駆け寄る。
「ミカナ・・・・」
「白結丸・・・・虎が・・・・」
「麒麟の力、育てておけ・・・・」
そう言い残し、虎の首はすっと消えていった。
体も少しずつ塵となって消えていく。
「何だったんだ、こいつは?」
「わからん。ただの妖、というわけでもなさそうじゃな・・・・」
ミカナはそう言うと、ふっと白結丸に倒れかかる。
「ミカナ?」
「すまん。力を使いすぎた・・・・」
「霊力切れか?ミカナが?」
「・・・・なんじゃ、おかしいか?」
「いや。・・・・立てるか?」
「無理じゃ。運んでくれ」
「・・・・ほんとか?」
「ああ、くらくらするのう!」
そう言って白結丸にもたれかかる。
「・・・・仕方ないな」
白結丸はミカナの体をふいっと持ち上げると、ミカナが乗ってきた馬に乗せて自分も跨った。
「もう少し優しくしてほしいのじゃが?」
「ともかく戻ろう。皆が心配している」
白結丸が手綱を引く。
「そうでもないぞ。皆気持ちよさそうに寝ておる」
「・・・・呑気な奴らめ」
◇
「は、は、白結丸様ぁーっ!!」
伊佐が白結丸のところへ飛んできた。
「伊佐!?どうして?」
驚く白結丸の首に手を当て、大粒の涙を流し始める。
「な、なんだ、なんだっ!?」
「白結丸様が、つながってるっ!!」
「あ、当たり前だろ!?」
「・・・・よかった!」
伊佐が一瞬笑顔になったと思うと、大声で泣き出した。
「わあああああああっ!!」
「・・・・白結丸。生きていた!?」
紅羽も様子がおかしい。
「姉様っ!!ひどいっ!!」
「い、伊佐、すまん・・・・って、なんで伊佐が怒る!?」
「?」
「ふわああ・・・・」
欠伸をする時千代。
「楽しい夢でしたね!」
「・・・・何の話だ?」
◇
「寝ていた割に疲れたのはなぜでしょう?」
皆秀が首をこきこきと鳴らしながら言う。
「全くだよ。全然寝た気がしない・・・・」
嶺巴もうな垂れながらつぶやく。
「ほんとにいい気なもんだな。おれが妖と戦っていたのに」
「やっぱり、老江山の妖が出たのですか?」
皆秀が言うと、白結丸が頷く。
「ああ。皆秀の言った通りだった。恐ろしいほどそのままだ」
「では、話しておいてよかったです。酒は飲まなかったのでしょうね?」
「・・・・そういえば、酒は出されなかったな・・・・」
「そうなのですか?」
「その代わり・・・・」
「その代わり?」
「お蓮の山菜汁を喰い損ねた」
「白結丸、それ喰ってたら危なかったんじゃないのかい?」
「そうじゃ。落ちとるものを何でもかんでも喰うでないぞ」
・・・・・・。
◇
「姉様、このまま白結丸様たちの後ろをついて行っていいのですか?」
伊佐が少しうれしげに言う。
「うむ。まあ、なぜか白結丸に、とても悪い気がしてな」
「当たり前です!いくら夢とはいえ、白結丸様を斬首刑にするなど!」
「・・・・伊佐、いつから白結丸を様で呼ぶようになった?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「姉様、嫌いです」
じとっとした目で紅羽を睨む。
「な、なぜっ!?」
時千代が満足気な笑顔で頷く。
「楽しい夢でしたね!」
◇
「なあ、重国」
「何でしょう、馬鹿」
「今、馬鹿といったか?」
「いえ、若と言いました」
「そうか、聞き違いか」
「で、何でしょうか?」
「霧が晴れたので先へ進みたいな」
「ですが、若が”関所の役人は罪人だらけだ”などと六原へ進言したおかげで、孝基様より次の役人が六原から来て任に着くまで、ここで関の番をせよ、と仰せつかったのですよ」
・・・・・・・。
「退屈だな」
「知りません」




