31 風結ノ章 三十一
「皆保、あんた武家の息子、しかも跡取りなのに・・・」
あれ?母上?
「もう言うな、潮。あれだけ話し合って決めたじゃないか。皆保の好きにさせようって」
あ、父上。
「兄様、必ず帰ってきてくださいね!」
茂菊・・・・。
そうだ、思い出した。
丹波の家を出た時の光景だ。
なら、これは夢だ。
おれは見送られながら家を出た。
どうしても、木彫りの腕を身につけたかった。
そこで父上に頼み、しばらく家を空けることのお許しを得た。
都に行き、一番の木彫り職人の下で修業してきます。
母上は大反対だったな。
あれほど怒った母上は初めて見た。
だけど、都で名高い楠流一門の門下に入ることが決まると、父上が母上を宥めてくれた。
「なんだぁ、これはぁ!?」
また親方に怒鳴られてる。
いつものことだが、今まで親にもあまり怒られたことのないおれにとって、親方は本当に怖い。
「・・・・す、すみません!」
「すみません、じゃねぇんだ!おまえの下書き、何で雀が猫より大きいんだ!化け雀か、こいつは!?」
「は、はい!すぐ書き直します!!」
「あったりめぇだ!!やり直せっ!!」
「はいっ!!」
兄弟子たちにいつも笑われてた。
でも、楽しかったな。
木と向き合って、木目を読んで。
それに逆らわないように、下絵を描いて、彫る。
間違ったことをすると、すぐに割れてしまう。
木は、誰よりもおれのことを見ていてくれる。
あの日、六原から役人が来た。
聞くともなしに、襖の向こうの話が聞こえてきた。
「いつまでも木彫りなど!」
「うっせぇ!木彫り職人が木彫りをしていて何が悪いってんだ!」
・・・・親方、また怒鳴ってる。
「これからは戦御体が世を変える!戦の在り方が変わる!それだけでない!屋敷を建て、穴を掘り、木を切る!すべてが人の手から御体に変わる!もう、世が変わろうとしているのだ!」
・・・・・・世が、変わる?
「何のつもりか知らねぇが、おれはそんなもんに興味はねぇ!!とっとと帰れ!」
・・・・あの役人、追い出された。
翌日も、そのまた翌日も、あの役人は来た。
どうしても親方に戦御体を作らせたいらしい。
「そもそも、戦御体ってなんだろう?儲かるものなのかな?」
ぼそっと口から出た。
別に儲け話に興味があるわけじゃない。
あれほど必死に親方を口説きに来るぐらいだから、それだけの価値があるのだろうと思っただけだ。
ただ、その言葉を、親方が聞いていた。
「皆秀っ!!てめぇっ!!」
「あ、いえ!?そういうわけじゃ・・・・・」
「破門だーっ!!」
でも、あとでわかった。
白結丸殿たちと出会ってから。
兄弟子、慶秀との約束。
そして、同じように苦しんでほしくないという親心だったのかと、今ならわかる。
だけど、あの時は途方にくれた。
行く宛てもない。
破門されたなんて言ったら、父上と母上がどんなに悲しむか。
ぶらぶらと歩いていたら、いつの間にか人気のない羅城門へたどり着いた。
とりあえずここをねぐらにしようと決めた。
門の中はとても広く、暗くてひんやりしている。
そして、二階へ上がった時、見つけてしまった。
とても怖かった。
がらくたが散乱していた。
その中に落ちている書を拾って、ぱらぱらと見た。
「・・・・これは・・・・・」
人を使って作る、御体・・・・!?
不思議と、書いてあることはすぐに理解できた。
だが、本当に人を使って絡繰りが動くなど、常識で考えられることではないと思った。
さらにがらくたを漁ってみる。
油紙に包まれた・・・何か。
「なんだろう?」
紙を破って、中身を取り出す。
「ひいいっ!?」
人間の腕。
他にも、いっぱいあった。
骨、足、頭・・・・。
どれにも何か、いじろうとした跡がある。
「・・・・本気で、これを作ろうとしていた?」
さっきの書をもう一度読み返す。
書の最後に”幻丈”と名が記されている。
・・・・げんじょう?
カタッ。
・・・・ガラクタの中で、何か動いた。
おそるおそる、ガラクタをかき分ける。
人の上半身。
「うわぁぁぁぁっ!?」
驚いて腰を抜かす。
動いている!?
上半身だけで!?
青白い顔はどこも見ていない。
ただ、痙攣するように体を震わせている。
そして、何もないと思っていた下半身、絡繰りがつながっている。
頭、胸、あちこちから管が伸びている。
・・・・さっき、この書に書いてあった。
この通り繋げば・・・・。
職人としての想いだけだった。
気持ち悪いとか、恐ろしいとか、どうでもいい。
壊れているのなら直したい。
作りかけなら完成させたい。
数日間、それに費やした。
そして、出来上がった・・・・・・。
奇怪な生き物。
生きているのだろうか?
それはゆっくりとこっちに顔を向けて、目を開けた。
やはりどこも見ていない。
「きしゃあああああっ!!」
「うわあああああああっ!?」
いきなり叫んだ。
そして、腕に繋がれた鎖をくねくねと動かし始めた。
「あ、あの・・・・あなた、何者で・・・・」
「きしゃああああああっ!!」
「ひいっ!!」
《《それ》》は、もうひと声鳴くと、外へ飛び出していった。
「あ!」
下の方から声が聞こえる。
「なんだい、あれ!?」
「おい、都には普通にいるものなのか!?」
「そんなわけないだろっ!!」
ああ、人が襲われている!
駄目だ、とんでもないことをしてしまった・・・・!
しばらくして静かになった。
そっと下を覗いてみる。
さっき出来上がったばかりの《《それ》》が、倒れて動かなくなっている。
・・・・直したい。
でも、駄目だ。また、人を襲う。
斬られた管を繋げるだけ・・・・・。
「きしゃああああっ!!」
「うわぁっ!?やっちゃった!!」
それは素早く飛び上がると、門の二階へ姿を隠した。
「し、しまった・・・・。今度は人が襲われるかも・・・・」
その時、皆秀の中でひらめいた。
さっきのふたりに助けてもらえばいい!
皆秀はふたりを追って走り出した。




