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戦ぎの淡い影 ― 平安戦御体戦記  作者: ひろくま
一章 風結 かぜゆい

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30 風結ノ章 三十




「嶺巴!」


・・・・父上の声?


「母上に子が出来た!今度こそ、お前の弟、男児だ!」


嶺巴の目の前にいるのは三人の妹。


ああ、そうだ。


父上はずっと男児を欲しがっていた。





「・・・・また、女だ!?どうしてだ!?」


結局、子供は四人とも女だった。


妹たちは一番下が生まれてすぐに里子に出された。ほとんど顔も覚えていない。


「嶺巴・・・・お前の母上はもう子供が生めない体になった・・・」


「・・・・・・・」


「嶺巴、お前を男子として育てる」




剣の修練も、厳しかったが嫌ではなかった。

馬で駆け、矢を射って、刀を振るう。

体が引き締まる。

髪を結い、烏帽子をかぶる。


まわりの皆が、あたしのことを立派な「わらわ」だね、と言った。

あたしはそれが誇らしかった。

父上も、そんなあたしを自慢していた。


だけど。


あるとき、父上があたしを殴った。


「なぜだ!おまえ、なぜそんな体になってきたのだ!」


あるときから、胸が張ってきた。


女になってきてしまった。



「なぜだ!あんなに男児として育てたのに!やはり、おまえは女!この藍羽家を継ぐのはお前ではない!!」


・・・・父上!





ほどなくして、父上は養子を迎え入れた。

藍羽の家はその子が継ぐことになった。


わたしは家を出た。



でもある時、父上とその子が戦で死んだと聞いた。

大堰川おおいがわで鬼に踏み潰されたらしい。



不思議と悲しくなかった。


ただ、あたしを認めないまま父上がいなくなったのが悔しかった。



その後は、食べるために必死だった。


あるとき、大路の真ん中で人だかりができているのを見かけた。


緋家の役人が、町の者におかしな石を触らせていた。

よく耳をそばだてて聞いてみると、どうやらあの石を触って光ると、緋家のお抱えになれるらしい。


食べることに必死だったあたしは、そこに駆け寄った。


そして、あたしの番が来て、石に触った。




何といえばいいのか、あの時の不思議な感覚。

吸い込まれるような、空を飛んでいるような。


ともかく、まぶしく石は光った。



あたしはすぐに六原へ連れていかれた。



食べるもの、寝るところがある。雨が降る日も屋根がある。

それだけでうれしかった。



だけど、あたしに与えられたのはとんでもないお役目だった。



そう、”鬼”だ。



父上を踏み潰した鬼。それに乗せられた。


まだ完成していない鬼に詰め込まれて、石を握る。

体中に痛みが走った。

違うときは、石を握った瞬間に目の前が真っ暗になった。


鬼から出ると、傷や打ち身はないのに体中が痛い。



何度も吐いた。

それでも、あたしは無理やりあの狭いへ押し込まれた。



「今度の戦御体は今までのものと力も動きも違う。お前は死んでも良いが、戦御体だけは壊すな」

そう言ったのは、常秀じょうしゅうだ。


その時乗せられたのが青い戦御体”蒼刃”。


あたしが蒼刃の御霊石に触れた途端、何かがあたしの中に入り込んできた。


体中が震えて、意識が吹っ飛んだ。





「おい!!女!!なんてことをしてくれた!!」



あたしが意識を取り戻した時、常秀があたしを睨んで叫んだ。


蒼刃から出てあたりを見渡した。


何が起きたのか、あたりは瓦礫の山。

人の死体が転がっていた。


・・・・何が起きた!?




「すべてあの女がやったことだ!」

常秀はそう言って譲らなかった。

孝基も、すべてあたしのせいにして丸く収めようとした。


あたしは六原を追い出されることになった。


最後にどうしても常秀に文句が言いたくて、御造所みぞうじょに行った。



そこに、あの青い戦御体があった。


・・・・悔しい。


あたしは女だから、誰も認めない。あたしの言い分を聞いてくれない。




その時、蒼刃の陰から人が出てきた。


「あんた、何してんだい?」


「ああ。ためしの女か。あんた、可哀そうにな。あんたのせいじゃないのに」


「え!?」


「おれは朽平くちひら。訳あって、あの糞役立たずの常秀の弟子をやっている。それも今日で終わりだ」


「やめるのかい?」


「ああ。ひと通り、戦御体のことは覚えた。これからはおれがやりたいように作る。・・・・・・ここもだ。これだけ滅茶苦茶に管を繋いだら、そりゃ暴れ出すってもんだな」


「・・・・・・・」


「あんた、このまま逃げ出すのは悔しいだろ?」


「あ、当たり前だよ!」


「この蒼刃、もう一度暴れさせてみないか?今度はあんたがやるんだ」


「え?」


「おれも、緋家の奴らには一泡吹かせたいんだ。ここであんたがこれに乗って暴れてくれたら、それはそれは心地が良いと思うんだよ」


嶺巴は口元をニヤリとさせた。


「その話、乗った!!」






父上、あたしは女。

どんなに頑張っても男になれない。

でも、女には男よりも強い武器がある。

だから、あたしはあたしを貫く。

女であることを武器とするんだ。







・・・・・・これは、何の夢だろう?



なぜ、いまさら父上のことなんて・・・・。




「あたしは藍羽政直あいばまさなおの娘、藍羽嶺巴!」


白結丸と初めて出会ったとき、思わずそう名乗った。

なぜだったんだろ?


あの時まで、父上の名前なんて口にしたこともなかったのに・・・・。





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