30 風結ノ章 三十
◇
「嶺巴!」
・・・・父上の声?
「母上に子が出来た!今度こそ、お前の弟、男児だ!」
嶺巴の目の前にいるのは三人の妹。
ああ、そうだ。
父上はずっと男児を欲しがっていた。
「・・・・また、女だ!?どうしてだ!?」
結局、子供は四人とも女だった。
妹たちは一番下が生まれてすぐに里子に出された。ほとんど顔も覚えていない。
「嶺巴・・・・お前の母上はもう子供が生めない体になった・・・」
「・・・・・・・」
「嶺巴、お前を男子として育てる」
剣の修練も、厳しかったが嫌ではなかった。
馬で駆け、矢を射って、刀を振るう。
体が引き締まる。
髪を結い、烏帽子をかぶる。
まわりの皆が、あたしのことを立派な「童」だね、と言った。
あたしはそれが誇らしかった。
父上も、そんなあたしを自慢していた。
だけど。
あるとき、父上があたしを殴った。
「なぜだ!おまえ、なぜそんな体になってきたのだ!」
あるときから、胸が張ってきた。
女になってきてしまった。
「なぜだ!あんなに男児として育てたのに!やはり、おまえは女!この藍羽家を継ぐのはお前ではない!!」
・・・・父上!
ほどなくして、父上は養子を迎え入れた。
藍羽の家はその子が継ぐことになった。
わたしは家を出た。
でもある時、父上とその子が戦で死んだと聞いた。
大堰川で鬼に踏み潰されたらしい。
不思議と悲しくなかった。
ただ、あたしを認めないまま父上がいなくなったのが悔しかった。
その後は、食べるために必死だった。
あるとき、大路の真ん中で人だかりができているのを見かけた。
緋家の役人が、町の者におかしな石を触らせていた。
よく耳をそばだてて聞いてみると、どうやらあの石を触って光ると、緋家のお抱えになれるらしい。
食べることに必死だったあたしは、そこに駆け寄った。
そして、あたしの番が来て、石に触った。
何といえばいいのか、あの時の不思議な感覚。
吸い込まれるような、空を飛んでいるような。
ともかく、まぶしく石は光った。
あたしはすぐに六原へ連れていかれた。
食べるもの、寝るところがある。雨が降る日も屋根がある。
それだけでうれしかった。
だけど、あたしに与えられたのはとんでもないお役目だった。
そう、”鬼”だ。
父上を踏み潰した鬼。それに乗せられた。
まだ完成していない鬼に詰め込まれて、石を握る。
体中に痛みが走った。
違うときは、石を握った瞬間に目の前が真っ暗になった。
鬼から出ると、傷や打ち身はないのに体中が痛い。
何度も吐いた。
それでも、あたしは無理やりあの狭い繰り座へ押し込まれた。
「今度の戦御体は今までのものと力も動きも違う。お前は死んでも良いが、戦御体だけは壊すな」
そう言ったのは、常秀だ。
その時乗せられたのが青い戦御体”蒼刃”。
あたしが蒼刃の御霊石に触れた途端、何かがあたしの中に入り込んできた。
体中が震えて、意識が吹っ飛んだ。
「おい!!女!!なんてことをしてくれた!!」
あたしが意識を取り戻した時、常秀があたしを睨んで叫んだ。
蒼刃から出てあたりを見渡した。
何が起きたのか、あたりは瓦礫の山。
人の死体が転がっていた。
・・・・何が起きた!?
「すべてあの女がやったことだ!」
常秀はそう言って譲らなかった。
孝基も、すべてあたしのせいにして丸く収めようとした。
あたしは六原を追い出されることになった。
最後にどうしても常秀に文句が言いたくて、御造所に行った。
そこに、あの青い戦御体があった。
・・・・悔しい。
あたしは女だから、誰も認めない。あたしの言い分を聞いてくれない。
その時、蒼刃の陰から人が出てきた。
「あんた、何してんだい?」
「ああ。試繰り手の女か。あんた、可哀そうにな。あんたのせいじゃないのに」
「え!?」
「おれは朽平。訳あって、あの糞役立たずの常秀の弟子をやっている。それも今日で終わりだ」
「やめるのかい?」
「ああ。ひと通り、戦御体のことは覚えた。これからはおれがやりたいように作る。・・・・・・ここもだ。これだけ滅茶苦茶に管を繋いだら、そりゃ暴れ出すってもんだな」
「・・・・・・・」
「あんた、このまま逃げ出すのは悔しいだろ?」
「あ、当たり前だよ!」
「この蒼刃、もう一度暴れさせてみないか?今度はあんたがやるんだ」
「え?」
「おれも、緋家の奴らには一泡吹かせたいんだ。ここであんたがこれに乗って暴れてくれたら、それはそれは心地が良いと思うんだよ」
嶺巴は口元をニヤリとさせた。
「その話、乗った!!」
父上、あたしは女。
どんなに頑張っても男になれない。
でも、女には男よりも強い武器がある。
だから、あたしはあたしを貫く。
女であることを武器とするんだ。
・・・・・・これは、何の夢だろう?
なぜ、いまさら父上のことなんて・・・・。
「あたしは藍羽政直の娘、藍羽嶺巴!」
白結丸と初めて出会ったとき、思わずそう名乗った。
なぜだったんだろ?
あの時まで、父上の名前なんて口にしたこともなかったのに・・・・。
◇




