第35話 偽りの戦火 6 ジュースの反乱
ブーレイの反政府組織『自由の空』はリーダーである指揮者エフレム・ベレツを失った。
しかし、リーダーを失っても『自由の空』は、圧政に負けない。
『自由の空』のサブリーダーであるフェオドラ・シャルは、エフレムの遺志は、私が継ぐと立ち上がったのだ。
エフレムを失って一か月後、フェオドラは、組織の立て直しのためにブーレイ第3の都市ジュースにいた。
「偉大な指導者エフレムを私たちは失った。しかし、彼の意志は私達とともにある。ブーレイの市民をこの圧政から解放する。ジュースからベアーリン政権を打倒するのだ。長引くミーシアとの戦争でこの国は疲弊してしまった。ミーシアは我々の敵ではない。政権が見通しもなく無謀に起こした戦争で市民が犠牲になるのを許すわけにはいかない。また、政権が放ったドラゴンも剣聖スフィーティア・エリス・クライにより、排除されている。今こそ、我々は、ここジュースで行動を起こす時だ!」
反政府組織『自由の空』は、蜂起的な反政府行動を開始した。
『自由の空』は、ジュース周辺の『連邦防諜治安機関』の各拠点を標的に、一斉に破壊工作を開始した。
指導者エフレム・ベルツ暗殺の報復を旗に掲げ、一斉に各拠点の襲撃が行われた。そして、市民への決起を呼びかけていくことになる。
これにより、連邦防諜治安機関は混乱し市民への監視の目が緩み始めていた。
そして、フェオドラ・シャルは、ジュースの連邦防諜治安機関の主要拠点、通称『鷹の眼』を襲撃し陥落させることを決断した。
「市民を味方につけ、決起する。『鷹の眼』。ここを落とすのが一番効果的だ。一気に市内の統制監視が緩むことになる」
フェオドラは、机上にジュース市内の地図を広げ、場所を指さす。
「しかし、ベーリンの時のようにドラゴンが現れたらどうする?」
「その心配はないだろう。既にブーレイ国内で剣聖が動いている。彼らにドラゴン出現地点と思われる情報を提供した。彼らはこの件では容赦ない行動を取るだろう」
「軍の方はどうだ?軍に動かれたら、とても我々だけでは持ちこたえられない」
「ミーシアでの使い捨てのような容赦ない突撃に動員された兵士はうんざりしている。そんな指揮官に対する兵の信頼は地に落ちているさ。一押しすれば、兵をこちら側につけることもできるだろう」
「その鍵は、民衆を動かすことということか。恐怖よりも良心に訴えかける。多くの兵は、国民に銃剣を向けることに抵抗するはずだ」
「そういうことだ。かつてないほどに『自由の空』に風が吹いている。やろう同志諸君!」
フェオドラが剣を抜き高く掲げた。
他のメンバーもフェオドラの掲げた剣に剣を合わせた。
「標的は、こいつだ。アレクサンドル・ソコロフ。ジュースの機関の支部長。こいつを倒して、『鷹の眼』を落とす。そして市民に決起を呼び掛けるんだ」
『自由の空』は、迅速に動いた。
ジュース市内の連邦防諜治安機関が次々と襲撃され混乱した間隙を突き、フェオドラを先頭に、一気に機関の主拠点『鷹の眼』を襲撃する。
ブーレイでは、魔法よりもライフル銃のような飛び道具の使用が多い。しかし、フェオドラは片手剣の使い手だ。彼女は、銃弾をも真っ二つにすると言われるほどの達人だ。
彼女は先頭に『鷹の眼』に襲撃を開始した。
支部長のアレクサンドル・ソコロフは、軍人であり狡猾な男だ。『自由の空』の襲撃を迎え撃つ。
「賊め!」
ソコロフは、前に進み出てサーベルを抜いた。
「無意味な戦争で市民を苦しめている現政府。その犬たる貴様等の方が賊だ!」
「吠えたな。女。私自ら相手をしてやろう。前へ出ろ!」
「望むところだ」
フェオドラが、前に進もうとすると、横にいた元聖魔騎士アトス・ラ・フェールが袖を掴んだ。
「気をつけろ。罠だぞ」
「承知している。お前を信頼しても良いのだろう?」
「チっ。そっちかよ」
「任せた」
フェオドラが二ッと笑う。
アトス・ラ・フェールは、四方の建物の陰や屋根に衛兵が配置されているのを確認していた。
「仕方ねえ」
アトスは、前に進み出て行くフェオドラの背中を見送る。
「良い度胸だ。その度胸に免じて私自ら剣の錆にしてやろう」
そう言うやソコロフは、上段から斬りかかった。
それをフェオドラは、剣を抜刀し、弾き返すと、前に進み、上段から剣を振り下ろす。ソコロフはこれを、左手に剣を持ち替え受け止めるや、腰の銃を抜くとフェオドラの顔目がけて発砲する。フェオドラは、銃を蹴り上げると、銃口がそれ、フェオドラの髪をかすめ、屋根にいた衛兵に命中し、衛兵が屋根から落下した。
「ふん。卑怯な手を!」
「勝てばよいのだ。死人に口なしだからな」
「ああ、そうかい」
フェオドラが、剣に力を込め押し返すと、ソコロフが圧され体勢を崩した。そこに脚をかけると、ソコロフは転んだ。
「終わりだ」
倒れたソコロフの顎先に剣を突きつける。
「それは、どうかな?」
ソコロフは余裕の表情を見せた。
バーン!
カラン、カラン
ソコロフの後ろの物陰から発砲音が響くと同時に真っ二つになった銃弾が地面に転がった。
フェオドラが、正面から放たれた銃弾を剣で真っ二つにしたのだ。
その隙に、ソコロフは、立ち上がり、フェオドラから間合いを取った。
「ええい、一斉にかかれ!」
ソコロフがサーベルで合図を送ると、屋根から衛兵が立ちあがり、フェオドラに狙いをさだめ一斉に発砲してきた。
バババーーーンッ!
一斉に発砲音が響くが、銃弾は全てフェオドラの頭上で静止していた。
薄っすらと浮かぶ透明な腕の掌が、全て銃弾受け止めたのだ。
「全く無茶すんなよな」
アトス・ラ・フェールが、フェオドラの横に来てぼやく。
「ふん、便利なものだな。その魔法は?」
カランカランカラン・・・。
銃弾が全て地面に転がった。
アトス・ラ・フェールが、神聖魔法『神の手』で銃弾を全て止めたのだ。
「この借りは、高くつくぜ」
アトスがからかうように言う。
「何だ?私の身体目的か?」
フェオドラが、豊かな胸を左手で持ち上げる。
「ば、馬鹿野郎、そういうこと言ってんじゃねえよ!」
アトスの顔が赤くなる。
「うふふふ。アトス、お前は反応が楽しい奴だな」
「うるせい!そんな事より早く蹴りをつけるぞ」
「ウギャーーーッ!」
アトスは、屋根の上にいた衛兵等を、ゴッドハンドで全て地面に叩き落とした。
「さあ、これで終わりだ。お前の策は尽きたぞ」
改めて、フェオドラは、ソコロフに向けて剣を突きつける。
「まだだ!」
ソコロフは、フェオドラに長いサーベルの突きを放った。
フェオドラは、それを剣で横に逸らすと上空に弾いた。そして、落ちて来たサーベルの柄の輪を剣先で通しサーベルをからめ取った。
フェオドラは、剣を後ろに振ると、からめ取り鍔で止まったサーベルは、フェオドラの後方に転がった。
「待て!降参だ」
これは、敵わじとみてソコロフは両手をあげた。
「そうか。ふん!」
「ウグワッ!」
フェオドラは、踏み込むとソコロフの胸を一突きした。
「貴様の罪は重い。死あるのみだ」
フェオドラは、ソロコフの耳元で呟くと剣を抜き、その血を振り払う。
『自由の空』の他のメンバーにより、周囲の敵が掃討され、建物内に突入すると、呆気なくジュースにおける政府治安機関の主拠点『鷹の眼』は落ちた。
これを知った一部の市民は立ち上がった。しかし、政府の苛烈な弾圧を知っている大部分の市民は、まだ恐れ沈黙していた。
数日後。
そんな中、休む間もなく新たな事態が発生する。
「大変だ。政府軍の部隊が、ジュースにやって来るぞ」
「兵力は?」
「一個師団と言っているが、これは虚報だ。しかし兵2、3千人はいそうだ。」
「2千だと。こっちは、加わった市民も含めてたった200人ほどしかいないぞ」
「やるしかないよ。覚悟を決めな。ジュースは、人口15万人都市だ。市民を味方につければ勝てる」
フェオドラが立ち上がり言った。
「逆にこれは、本当のチャンスだよ」
この一個師団は、ミーシアの前線に送られる筈だった部隊だった。定員も確保できず、多くが新兵で編成された急ごしらえの部隊だ。訓練も碌にされていないと考えて良い。装備も急ごしらえの部隊のため、碌なものではなかった。中には、銃はおろか武器すら持っていない兵もいたのだから。士気は極めて低かった。
そんな部隊が、ミーシアの戦線で見られたのと同じように正面から突撃してきた。
「政府軍一万がここに押し寄せて来たという噂で市民が動揺しているぞ」
「敵の諜報に惑わされるな。敵はその5分の一ほど。間者を捉え、市民の前を引き回せ」
「よしきた」
これの対応によりジュース市内の動揺は一旦落ち着いていく。
政府軍の突撃兵が、防御の弱点を探るべく幾方向から攻撃してきた。この攻撃は撃退されたが、北西方向から、下水道を通り、市内に敵が侵入してきた。虚を突かれた形となった『自由の空』は、掃討作戦の検討を行う。
市内には、既に50人ほどのブーレイ兵に既に侵入されていた。『自由の空』は内と外との作戦を強いられることになった。
『自由の空』内部の議論が続いた。
「既に敵の浸透作戦が進み、市内の数か所に拠点を気づき始めている。まだ被害は少ないが」
「我々は、数が少ない。どちらかに専念すべきだ。今は、内は捨てるべきだろう」
「しかし、・・・」
「これ以上敵の浸透作戦を許せば、ジュースは落とされるぞ。本隊を叩くべきだ」
「内は、後回しにしよう」
フェオドラが、決断する。
「わかった」
議論がまとまると、『自由の空』の幹部は部屋を後にする。
「市内は俺に任せろよ」
残ったアトス・ラ・フェールが、フェオドラの肩を叩いた。
「任せる、すまない」
アトス・ラ・フェールは市内に向かった。
フェオドラ等は、正面から突撃を繰り返すブーレイ兵を城壁上から狙い排除していく。
突撃兵が壊滅すると一旦攻撃は止むが、数時間後にはまた別の部隊の突撃が開始されるのだ。自由の空の損失は無いものの、補充が無いため疲労していく。
2、3日が経過した。
守り切っていたが、フェオドラ等『自由の空』の兵は、疲労紺倍していた。
しかし、この姿を見た市民が立ち上がった。
「『自由の空』は、俺たちのために闘っている」
「ジュースを横暴な政府から守ろうとしているんだ」
「俺たちの町を俺たちが守らなくてどうするんだ」
「そうだ、俺達の町は俺たちが守る!」
「横暴な政府軍を追い出せ!」
ジュース市民は、立ち上がった。市内に侵入してきた政府軍の兵士が立てこもった建物に火をかけた。堪らず出て来た兵を集団で襲いかかり、撲殺していく。
「フェオドラ、ジュース市民が立ち上がった。この勢いに乗り、打ってでよう!」
アトス・ラ・フェールが、市内部の攻撃鎮圧をフェオドラに報せる。
「ああ」
フェオドラは、アトス・ラ・フェールの提案を受け入れた。
名将は、戦機を逃さない。
自由の空と市民軍とは、恐れず城門から、打って出た。一方の政府軍も、ライフル銃など装備の充実した自称精鋭部隊を残していた。自由の空軍は、フェオドラを先頭に、この精鋭部隊にぶつかって行く。装備は、政府軍が上だが、アトス・ラ・フェールのゴッドハンドが銃弾の盾となり、銃弾はほとんど届かなかった。市民部隊は恐れず進み、数の力で圧倒した。長い戦闘の末、ブーレイ政府軍一個師団は壊滅し、敗走した。
ここジュースの反乱は、成功した。
この情報が、次第にブーレイ各地に広がり、各地で反乱の火種となっていく。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一方のスフィーティアの方だ。
スフィーティアは、再びブーレイに戻ると、剣聖団本部から指令を受諾していた。
『指令2025´
剣聖スフィーティア・エリス・クライに命ずる。
ある筋からのもたらされた情報により、ブーレイン・フェデラル・シュタット内のドラゴン出現拠点をつきとめた。貴殿は、至急現地に赴き、ドラゴンを全て排除するとともに、原因を究明し、その証拠を収集せよ。なお、ドラゴン多数の出現が見込まれるためもう一名剣聖を派遣する。連携して事に臨み、事態を収拾すること。
以上 』
スフィーティアは、指令書から浮かび上がった地図の目標地点を確認する。
そこは、ジュースから南東の山脈の麓を差していた。ブーレイは二つの大陸に跨る大国だが、北のヴェストリ大陸と南のスズリ大陸の境には、西から東にスズリ山脈が連なる。そのスズリ大陸側のカラクニ山の麓の辺りを差していた。
スフィーティアが目標地点を確認すると、いつものように浮かび上がった地図が消え、指令書は青い炎を発し、燃えて無くなった。
「剣聖をもう一名派遣だと?一体誰が・・・」
そんな疑念が浮かんだが、スフィーティアは打ち消すように首を横に振った。
(つづく)




