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先輩、元義兄を大いに惑わせる

「どこにって・・・・・・・・・?」


 先輩はなにを聞いてるんだろうと不思議そうな顔をしている。そんな反応でやっぱり俺の勘違いだったと思い至った。


 そうだよな。いくら先輩と俺が仲良しさんでも、男の後輩の家に一人で泊まるなんてするわけない。そんなの男に襲われてもいいっていう尻軽ビッチか、童貞と人の好意を弄ぶ陽キャしかしない。


 ははは。まさかそんなこと先輩がするわけ。ははははは――


「瞬くんの家にだけど?」

「この尻軽ビッチ!!!」

「ええ!?」


 なんてことだ。俺の、俺達の小田先輩がいつの間にか男の家に簡単に泊まる貞操観念の低い女性になっていただなんて。


 健が聞いたら悲しむ。俺も悲しい。


「ちょ、ビッチって? どういうこと?」

「先輩! どういうことですか! ダメでしょ先輩ともあろう人が簡単に泊まっちゃあ! 意味わかっていってます!?」

「え? え?」


 大勢と泊まるのと一人で泊まるのとは意味が全然違う。誤解を与えるというだけじゃない。


「普通襲われるとか手を出されるとか不安にならないんですか!!」


 というか前に先輩が我がアパートに泊まったとき、意識しまくって我慢するのが大変だったんだ。それなのに二人きりだなんて。


「え、でも瞬くんチキンだからしないでしょ?」

「かあああああああっっっ!! これだよ! 心はチキンでも別のとこに狼を飼ってるのが男なんですよ!」

「狼って、瞬くんが言っても説得力が――」

「お帰りはあちらです~~~」

「ああ、ごめんなさい!」


 ダメだ。先輩はわかっていない。

 

「私はよくわからないんだけど、そんなにダメなこと?」

「ダメなことどころじゃないです。死にますよ?」


 主に俺の理性が。


「死!? え!? なんで!? え、え!? でも前泊まったときは――」

「あのときは大勢だったからです」


 だめだ。やっぱり先輩は理解してくれていない。


 どれだけ男にとって過酷でキツいことを要求しているのか。

 

 というかもし先輩が本当に泊まったりしてみろ。


 大学の先輩に憧れている男子達に恨まれ妬まれ、暴行され。


「うん。やっぱり死人が出ますよ?」


 主に俺だけど。


「二人きりのお泊まりってそんな殺伐としているものなの!?」

「大学生(男子版)あるあるです!」

「し、知らなかった・・・・・・・・・」


 先輩は愕然としている。今までそんな経験がなかったから自分がどれほど破廉恥なことを言っているかようやくわかったらしい。


 まったく。先輩が先輩じゃなかったら顎にテキサスコンドルキックきめてたね。


「で、でも建くんとか他の子ともよくお泊まりしてるでしょ? お姉ちゃんだけのけ者にするの?」

「うぐ・・・・・・・・・」

「仲間外れはい~けないんだいけないんだ~~」

「小学生!? それは男友達だからであって異性と二人きりだと意味が違うというか・・・・・・ごにょごにょ」


 俺がヤバいことになる。


 だって女性と二人で夜を明かすなんて考えてみろ。


 例え先輩後輩関係であったとしても、その相手がナイスバディーで美人で誰からも好かれていて非の打ち所がない女性と二人で過ごした経験なんて皆無っっっ!


 下手すりゃ心臓の動悸がおかしくなってそのまま心臓が悪くなるなんてことも、色々な意味で出血多量で失血死なんてこともテクノブレイクなんてことも充分考えられる。つまり―― 


「やっぱり死にます」

「大学生の死因多過ぎじゃない!?」

「男はデリケートなんです! 優しく接して適切な距離感を保ってないとすぐ死んじゃうんですよ!」

「ハムスターと一緒なの!?」

「とにかく! それくらい男女が二人でお泊まりするのは大変なことなんです! 昔から言うでしょ!? 親しき仲にも礼儀あり! 言うこときかない悪い先輩には、なまはげかボディーペイントって!」

「後者は聞いたことないけど・・・・・・でも、今のままじゃいけないってことなのねぇ~~」


 いや、諦める選択肢はないの?


 なんでそんなに頑なに泊まりたがるんだ? なにか理由があるんじゃ――


「わかったわ。じゃあ妹になる」

「なんでそうなる!?」 


 意味がわからんわ!


「私は男友達にはどうあってもなれない。でも逆に異性でも身内だったら泊まってもいいってことでしょ?」

「先輩成績いいはずなのになに馬鹿なこと言ってるんですか! 第一なんで妹!?」

「だって瞬くん妹好きでしょ?」

「だから答えにくい質問やめてくれませんかああ!? 受け取る側の判断でどういう意味にもとれるガバガバさじゃないですか!」

「じゃあれみちゃん嫌いなの?」


 ズルい! その二択!

 

 イエスって言えるわけねぇだろ!

 

 悪魔かこの人!?


「うん、決めた! 私今日から瞬くんの妹になる!」

「何言ってるんですか! 先輩みたいにお姉ちゃんに産まれるべくしてなった人が正反対のキャラ変換なんて無理に決まってるでしょ! 家で食べるチャーハンとお店で食べるチャーハン並みですよ!! 神木隆之介と菅田将暉が演じる源義経くらい違うんですよ!」

「よくわかんない・・・・・・・・・時代劇?」

「この現代っ子め!!」

「お姉ちゃん佐藤浩市と舘ひろしと柴田恭兵が好みだし」

「じゃあゼータプラスとリ・ガズィくらい違います!」

「系譜は同じでそれぞれの魅力がありつつも別物ってこと?」

「そういうことです! というか自分で言ってなんだけどよくわかったなガンダムの設定に絡めた説明!?」

「でもでも、私弟と妹見てるから全然できるとおもうけど――」

「世界中の妹に謝れ! そんな簡単に妹になれたら俺だってなれるわ! 皆妹になれたら世界中で妹が乱立して妹で溢れて妹の価値がデフレするだろ!」

「ちょっとなに言ってるかわかんない・・・・・・・・・」


 なんでわかんねんだよ・・・・・・・・・。


 かぁぁぁ!! この人は・・・・・・・・・!!


「むぅぅ~~~」

「むくれてもだめです」


 君子危うきに近寄らず。


 同意のない性交渉、ダメ絶対。


 第一、俺の考えの甘さでれみに嫌われることをしてしまったのに。ここで更にあいつが怒りそうなことしてみろ。


 俺れみの関係もTHE ENDだ。


 それに先輩を泊めて先輩に手を出さないなんて自信がない。


 そうなったら健達に、悪・即・斬ならぬ。瞬・恨!!!・斬っっっ!!! されてTHE ENDだ。


「・・・・・・・・・お兄ちゃん?」

「グフォ!?」


 え? え? なに今の?


 誰が言った?


 幻聴?


 天使の囁きかってくらい可愛らしい声が・


「どうかしたの? お兄ちゃん」

「うぐ・・・・・・・・・!」


 違う。幻聴じゃない。


 先輩が俺をお兄ちゃん呼びしているだと!?


「お兄ちゃん♪」

「ぐうううう!」


 はぁはぁ、な、なんだこの破壊力は・・・・・・。


 普段しっかり者の年上が慣れてないかんじでたどたどしくお兄ちゃんて呼んだだけだぞ!? ただ甘えたかんじなだけなのに!!


 なのに何故こんなにときめいている!?


 何故こんなにも可愛い!?


 ギャップか!? それとも先輩の演技力か!?


 トゥンクがとまらねぇっっぅ!!


「ちょ、せんぱ――」

「どうしたのお兄ちゃん・・・・・・・・・?」

「ガファ!」

「ねぇお兄ちゃん。和、お兄ちゃんと一緒にお泊まりしたいの・・・・・・だめ?」

「あべし!」


 妹になりきってるつもりなのだろうか?


 いつもの大人の余裕を携えた笑みではなく、年下の無邪気な子供っぽい笑顔。そして組み合わさって潤んだ瞳。上目遣い。若干ワントーン高くてたどたどしい声音。


 いつもの先輩を知っているからこそ、打算があるとしかおもえない演技はだからこそ小悪魔ぽい可愛らしさすらかんじる。


「和ね? お兄ちゃんと一緒にいたいの・・・・・・・・・」

「ぎゃああああああ!!」


 小悪魔なんて生易しいものじゃない! 悪魔かこの人!


 そこで甘えた猫撫で声なんて反則だるぉぉぉぉぉ!!


「ねぇお兄ちゃん。こんなことお兄ちゃんにしかお願いできないの・・・・・・」

「やめてくれええええええええええええええええ!!」


 いや、だめだ。偽妹なんかには絶対屈しないっっっ!


 


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