先輩、元義兄の家に泊まる
「粗茶ですが」
「急にごめんね?」
先輩と二人で過ごすなんてのはザラにある。けど目的が不透明な今は先輩の動向が気になって仕方がない。
「大学のほうはどう?」
「相変わらずってかんじですかね」
「そう。よかった~~~。研究は一段落ついているから一週間くらい実家で過ごしてて気になってたのよ~」
「え、実家?」
「うん。研究以外はもう取得しなきゃいけない単位もないし。あ、そうだ。これ、もしよかったら」
「? なんすかこれ?」
「お土産よ」
先輩が差しだした紙袋はけっこう大きめで重量がそこそこある。食べ物にしてはおかしいので
「先輩、これは?」
紙袋の中身は可愛い女の子達がアニメ調で描かれたパッケージのもので、複数ある。いわゆる美少女ゲーム、ギャルゲと呼ばれるものだ。
「瞬くんに楽しんでもらえるようにお姉ちゃん頑張って選んだんだ~~~」
「いや。けどこれ・・・・・・・・・ラインナップに悪意感じるんですけど」
ましろ色シンフォニー、ヨスガノソラ、シスプリ等々。義妹・実妹を問わず妹と恋人になるというシチュエーションが多い作品。
「ええ~~?? なんのことかな~~? この作品はフィクションで実在の人物団体とは関係ないって書いてあるでしょ?」
「そりゃ普通書いてあるでしょ! チョイスの意味が知りたいんです!」
「妹好きじゃないの?」
「・・・・・・・・・それどう答えても俺がヤバい奴になりますよ?」
「もしかして十八禁のほうがよかった? 流石にお姉ちゃん恥ずかしい・・・・・・」
「そういうこっちゃねぇよ!」
「つまり瞬くんはれみちゃんがいるから今更二次元の妹は興味ないと?」
「だからどういう意味ですか!? それニュアンス的に取り違えると俺がれみとギャルゲみたいなことになってるって意味に聞こえますよ!?」
「まぁまぁ。でもある人が言ってたでしょ? ギャルゲは人生だって」
「ギャルゲじゃなくってCLANNADのでしょそれ!」
まぁいい。
もらった物を返すのは失礼に当たる。あとでこれは大事に使わせてもらうとして。
「とにかく、先輩なにもないんですか?」
「なにがって、なにが?」
きょとんとした先輩のあどけなさに、ツッコみ疲れもあったたせいで、ぐでっとベッドに凭れる。最初先輩がやってきたときは何事かとおもってたけど、相変わらずでなんだか気が抜ける。
さっき抱いた俺の違和感とか、先輩が大学に来なかったこととかは本当に関係なくて、いつも通りに遊びにきたってだけなのかもしれない。
「そうだ。瞬くん夕食は?」
「まだですけど」
「そう。じゃあ私が作るね~~」
「え? でも――」
「いいからいいから~。突然押しかけてきちゃったんだし、私もお腹空いてるし~」
先輩はパタパタと小走りで台所の方へ。冷蔵庫の中身を吟味し、素早く材料を揃える。手際よく切り揃えて調理していく姿を後ろから眺めるけど、普段の先輩のおっとりさ加減とはギャップがある。
なんというんだろう。れみみたいなプロフェッショナルさじゃなくって、家庭的な温かさがあって。
うん、料理する先輩いいな。
でもできれば髪の毛はポニテじゃなくて一つ結びにしたほうが若奥様っぽさが増して更にexcellentだな。
って感想が浮かぶ。
「先輩って何気に料理上手ですよね」
「うん。お家で家事の手伝いしてたしね~~。弟と妹のお世話をしてるとき自然と身についちゃったんだ~~」
先輩は無意識なんだろうか、鼻歌混じりにリズムをとっている。それによって肉付きのいいお尻がフリフリと小さく左右に揺れる。
うん、いいなやっぱり。
彼女ができたらこんなかんじなのかな。
「はい、できましたよ~~~」
できた料理を運ぶのを手伝いつつ、並べられていくおかずに感嘆の声が漏れる。
「うわすげぇ・・・・・・・・・」
見栄えがよくて見ているだけで涎が出そうだ。
「厚揚げとトマトと挽肉を炒めただけだし、スープだって白菜と卵を入れただけよ? そんなに大したものじゃないし」
「いやいや。もうごちそうですって。いただきます」
メインである炒め物は味が厚揚げにしっかりと滲みていてトマトの酸味と合っている。挽肉のほろほろとした噛みごたえと食感もあって白米が進む。あっさりとしたスープが優しくて、喉を潤していく。
「あ~~。美味しい。美味しいですよ」
「そう? ならよかった~~。じゃあ私も・・・・・・・・・ん~~~。美味しい~~~」
「ははは」
自然と笑みが溢れる。美味しさだけじゃない。先輩と二人で食事をしている時間は落ち着きがあって、毎日こんな時間を送りたい! ってかんじ。
そういえば、先輩と二人でこんな時間過ごしたのってどれくらいぶりだっけ?
大学ではしょっちゅう夜食を食べたり、皆で過ごしたりしているけど中々ないんじゃないだろうか。
「ご飯食べたあと、ゲームしない?」
「お、いいですね~~。でも先輩門限大丈夫ですか?」
先輩は自宅から通っていて電車やバスで帰らないといけないから中々皆みたいに残れないってのもあるだろう。
あ。でも一回だけ先輩も皆とウチに泊まったことあったっけ。うん、あれくらいだな。
どちらにしろ、やっぱり機会は少ない。皆無とさえいえる。
「うん。今日はお泊まりさせてもらうつもりだったから」
「成程、珍しいですね~~~」
「だから瞬くんの寝袋使わせてもらってもいい?」
「いや、それは流石に。ベッド使ってもいいですよ。寝袋なんて洗ってないんで」
「ちょ、れみちゃんに怒られちゃうわよ?」
「あははは~~。あ、先輩。おかわりいいですか?」
「お。やっぱり男の子ねぇ~~。・・・・・・・・・はいどうぞ」
「ありがとうございます・・・・・・・・・先輩もう一ついいですか?」
「どうしたの?」
「うん。ちょっとした確認なんですけど―――」
つい会話の流れのせいで、大事なフレーズを聞き逃してしまったかもしれない。
けど、どうか気のせいであってくれ、冗談だ、と軽いかんじで笑いながら尋ねる。
「お泊まりってどこにですか?」
まるで俺の家に泊まるみたいに受け取ってしまったけど、違うよね?




