元義兄、無実を証明する。だけどお説教される。
「ううう~~~ん・・・・・・・・・よろしい。信じましょう」
先輩による携帯チェックが終わり、微妙そうな先輩の表情から一点、濡れ衣が晴れた喜びでガッツポーズをした。
「先輩なら信じてくれるとわかってましたあああ・・・・・・・・・」
よかった。俺の命も愚息も長生きできる。
「うん。だから2/1潰しか4/3センチ千切りで許してあげる」
「不穏な聞き慣れないワードはなんですか!?」
急転直下。
「万能試験機を使った罰よ?」
なにを言ってるの? とばかりにきょとんとした先輩だけど、こっちこそなに言ってるの? だよ。
「れみちゃんに嘘をついたことはたしかでしょ?」
「そ、それはだから!」
「あなたとご両親との関係に苦心して予行演習をしているれみちゃんを放置して合コンでポッキーゲームと王様ゲームに興じていたことは許せないかな」
「今回はしてませんから!!」
「前回はしたのね? いつ?」
「ぎゃああああああ!! 自供しちまったあああああ!!」
一歩一歩近づいてくる先輩は、恐怖そのものを体現している存在に見えて仕方なく、後ろに下がる。そのまま壁際まで追い込まれ万事休す。
「あなたは、れみちゃんにしたことを後悔しているんでしょ」
頬を引っ張られる。捻りながら渾身の力で。痛くないわけじゃないけど、想像していた地獄より生温く、弱い行為に頭が? となる。
「だったらもうれみちゃんを悲しませたり傷つけたりすることはしちゃダメでしょ。優先すべきことを見失っちゃだめ。この子希望を優先するの? それともれみちゃんの気持ちを優先するの? あなたの都合を優先するの?」
「あ・・・・・・・・・」
先輩の言わんとすること。逸らすことも憚られるほどの、真っ直ぐな目。この人はこんな顔もできたんだなってくらい優しさとこわさと怒りがないまぜになった顔。
そして己の過去を想起して、深く噛み締める。
「まりあちゃんにも認めてもらわなくっちゃダメだっておもったんです。両親だけじゃなくって。れみの友達にも」
「例えどんな理由があっても。兄妹であっても。嘘をつくほうが悪いのよ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい」
「私じゃなくってれみちゃんに謝りなさい。本当のことを言って」
「・・・・・・・・・はい」
怒られるだろうけど、と先輩は漏らして離れた。しょぼくれた俺の後頭部に、こちんと拳骨をぶつけると、そのまままりあちゃんと向き合った。
「あなたもよ。まりあちゃん」
「へ?」
急にターゲットにされたことで、まりあちゃんは目をぱちくりさせている。
「いや、だって」
「だってなに?」
「そもそもこの人が悪いんじゃないスか」
「あなたにまったく悪いところがないってわけじゃないでしょ? 私も信じそうになったから偉そうなことを言うことはできないけど。あなたはわざと瞬くんのことを陥れようとする悪意を感じたわ」
「・・・・・・・・・」
「あなたはれみちゃんを心配しているけど、結局はあなた個人が瞬くんを受け入れられないだけじゃない?」
「そうだとしたら、どうなんスか?」
悪びれる様子なんて微塵もないふてぶてしさに、怒りより先に呆れの気持ちが出てきた。そりゃあ俺は褒められた人間じゃないけど。この子に嫌われるのも仕方がないけど。それでもだ。
「なんスか? あんた。先輩だかなんだか知らないけど、どうしてそこまで肩入れするんスか? 身内でもないくせにそんな権利あります?」
「じゃああなたに嘘をついてまでこの二人を引き裂く権利があるの?」
「あたしはれみのためをおもって―――」
「なにがれみちゃんのためなの?」
「こんな昔妹だった兄だったからって理由で通い妻状態にさせて世話焼かせている男がれみの側にいて幸せになれるわけないっス!」
「たしかにそうかもしれないわね?」
そこはフォローしてほしい。
「でも、決めるのはれみちゃんよ。あなたじゃない」
ぴしゃりと先輩は断じた。まりあちゃんは怯んだように唇を閉じている。
「他人の価値観と思い込みを友情とか善意を理由にして押しつけることが、幸せなの? 本人が望んでいないことをするのが友情なの? れみちゃんを理由にして自分の好きにしたいだけにしか見えないわ」
「・・・・・・・・・」
「私はただあなた達より年上で経験も多いから。相手の意志を尊重しないで善意を装う人がどれだけ最低か知っているの。家族も友達も先輩も後輩も関係ない。最低な行為よ。下手すれば――――相手を一生許せないくらい憎んでしまうことも、あるんだから」
何故だろう。
言葉を切ってから喋ったことに先輩の本心が込められているように感じられた。
「あなたは覚悟をしているの? あなたの嘘で、れみちゃんと瞬くんはもう会わなくなるかもしれない。けど、いつか本当のことを知ったれみちゃんがあなたを許せなくなったとき。友達じゃなくなったとき。それでもあなたは良かった、なんて思えるの? 後悔はない、罪悪感はないって言い切ることができる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・れみは・・・・・・・・・」
自信がないのか、それきりまりあちゃんは黙りこんだ。
ただ先輩を忌々しそうに見つめている。
「あんたこそ何様なんスか? れみとこの人に親身になってるけど、そこまでするほどの仲っスか? 大学の先輩ってだけで介入しすぎっス。口ではそれらしいこと御託並べて正論突きつけてるけど、そこまでする理由があるんじゃないっスか?」
「だったらなにかしら?」
「あんたこそ個人的感情で肩入れしてるっしょ?」
「・・・・・・・・・例えそうだとしたら、なにかしら?」
「よく偉そうに人にあれこれ説教できますねってことっスよ。おばさん」
「そう見えてもしょうがないわね。まだ未熟なお子様からすればだけど」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
二人の間に、緊迫した空気が張りつめる。
交錯する視線がいつ弾かれて爆発かもしれない。側にいる俺に介入することすらできない圧があり、
「もう・・・・・・いいっス。どうもすんませんした。」
心にもおもってないんだろう、悪感情見え見えの態度で一瞬だけ頭を下げると、先輩を押しのけるようにしてズンズン進んでいく。
そして最後に俺のほうを見て、
「もうあたしは口出ししないんで。勝手によろしくしててくださいっス」
そう告げてまりあちゃんは部屋を後にした。




