蛇の日
――蛇香家――
「やっと出来たわ……」
アフリカの蛇、ブラックマンバから抽出した神経毒と私の唾液。それに紅天狗茸とニガヨモギ、その他もろもろを配合させた――。
「ラブ……ポーション? ……ネーミングが何だかいまいちね……」
着色料は使っていないのに、何故かショッキングピンクになった液体。
失敗に失敗を重ね、やっと辿り着いた。
「少し……疲れたわね……」
十畳ワンルームマンションが、私の住居兼研究室。
頭の悪いデベロッパーが、時雨町開拓の手始めに建てたんだけど、案の定売れ行きは芳しくなかった。
地元民が九割以上を占めるこんな田舎で、新たに部屋を借りる者はいない。
賃料も相場の二倍以上だし。完成から半年から経っても、住人は私以外に二人しかいない。
まぁ、私は賃貸じゃなく、この部屋を買い取ったんだけど。
高校卒業後、オファーを受けていた大手IT企業に破格の待遇で就職。
次々と新しいシステムを開発し、僅か一年で部署を任されるほどになった。
上がり続ける給料と特別報酬に、増えていく通帳の残高。
お金にそれほど執着は無かったけど、目に見える成果は、自分が認められている事を唯一実感させてくれた。
毎日寝る間も惜しんで、PCに噛り付く生活。
苦じゃなかった、喜びさえ感じていた。
だけど、世の中はそんなに甘くない。
ポッと出の小娘の活躍を良く思わない者は当然出てくる。
妬みや僻み、そんなモノは上に立つ者の宿命。そう思ってた。
私は意地になっていたのかもしれない。
これくらい乗り越えられなければ『龍には成れない』と。
結局、私は負けた。
結果さえ出していれば、いつかは誰もが認めるだろうとタカをくくっていた。
――この人には敵わない。
私が龍ヶ崎亜紺を初めて目にした時、そう思ったのと同じ様に。
「外気温は三十度……今日は暑いのねぇ……」
温度が一定に保たれた室内。
窓は黒の射光カーテンで覆われ、外からの光は一切入らない。
月明かりにも似たブラックライトだけが照らすこの場所は――土の中。
名誉も地位も、光なんて要らない。
どうあがいても、龍には成れないと知ったあの日にそう決めた。
決めたはずなのに、身体は求めてる。
彼が放つ、私を優しく包んでくれるあの光。
どんな手段を使ってもいい。彼の傍に居られるなら。
他には何も要らないから、せめて彼の傍に――。
「そこでこの薬の出番よ……。これを彼に飲ませれば……えへへ……えへへへへ……。あ、でも使う前に、まずは臨床試験をパスしなきゃねぇ……」
床にビニールシートを広げ、着ている服を脱ぐ。
こうしなきゃ、後始末が大変なのよねぇ。
「何か……匂いが変ね……。まぁいいわ――」
喉を通りすぎる瞬間、僅かに身体が拒絶した。
防衛本能かしら、後でイチゴオレでも混ぜておくとして――。
「お……お……おひぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
即効性は強いと思っていたけど! これじゃあ――。
「狂っちゃうっ! くるっちゃうわあああああああああああああああああああああああ!」
「……シート敷いておいて良かったわぁ……。ああ……手もべとべと……」
身体中の水分が蒸発した様な気分。
何処で間違ったのかしら。幻覚効果が強すぎる。
『死の楽園』とでも名付けようかしら。危険すぎるわ。
催淫効果は申し分ない、でも残念だけどこれは廃棄ね。
前か後ろから、沢山の彼に蹂躙される幻覚は刺激的だったけど。
「……最後にもう一口だけ……いいかしら――」




