猿の日
――猿小路家――
「ほないってきまーす!」
家を飛び出し、大きく背伸び。御天道様も満面の笑みや。
「お、ばぁちゃんおはよー!」
「おや、茜ちゃんおはよう。今日も暑いのに元気だねぇ」
田中のばぁちゃん。おとなりさんやな。
「暑いほどウチは燃えるんや! それに、大阪に比べれば涼しいモンやで」
「そうかもしれないねぇ。今日も運動かい?」
「せやで! ここは空気も綺麗やし、身体動かすのにはもってこいや!」
家でじっとしてるのは性に合わん。
落ち着きが無いって言われんねんけど。
今日は何処に行こう。
頭ではそう考えながらも、身体が答えを導く瞬間がめっちゃ好き。
左に曲がろか、右に曲がろか。
そんな悩みも、身体は自分の行きたい方向に。
今日はこっちに行くんか。こっちには何があるんやろ。
またこの道か。ほんま好きやなぁ。
頭で、身体に話しかける。何か――ええやん?
「おっ? ポチやん」
離れた場所からでも一発で分かる。
時雨町には似合わへん、派手な『今時ギャル』
ウチの大っ嫌いな人種やけど、ポチだったらええかなって。
まぁ、そう思えるまでには色々あったんやけど。
ちょっとつついたろか――。
「きゃっ!?」
「姉ちゃん、ええ乳しとりまんなぁ~」
何でこない柔らかやねん。ちょっとむかつく。
「なっ!? 何すんのよいきなり!」
「何って、ご自由に揉んで下さいって書いとるで? 背中に」
「えっ!? うそっ――って書いてるわけないでしょ!」
反応の良さはまぁまぁや。
「ポチ何処いくん? お散歩?」
「図書館に行こうかなって。ってかポチってやめてよね」
そういえばこの前カードみたいなん作ってたな。
見た目と違って、ポチは読書家やねん。
「アンタは――また運動? この暑さでよく動く気になるよね」
「暑いからこそやんか。身体を鍛えるのはええことやで! もっと強くなりたいやん。どや、ポチも一緒に。何やったら拳法も教えるで!」
「アタシはいいよ。別に強くなりたいわけじゃないし」
「そっ……か。残念やなぁ~! まぁ、ポチはその無駄にでかい乳が邪魔やからな。運動がしんどいのもわかるで!」
「無駄じゃないし! アンタこそ、筋肉だらけのゴツゴツ女なんかモテないよ!」
「べっ、別にモテなくてもええわ! いらん道草くってしもた。ほないくわ」
話しかけん方良かったわ。ゴツゴツ女とかありえへんやろ。
「茜!」
背中を向けたウチに、朋子が声をかける。
「また、夜にね」
「――うん。ほなまたな!」
やっぱり、話しかけて良かったのかもしれん。
強くなりたい。
ずっとそう思って生きてきた。
誰にも頼りたくなくて、自己流で始めた拳法も何とか形にはなっとる。
まだまだ勝てない相手もおるけど、十分強くなったんやと自分でも思う。
――ウチは、何と戦っとるんやろう。
「ゴツゴツ女……嫌われるやろか……」
いつの間にか辿り着いた旧道は、修ちゃんの家へと繋がっていた。




