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干支っ娘!  作者: kure
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恵の正体

「気配の殺し方が下手じゃな。小娘よ」

 自分では完全に消していた筈。

 見抜かれた驚きと、遥かに自分より幼い子供が浮べる嘲笑。

 そして理解しがたいこの状況に、若干の苛立ちを覚える。


「おま――いや、恵……と呼んだほうがいいのか。こんな所で何をしている?」

 畏れる事など何も無い。目の前に居るのは小さな子供。それに同じ十二支枝――。

「その十二支枝とやらでは無かったらどうするつもりじゃ?」 

――心を読まれた!? 


 まさか、読心術などあるはずはない。

 そう自分に言い聞かせながらも、嫌な汗が首筋を伝った。

 目の前に居るのは愛らしい少女などではなく――誰かが乗り移っているのか?

 十二支枝では無いとしたら……こいつは一体何者なんだ。 



「此処はな、わしの住んでいた場所じゃ」

 何処か懐かしげな表情を浮かべて恵が言った。

「住んでいただと? この家は私が生まれる前からっ――」

 一瞬で私の横を通り過ぎた恵に、思わず息を飲む。

 瞬時に動けるようにと気を張っていた。

 それこそ、目の前の少女が指の一本でも動かそうものなら離脱できる程度には。

 そんな私の脇を、両手を腰に回したまま、いとも簡単にすり抜けて見せた。

 攻撃されていたら……多分防げなかった……。


「建物は知らん。この場所じゃ。もうずっと前じゃがな」

 外に出て、周囲をくるりと見渡しながら。

「どういう事だ……?」

「知りたいか?」

 質問を質問で返されるのは嫌いだ。

 目の前に居るのが少女でなければ、今すぐにでも捻り上げてやるのに。


「そうじゃな――『どうかこの馬鹿な虎めに、お教え下さい』とでも言えば教えてやらんでもないぞ」

 両手を合わせ、懇願する仕草を見せる。

「なっ!? そんな事を言うと思うのか!」

「ふむ。では帰るとするかな」

 背中を向け、肩越しにチラリと顔を覗かせ。

「ぐっすりと眠るあやつの元へ――」

 ニヤリと笑った恵の言葉に、もう私を縛るものは何も無かった。


「一歩でも動いたら……斬る!」

 彼の安否を暗に匂わせる言動が怒りを呼び覚ます。このまま易々と行かせるわけにはいかない。

「ほう。力を使えばわしに勝てると思っておるのか?」

「試合の前に負ける事を考えたりはしない」

 例えどんな強敵であろうと、全力を尽くすのみ。

 

「若いのぉ――」

 恵が口を開いた瞬間、その小さな身体を飲み込む程の、白煙にも似たオーラが溢れ出した。

 それはやがて、巨大なる形を成していく。

「兎……か……?」

 やはり十二支枝だった。不安の種が一つ消えた事で生まれた一瞬の隙。

 恵は、常人ではあり得ない跳躍を見せる。 

 空に浮かんだ月と重なる彼女の姿は神秘的で、神々しささえ感じるモノだった。


 建物の屋根にふわりと降り立つと、クスリと笑って姿を消した。

――逃げられる!

「待てっ!」

 いくら獣の力を使っても、家を越えるほど高くは跳べない。

 両手足を駆使し、窓伝いによじ登る。屋根に手を掛け、身体を持ち上げたその先。

 顔色一つ変えずに、ちょこんとその場に座る恵が居た。

 その背中には、もう兎の姿は無い。


「やはり、お前も十二支枝ではないか」

「お前と呼ぶなといったじゃろう。小娘」

 夜の闇すらかき消す程の白髪を風になびかせて、遠くを見つめるその姿に、力を使い必死になっていた自分が愚かに思える。

 乱れた髪を軽く整え、彼女の隣に腰を下ろした。

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