ああ無情
――神崎家――
図書館から帰り、課題をこなしていると、すっかり窓の外は茜色に染まっていた。
いつもならすぐにペンを投げ出しそうなものだが、図書館に行った事が良い刺激になったのだろう。長時間机にかじり付いたのは自分でも驚いた。
開け放たれた窓から、恵の楽しそうな声が聞こえる。巫女服をひらひらとたなびかせ境内を駆け回る姿に心が和んだ。
時雨町に来て、石版を割ってしまったあの日から、毎日が充実している気がする。
鬼を解き放ってしまったのは喜ばしい事じゃない。こんな事を考えるのは不謹慎だとは思うけど、もしソレがなければ、彼女達とは出逢っていないはず。
「後六人……か。どんな人達なんだろうな……」
沈む夕日を眺めながら、まだ見ぬ仲間達に思いを馳せた。
「にぃに~!」
一階に降りると、丁度戻って来た恵が飛びついてきた。
汗ばんだ甘い香りを放ち、小動物の様な愛くるしさは思わず頬を緩ませる。
幼女最高。マジ天使。
「修ちゃん。夕食が出来る前にお風呂に入っちゃいなさいな。めぐちゃんも、沢山汗かいたからね」
「うん! にぃにとおふろはいる!」
「え……うん……。じゃあ準備してくる……よ……」
どうして当たり前の様に言うのだろう。いくら幼女とは言え女の子、思春期の男子と混浴ってのはベリーハードではないか?
え? 今更何だって? 散々入っているじゃないかって?
確かにそれも一理あるが、今まではあくまで乱入型。
『さぁ一緒に入ろう』などと言った事は一度も無い。ある意味――被害者とも言える。
これが血の繋がった妹なら抵抗感も薄いのだろうが――。
僕は何を考えているんだ。血の繋がりなんて関係ない。恵はもう家族のようなモノじゃないか。僕を兄と慕ってくれる少女に邪な気持ちを抱くなんて。
そんな目で見られていることを恵が知ったらどう思うだろう。
「情けないな……」
蛇口から立ち上る湯気を見つめながら、自分を戒めた。
「おふろ~! おふろ~!」
ぺたぺたと足音を立てて、二人分のタオルを抱きしめた恵が現れた。
「お、偉いな恵。ちゃんとバスタオル持ってきたんだね」
「うん! おふろはいろ!」
そう言って、パッと両手を開いた。身に着けた巫女服を『脱がせて』と言わんばかりに。
「全くしょうがないなぁ」
『嫌々仕方なし』風の態度をとりつつ、緋袴の帯を解く。
――別に大した事じゃない。目の前に居るのは歳の離れた妹だ。
何度も自分に言い聞かせながら白衣を脱がす。
少し丈の長い半襦袢から伸びた足は、まるで男物のワイシャツを着た女の子。
見えそうで見えない、もしかして履いていないんじゃないか?
そんな妄想をかきたてられる。
「にぃに、どうしたの?」
「えっ? あっ、いや。なんでもないよ」
危ない危ない。意識が遠いところに飛んでしまっていた。
――大丈夫。僕は正常だ。幼女に興奮するほどマニアックではない。
念仏の様に頭で唱えながら、ゆっくりと襦袢を脱がせた。
「よし、じゃあお風呂はいろうね」
パンツ一枚になった恵から、逃げるように目を逸らす。
「パンツも脱ぐ!」
背中に投げかけられた言葉は、悪魔の催促。
だが、耳をかさないわけにはいかなかった。
「じゃ、じゃあ後ろ向いてくれ」
せめてそれくらいの逃げ道をもらってもバチは当たらないだろう。
『真正面からこんにちは』は余りにもハードルが高すぎる。
決して邪な考えではない。小さいとは言え女の子。これは礼儀というものだ。
お尻なら、まだダメージは少なくて済むは――ず?
恵が後ろを向いた瞬間。僕の鼻先に現れた謎の物体に身体が固まった。
丸くて、ふわふわした白い――尻尾!? 何!? 何で尻尾が生えてるの!?
驚いたのもつかの間。それは恵の身体ではなく、パンツについているモノだった。
何を驚いているんだ。考えて見ればすぐ分かる事だろ。狗飼さんじゃあるまいし。
「かわいいパンツだな」
「うん! にぃにのママに買ってもらったの!」
ふむ。中々良いセンスをしているじゃないか。
ってかこんな田舎に洒落たパンツを売ってるのがまず凄いけど。
感心しながらも、ゆっくりと下着を下ろす。
小さなお尻は、ミッションクリアのご褒美だろうか。
だが、それだけでは終わらなかった。
「にぃに! ごしごしして!」
浴室に駆け込み、大きく両手を広げる。
無邪気さというものは、時に非情だ――




