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干支っ娘!  作者: kure
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暗躍する羊

「――で、おじいさん達は幸せに暮らしましたとさ。おしまい」

 童話を読み終えてふと隣を見ると、壊れた首ふり人形の様にコックリコックリとしている恵の姿が目に入った。

 どうして子供はすぐ寝るのだろう。

 でも、この天使の様な寝顔を見れるなら、本を読む事などなんら苦ではない。


「修司さん――あら、おやすみみたいですね」

 龍ヶ崎さんが、恵を見て優しい笑みを浮かべる。

 恵が天使なら、龍ヶ崎さんは天女だろうか。思わずドキッとした。

「ええ、今さっき寝ちゃいました。何か分かりましたか?」

「それらしい本は見つかりませんでしたわ。でも――」

 彼女が少しだけ険しい顔をした。

「時雨町に関する書物を、何者かが借りていった形跡があるようですの」


 その言葉に、一瞬僅かな不安を覚える。また、それとは逆の感情も。

「もしかして……別の十二支枝とか……ですか?」

「その線も濃厚ですわね。今朋子さんが確認しているところですの」

 僕達以外に時雨町の事を調べている人間。

 それは新たな仲間との出逢いをも期待させた。


「そういえば、あの人は何処に行きましたの? 姿が見えないようですけど」

 周囲を見渡しながら龍ヶ崎さんが言った。

 あの人――とは、多分先輩の事だろう。

「少し前に恵と遊んでたのを見たっきりですね」


 遊んでたという表現が正しいのかは分からない。あの光景、先輩が先輩じゃなかったら通報モノだ。

 こんなユーモラスな一面があるのかと思った反面、顔を赤らめて風の様に去っていった先輩の姿に、見てはいけないモノを見てしまった気もした。


「お、おったおった! 分かったで! 本借りていった奴!」

 茜が駆け寄ってくる。その行動と声のトーンは、此処が図書館だと言う事をすっかり忘れていた。

「だから大きな声だしちゃめっ! ですよ! どうもすいませんっ」

 周囲の冷たい視線に頭を下げる中谷さんと、バツが悪そうに頭をかく茜。不謹慎ではあるが、この構図は中々グッとくる。


「それで、誰だったんですの?」

「えっと、『毛利未華もうりみか』さんですねっ。残念ながら住所までは教えてもらえませんでした」

 毛利未華。名前からして女性だろうな。最近の個人情報保護は、こんな田舎でもしっかり機能しているらしい――良い事だ。


「ウチはよそ者やから分からへんけど、その名前に心当たりないん?」

「ありませんわ」

 きっぱりと言い放った龍ヶ崎さん。他人にあまり興味なさそうだもんな……。

「アタシも聞いた事ない……かな」

「同年代ではなさそうな気もしますっ。蘭さんはどうですか?」

「知らないわねぇ……」


 その名前を知るものは誰も居なかった。まぁいくら田舎だといっても、全ての人を知っているはずもない。

「でも、十二支枝と関係ありそうには思わへんけどなぁ」

 両手を組みながら茜が呟いた。

「どうしてそう思いますの?」

「へへん。ウチ気付いたんや。十二支枝には、皆苗字にその動物の名前入っとるやろ。虎口、龍ヶ崎、猿小路、蛇香、そして中谷――なか……たに?」

 自信満々に指折り数え始めた茜の手が止まる。皆の冷たい視線が茜に突き刺さった。


「ゆりっぺはなんなんや……?」

「はぁ……。百合子さんは『子』が入っているでしょう? 多分お母様かおばあ様にも『子』が入っていると思いますけど」

 呆れた様子で龍ヶ崎さんが言った。

「龍ヶ崎さんすごいですっ! おばあちゃんの名前は晶子でしたっ」

「ちょっと考えれば分かる事ですわ」

 冷たく言い放つ龍ヶ崎さんに、茜が助けを求めるように皆を見渡した。だが、彼女に同意する者は誰一人居なかった。


「でっ、でも! この女は名前にもはいっとらんやんか!」

 その瞬間、皆が一斉に茜を見た。呆れを通り越し、驚きのあまり口を開け。

「未華の未って羊の事なんだけど……」

 狗飼さんの一言に、茜の表情がゆでだこの様に赤くなっていく――いや、猿の様に、と言った方がいいのだろうか。

――大丈夫だ茜。僕も知らなかったから。

 言わないけど……。



「状況証拠から考えて、その人が十二支枝である事は間違いなさそうですわね。そして自分の使命に気付いている、と言った感じでしょうか。どこかのお馬鹿さんとは違って中々聡明な人みたいですわね」

 ちらりと茜の方を見ながら龍ヶ崎さんが言った。嫌悪感を露にした嫌味ったらしいモノではなく、どちらかといえば、親しい友人をからかう様に。


「ところで……蓮さんは何処に行ったのかしらぁ……?」

「あっ。具合が悪いから先に帰るってメール来てましたっ」

「そうなの? 珍しいですわね」

 先輩、具合悪かったのか。

 さっき恵とふざけていたのも、体調の悪さを悟られないようにとの空元気だったのかな?

 そう考えると、あの奇行も納得だ。


「とりあえず此処にはもう手がかりはなさそうですし、一旦お開きにしましょうか」

 龍ヶ崎さんの提案に異論を唱える者は居なかった。

 未だ夢の中から戻らない恵を背負い、僕達は帰路に着いた。

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