虎の悪ふざけ
「しかし図書館なぁ……。言われてみれば、何で気付かへんねん! って感じや」
「ああ、そうだな」
茜の言うとおり、図書館など考えもしなかった。
「子供だから、考え方が素直なんでしょうねっ」
子供だから――か。果たして本当にそうなのだろうか。
「具合でも悪いんですの?」
「あ、いや。大丈夫だ」
彼の隣で屈託の無い笑みを浮かべる少女に、私は恐怖心にも似た不安を抱いていた。
――時雨町図書館――
公民館に併設された図書館。数年前に建て替えたため、外見は中々立派だ。
夏休みだからだろうか、いつもより人が多いように感じる。
「へぇ~。中々立派やなぁ」
「しっ! ですよっ。大きな声を出したらだめなのですっ」
「ああ、ごめんごめん。ウチあんま図書館とか縁がなくてなぁ……」
百合子に怒られ、茜が申し訳なさそうに頭をかいた。
口には出さぬが――何とも猿っぽい。
「それじゃあ、各自適当に探してみましょうか」
「そうだな。何かそれらしいものがあったら教えてくれ」
小さいとはいえ、そこは図書館。置かれている本数は相当だ。
手分けして手がかりになりそうな本を探した。
一時間程経っただろうか、未だこれといった本は見つからずにいた。
声がかからない事を考えると、他の皆もまだ見つかってはいないのだろう。
しかし不思議だ。これだけの本があるにも関わらず、時雨町に関する本は殆ど見当たらない。
郷土資料の様なモノが存在してもいいはずだと思うのだが――。
「難しい顔をしておるのぉ――」
突然背後から聞こえた声に振り返る。だが、そこには誰もいなかった。
いや、居なかったのではない、見えなかったのだ。
何故なら彼女の身長は、私の視界に入らないから。
「ほれ、この町の古い地図じゃ。こんなものしか見つけられんかった」
そう言って、恵が小さな冊子を差し出した。
「お前は……一体何者だ……?」
その姿に似つかわしくない口調で話す、目の前のあどけない少女に、威圧感さえ覚える。
瞬間――すねに激痛が走った。
「いたっ!?」
思わずしゃがみこむ。痛みには慣れているはず。
だが、少女がピンポイントで放ったすね蹴り――敵意の欠片も無い攻撃は、いとも簡単に私の膝を崩した。
「お前とは随分な口利きじゃな小娘よ」
しゃがんだ私を見下ろすように、恵が不敵な笑みを浮かべる。
「小娘……? いや、どう見てもお前の方が小娘だ――」
言い終わる前に、またも恵の足が飛んできた。
だが同じ手は二度くわん。手で隠れてしまいそうな足を、しっかりとつかんだ。
「可愛い顔して、以外と凶暴なんだな。お前も十二支枝だろう? どうして子供のフリをしている」
「さぁ。どうしてじゃろ――ああっ!?」
とぼける恵の足をグッと引っ張る。バランスを崩して転ばぬようにとケンケンする姿は何とも愛らしい。
「あっ、危ないではないか! こらっ、足を上げるな! パンテーが見えるじゃろ!」
「では、大人しく全て話してもらおうか。さもなくば――」
この時、何故このような愚かな行動に出たのか、自分でも分からなかった。
「めぐちゃんはどんなパンテー履いてるのかな~」
「こっ、こらっ! やめるのじゃ!」
困惑した少女の表情が、悪ふざけを背徳的な気分にさせる。
「虎口……先輩……?」
背後で聞こえた彼の声に、私は久々に神に祈った。
――時間を戻してください。と。




