図書館へGO
至高の二度寝から覚めた時、既に二人の姿はなかった。
優しく香る彼女達の残り香に深呼吸する僕は変態だろうか? いや、健全な男子だ!
毎度恒例の神社掃除を存分に堪能した後の朝食は、優雅に高級ホテルのモーニングを食べているような気持ちにさせる。
「にぃに。今日は何して遊ぶ?」
「うーん。何して遊ぼうか?」
遊ぶ……遊ぶ……。中々難しい課題でもある。
「あっ、神崎君、メール見てませんかっ?」
「メール?」
中谷さんの言葉にスマホを確認すると、確かに新着メールが届いていた。
『午前十時。道場へ来られたし』
用件のみを簡潔に書かれたソレ。送り主は言わずもがな、虎口先輩だ。
「ごめんな恵。ちょっと用事が出来ちゃったから、帰ってきてから――」
「やだやだやだ! めぐも行く! めぐも行くー!」
服の端をしっかりと掴み、駄々をこねる恵。もうこうなると選択肢は無いに等しい。
「大丈夫だと思いますよっ! メグちゃんも一緒で!」
「そっかな……。それじゃ、連れて行くけどいい子にしてるんだよ」
「うん! めぐいい子にする!」
無邪気に小さな手を上げる恵。彼女の可愛らしい仕草は、全ての罪を飲み込んでしまうだろう。
――幼女恐るべし。
――虎口道場――
約束の時間。少し早めに着いたにも関わらず、既に皆が集まっていた。
「おはよう。おや、恵ちゃんも一緒か」
「はい。どうしても来るってきかなくて……」
「修司さんの妹さん――かしら?」
「あ、いえ。親戚です。わけあってしばらく家で預かる事になったんですよ」
しばらくなのかずっとなのかは未定だけど。
「そうなんですか。可愛らしい子ですね」
「お姉ちゃんもかわいいよ! お姫様みたい!」
「まぁ。お姫様だなんて……」
恵のお世辞? に頬を赤くする龍ヶ崎さん。ファーストコンタクトでこれほどまでに人の心をつかむとは――この幼女、できるな。
「よし、では本題に入るとするか――」
口を開いた虎口先輩の視線が一瞬僕の方へ。
だけど、それは僕じゃない。先輩が見たのは、膝に乗った恵。
話の内容は大体想像できる。『鬼』の件で間違いないだろう。
恵に聞かせてもいいものだろうか。一旦外に出て、後から改めて聞いた方が――。
「昨日、いつものようにパトロールをしていたんだが、どうやら鬼の数が増えているようだ」
僕の心配をよそに、先輩は話し出した。
まぁ、子供が聞いても良くわからないか。
「増えているって、どの程度ですの?」
「旅行に出る前の倍だ」
「なんですって!?」
先輩の言葉に、龍ヶ崎さんが驚いた声を上げる。元々どれだけ居たのかは分からないが、それは余りにも衝撃的な事実だった。
「お陰で寝不足よぉ……。ほら、見て修ちゃんこのクマ……」
「おっ、おばけいやっ!」
髪をかきあげた蘭さんの顔に恵が怯える。流石に慣れないと視覚的にキツイ。
ってかそのクマ、標準装備じゃないのか……。
「どうして――って聞いて分かるはずもありませんよね。私達が町を離れた事に何か関係はあるのかしら」
「どうだろうな……。まるで無関係だとは思わんが、何か別な理由があるように思えるんだ」
先輩が眉間にシワを寄せながら言った。
分からない事は山ほどある。いや、今の僕達には分からない事だらけだ。
「何か手がかりが見つかればええんやけどなぁ――古い本とかでも」
両手を大きく広げ、パタリと寝転んだ茜が呟く。その時だった。
「ふるい本なら、としょかんだよ!」
そう声を上げたのは、まさかの恵。予想外のカットインに、皆の視線が集まる。
「図書館ですか――そういえば思いつきませんでしたわ」
「せやな。家ばっか探しとったけど、図書館に行けば古い本もあるんちゃうか。めぐっちはおりこうさんやなぁ~」
茜に頭を撫でられて嬉しそうに微笑む。ってかめぐっちって……。
「あまり大きくは無いが、町にも図書館がある。早速行ってみようか」
先輩の一言で皆が立ち上がった。
「にぃに! としょかん行ったら絵本読んでね!」
「お、いいよ。一緒に読もうか」
小さな手を繋ぎ歩き出す。
無邪気な恵の微笑みは、新たな不安の種をも吹き飛ばしてしまう気がした。




