ブーメランパンツとマイクロビキニ
窓から差し込む朝日が、爽やかな朝を告げる。
大きく伸びをして窓の外を覗くと、昨日の天気が嘘の様な快晴。
「修司さん、起きてますか?」
「あ、はい」
扉を伝わるノックに返事を返すと、龍ヶ崎さんがドアを開けた。
「おはようございます。朝食をご用意しましたので、準備が出来たら食堂へどうぞ」
「おはようございます。じゃあすぐに向かいますね」
顔を洗って歯を磨き、清々しい気持ちで部屋を飛び出す。
――水着回だ!
ほころぶ顔を抑えつつ、食堂へと向かった。
食堂に着くと、既に集まっていた皆と挨拶を交わし席につく。と思いきや、中谷さんと蘭さんの姿がない。
「あれ? 中谷さんと蘭さんはまだですか?」
「おはようございます……」
「わっ!? あ、お、おはようございま――」
いつの間にか背後にいた蘭さんに驚くと同時に、彼女の服装にもまた驚いた。
白と黒の清潔感漂うメイド服。初めて見た時の幽霊の様な外見はどこへやら。
綺麗に整えられた髪と少し病的な青白い肌のコントラストは薄幸の美女。
目の下のクマと、不気味なニヤつきがなければ、だけど……。
「皆さんにご迷惑をおかけしましたので……。精一杯お世話をさせていただきます……」
ナイフとフォークを並べながら、呟く様に言った。
「そ、そうなんですか……」
どうも不安でたまらない。彼女がナイフを持つその姿は、完全にホラー映画のそれだった。
「お待たせしましたっ!」
元気良くキッチンから出てきたのは、コック帽――ではなく、自分の身長の半分はあろうコック帽を被った中谷さんだった。
テーブルに並べられた『マトモ』な料理の数々に安堵のため息が漏れる。
割愛したが、昨日の夕食を作ったのも龍虎コンビ。
僕達は、実に一日ぶりの料理らしい料理に舌鼓を打った。
「よし! ほなそろそろ海にいこか! 昨日の分まで泳ぐで~!」
リビングで一息ついていると、茜が飛び跳ねる様に言った。
「そうだな。では各自着替えてあの扉の前に集合だ!」
やっと見れる! 彼女達の水着姿!
逸る気持ちを抑え、僕も着替えるため部屋に向かった――が。
「なんだよこれ……」
僕のバッグから出てきたのは、ブーメランハンツと呼ばれる、選ばれし者のみが着用を許されるゴールドの競泳用水着だった。何かの間違いだろうとバッグを漁るが、やはり他にはない。
こんなモノを持っていた覚えも、入れた覚えもない。僕が入れたのは不通のトランクスタイプの――。
やられた……。
こんな事をするのは母しかしない。どうして気がつかなかったんだ、あの悪魔が大人しくしているはずは無いって事を。
とりあえず履いてはみたが、これは余りにもきわどすぎる。
己を主張するかのような存在感を持つ膨らみ。昨日の事もあるし、これ以上生き恥を晒したくはない。
『修ちゃんまだか~。もう皆待っとるで~!』
館内放送から流れる茜の声に覚悟を決めた僕は、バスタオルを腰に巻いて部屋を出た。
「もう、遅いで!」
「あ、ごめんごめ――」
まさに、そこはパラダイスだった。
余り色気を感じさせない、赤いスポーツタイプの水着が茜の健康的な肌に映える。
「早く行きましょうっ!」
フリルのついたワンピースタイプのピンク色は、中谷さんの発展途上のボディーを優しく包み込むっ!
その隣で恥ずかしそうにこちらを見るのは、こんがり焼けた肌に挑発的なブラックビキニを着こなす狗飼さん! たわわなバストは他の追従を許さない!
「それじゃあ行きましょうか」
水を図案化したと言われる青海波模様のビキニは、龍ヶ崎さんの全身から溢れる和の雰囲気をさらに引き立たせる! クールジャパン! アジアンビューティー!
「あれ? 虎口先輩の姿が見えないけど、それと、蘭さんは行かないの?」
先輩がいない。そして、僕達を見送るように立ち尽くす蘭さん。
「ああ、先輩は着替えに手間どっとるんちゃうか?」
不適な笑みを浮かべながら茜が言った。どうやら何か知っているらしい。
「私は……水着がないのよ……」
元々暗い雰囲気が漂う蘭さんが、それに輪をかけたトーンで呟いた。それも残念な気もするが、男なら最悪パンツ一丁でも――とか言えるんだろうが。
その時、顔を真っ赤にした先輩が飛び込んできた。
「こっ、こんなモノ着れるはずがないだろう!?」
先輩の手に握られていたのは、かろうじて水着と認識出来る紐。大事な部分だけピンポイントで隠れればいいかってなマイクロビキニだった。
「そんなん麻雀で負けた先輩が悪いんやで。なんでも罰ゲームするって言うたやんか。一片くらい着てみせな罰ゲームにならへんで」
小悪魔的な笑みを浮かべ茜が言った。そういえばバスの中でそんな事言ってたような。
勝負は勝負。こればっかりは先輩に非があるのだろう。中谷さんも珍しく茜に同意している。
「なっ、何も着ずに言っているわけではない! 着てみたのだが…その――だな」
恥ずかしそうに俯いた。声が小さくて、何かを言ったが聞こえない。
「なんやて? 着たけどどうやったん?」
「だから! はみ出てしまったんだよ!」
その言葉に全員が固まる。先輩は地面にソレを投げつけると、逃げるように走っていった。
「そ、そりゃあしゃあないな……」
「そ、そうですわね……」
気まずさが辺りを包む中、無残にも地面に叩きつけられた水着を蘭さんが拾った。
「あの……これ借りてもいいかしら……?」
「えっ? いや……ええけど……。話聞いてたやろ?」
「綺麗にしてあるから……ツルツルなのよ……エヘヘ……」
ツルツル!? ツルツル!? ああやめろ! 僕の妄想をかきたてるな!
「そ、そうなんや……。ってか修ちゃんは何でタオルまいてんねん!」
絡み辛い蘭さんから逃げるように、茜が僕のタオルにターゲットを定めた。
「えっ!? あ、いや。タオル使うじゃないか! 濡れた身体拭くのにさ!」
「まぁそうですけど、わざわざ今腰に巻く必要はありませんよね?」
「ん……そう……かな……? いや、そういう時があってもいいと思うんですよね……ハハハ……」
自分でも訳の分からない言い訳に、茜が不適な笑みを浮かべる。
「な~んか怪しいなぁ~。ゆりっぺ! 修ちゃんのタオルを取るんや!」
「はいですっ!」
返事もそこそこに中谷さんの手が伸びる。抵抗する暇も無く剥ぎ取られたタオルが宙を舞い、皆の視線は、卑猥さをもかもし出す、僕の股間に注がれた。
「しゅ、修ちゃんえらいモン履くんやな……」
「……意外と大胆なんですね……」
「いい……いいわぁ……」
皆の視線が痛い。完全におかしい人だと思われただろう。
手で顔を隠す中谷さん、蘭さんにいたっては涎を垂らすほど驚いている――のか?
「ほ、ほないこか……」
「そうですわね……」
「れ、レッツゴーですっ!」
「私も着替えて来るわ……」
蜘蛛の子を散らすようにように彼女達が去っていく。
ってか蘭さん、本当にソレに着替えるのかよ……。
一人寂しく、ため息混じりに階段を降りる。
もう見られたんだ、いっその事開き直ってしまった方が楽。そうだ、別にどうって事はないんだ――。
「お。皆はもう行ってしまったのか」
「あ、そうで――すね――」
振り返った先、先輩の水着姿に目を奪われた。
柄一つ無い純白のビキニ。全てが均等の取れた彼女の肉体美の前には、余計な小細工は必要ない。
階段を下りてくるその姿は、天界から舞い降りる天使にさえ見えた。
「へ、変じゃないだろうか。余りゴテゴテしたのは嫌いだからな……」
「いっ、いえ! とっても似合ってると思います!」
「そ、そうか! 良かった――」
少し照れくさそうに、先輩の顔がパッと明るくなる。
「よし! では存分に楽しむとしよう!」
駆け足で降りていく先輩に見蕩れながら、僕はそっと腰にタオルを巻いた。




