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干支っ娘!  作者: kure
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雨降って地固まる

「さぁ、全て説明して貰おうか。まずは名前を聞かせてもらおう」

 先輩が険しい顔で女に言った。

 部屋に集まった全員の顔を見て安心する。皆無事だったんだ。

 だが、何故か僕の身体はまだ動かないまま。さっきは動いていたはずなのに。

 仕方なくベッドから観戦する。

「私は蛇香蘭じゃこうらん……」

「蛇香……蘭だって!?」

 先輩が驚いた顔をした。

「貴女、ご存知ですの?」

「ご存知も何も、私達の一つ上で、時雨高校の卒業生だ。確か情報処理科の優等生で、卒業後は海外の有名大学か大手IT企業かと言われていた程だぞ。お前も名前くらいは聞いた事があるだろう?」

「ああ、そういえばそんな人が居た様な気もしますが。生憎自分以外にあまり興味はありませんの」

 さらりと言い放つ龍ヶ崎さん。余程自分に自信がないと言えない台詞だ。


「卒業してから、私は大学に行かずに就職したのよ……でも、余り上手くいかなかった。いくら腕が良くても、人付き合いが苦手な私は直ぐに浮いてしまったわ。対人関係に嫌気が差した私は、直ぐに辞めてしまったの……。それからは人目を避けるように、パソコンの明かりだけが照らす暗い部屋で、ほぼ毎日暮らしていたわ」

 期待されていた人間の挫折。それは味わった者にしか分からない苦しみなんだろう。

 彼女の表情から、ソレが痛いほど感じられた。


「このままじゃいけない。そう思った私は、趣味だった爬虫類の生態研究をしに外に出た……その時、たまたま彼を見つけたの。彼は落ちてきた蛇に驚くどころか、優しく扱ってあげた。その姿に私の心は奪われたの! この人しかいないって!」

 淡々と話していた彼女のトーンが上がる。

 爬虫類の生態研究って……何かその趣味怖い。

「それからは彼をずっと見ていたわ。そしたら周りは女だらけ! しかもあの虎口蓮と、龍ヶ崎様だけでは物足りずこんな幼い子供まで! これは私が正してあげなければいけないの! 私を見てほしいのおおおおおおお――」

 興奮した彼女に、茜がオーラをぶつけた。

 これは中々便利な能力だと思う。


「頼むから興奮せんといてや。何やおかしい薬でもやっとるんちゃうか?」

「……薬なんてやってないわよぉ。でも、何だかそれに似た症状が出る様になったのよねぇ……少し前からどうも不安定で……」

 その言葉に、皆が顔を見合わせる。

 多分、それは力に目覚めたから――誰もがそう確信した。


「自分の力には気付いているだろ?」

「ええ……私は神様の声を聞いたの! そして不思議な力が宿った……。私の唾液には蛇毒にも似た成分が含まれる。ソレをどれくらい分泌すればどうなるのか、全て把握済よ……」

「それで私達はやられたのですね……。不意打ちとはいえ、完全に気配を消せるのも凄いですけど。でも、どうやってここまできたのかしら?」

「バスのトランクに……前の日から乗り込んでいたのよぉ……」

 ニヤリと笑った彼女に、皆の表情が引きつる。


「まっ、まさか蓮ちゃんの感じていたストーカーさんって!」

「ああ、多分な。ずっと私達をつけていたんだろう」

 まさかのストーカー対象は僕。怖い、マジ怖い。

「もしかして……皆も十二支枝なの……?」

「ああ。そしてお前が襲おうとしていたのが主だ」

 先輩の言葉に、彼女が首をぐるりと回転させて僕を見た。

 完全にホラー。常人の駆動領域を遥かに超えている。


「修くんが……? 主なの……? えへ……えへへ……」

 不適な笑みを浮かべ、僕に向かって立ち上がった彼女に、茜がまたも日光を使った。

「はぁ、ホンマ疲れるわ」

「あっ、貴女その手っ!?」

 龍ヶ崎さんが気付く。茜の拳骨は皮が向けてボロボロ。薄っすらと骨さえも見える両手は、真っ赤に腫れ上がっていた。

「あ……すまん龍ちゃん! 下の扉壊してもた! 閉じ込められてどうやっても開かんくて……つい……」

 茜が申し訳無さそうに両手を合わせる。


「下の扉……? 貴女もしかして地下に通じるあの扉を素手で壊したって言うんですの!?」

「本当か!? とても素手で壊せる様なモノじゃなかったと思うんだが」

「あれは外に繋がっている分、この屋敷でも一番頑丈に作ってありますからね。ロケットランチャーの衝撃にも耐える海外製の特注品なんですのよ」

 茜のパンチはロケットランチャー以上って事か……。十二支枝怖すぎるだろ……。


 その時、狗飼さんが茜の両手を持ち上げ、傷口にそっと口づけた。

「あ、アンタ……何で……?」

 狗飼さんが無言で茜の拳を舐めると、傷は見る見る内に癒えていった。

「アタシは……仲良くしたいんだよ……」

「そんなん……ずるいやん……。ウチ……馬鹿みたいやないかぁ……」

 健気な狗飼さんの行動に、茜の瞳から溢れたのは贖罪の涙。

 わだかまりを吹き飛ばすように、雲の隙間から覗く光が、部屋に差し込んだ。



「ふぁっ!?」

 ホッと安心したのもつかの間。ベッドに横たわる僕の上に、再び蘭さんの姿があった。

 見えていないはずなのに!?

「いつの間に!? 早く引き離せ!」

 彼女達の活躍により、またも僕の貞操は守られた。だが、悪夢はまだ終わっていない。


「しゅ、修司さん……それ……」

 恥ずかしそうに顔を背けながら僕を指差す。正確には、僕のそそり立った股間を――。

「ち、違うんですよ! これは何だか勝手に!」

 一同の視線が冷たい。こんな状況にそぐわない僕を軽蔑しているのだろう。だが、断じて僕は興奮などしていない。


「……アレもお前の力か?」

 流石先輩! 冷静な判断力! 頼もしい!

「えへ……へ……。だって……全身麻痺させちゃったらダメじゃない? だから、ちょっとだけ毒の配合を変えるのよ」

「精力剤の効果もあるという事か。ふむ……その力、上手く使えば役に立ちそうだな」

「それに……筋肉を痙攣させる毒を仕込めば――」

 蘭さんが不適な笑みを浮かべた瞬間、僕の腰が激しく動き始めた。

「えええええええええええ!? 何!? 何これ!?」

 まるで陸に打ち上げられた魚の様に、激しく腰が動く。

 どう見ても変態です。ありがとうございました。


「お、おい! 大丈夫なのか!? 茜! 彼を押さえるんだ!」

「えっ!? う、ウチはちょっと……。りゅ、龍ちゃん頼むわ!」

「ええっ!? わ、私がそんな破廉恥な事……」

 彼女達が困惑した表情で慌てている。

 そりゃそうだ。誰がこんな変態に近づきたいと思うのだろう。

 まさに生き恥である。いっその事殺してくれ。


「えいっ!」

 そんな中、僕を押さえつけたのは中谷さんだった。その手には、しっかりと僕のソレが握られている。

「はうっ!? ちょ、それはマズイ! それはマズイよ!」

「ええっ!? わっ!? はわわわっ!?」

 止まらない腰。離れない中谷さんの手。そして痺れる程の快感。

――マジ、殺してくれ。

 僕は、大切な何かを失った気がした。



「はぁ……さんざんな目にあったな……」

 大浴場で一人、僕はお風呂に浸かっていた。

 さっきまでの嵐が嘘の様に、ガラス張りの窓から見える海は穏やかで、夕日が海面を鮮やかに染めあげるその美しさは、傷ついた僕の心を癒す。


「お疲れ。大変だったな」

「こっ、虎口先輩!?」

 突然背後から欠けられた声に驚く。

 幸いなのは僕が浴槽に浸かっていたのと、先輩が着衣だった事。

「どっ、どうかしたんですか!?」

「いや、あんな事があったばかりだからな。警護だよ。念には念を入れておかねばなるまい」

 言っている事は理解出来なくもないのだが、そこまでする必要があるのか少し疑問に思う。


「まだ頭は洗っていないんだな。とっ、特別に私が洗ってやろう!」

「ええっ!? そ、そんな悪いですよ! 自分で洗えます!」

 僕の言葉に、何故か先輩は不機嫌そうな表情を浮かべた。

「龍ヶ崎にはさせて、私にはさせてもらえないのか?」

「えっ!? いや……そういうわけではないんですが……」

 何で知ってるんだ!? 怖いよ! 怖すぎるよ!

「じゃ、じゃあお願いします……」


「そういえば、彼女はどうなりました?」

「ああ。十二支枝の説明をしたらすぐに理解していたよ。しかし、ストーカー被害にあっていたのは君の方だったとはな」

 頭皮を優しくこする指先が震えている。目を瞑っていて分からないが、愉快そうに笑う先輩の表情は想像できた。


「いや、まさか僕もそんな事があるなんて夢にも思いませんでしたよ。でも、蘭さん――でしたっけ? どうやって中に入ったんです? 鍵は全部閉まっていたみたいですし、僕がいた部屋には窓も無かったんですよ?」

「君も見ただろ? 外に繋がる鉄柵の扉を。どうやらあそこから侵入したらしいな。なんでも身体の関節を自由に外せるらしい。頭が入ればどこでも潜り込めるそうだ」

 びっくり人間かよ……。まさに蛇だな。


「これで六人――やっと半分集まったが、毎回こうだと身体がもたんな」

 至福の時もそろそろ終盤。シャワーで洗い流しながら先輩が言った。

「ハハ。そう――ですね……」

 その時、先輩の言葉が何か引っかかった。

「よし、終わりだ。ん? どうかしたか?」

「あ、いえ。わざわざありがとうございました」

「いや、いいんだよ。では、のぼせる前に出るんだぞ」

 どこか満足気に、先輩が立ち去る。

――やっと半分。

 その言葉が、僕の中で引っかかった。

 どこかで聞いた事のあるような――。

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