第六の干支 襲来
目が覚めると、そこはベッドの上だった。多分誰かが僕を運んだんだろう。
って事は皆無事だったのか? その前に、どうして倒れたんだっけ――。
起き上がろうとしたが、思うように身体が動かない。筋肉痛にも似た、筋肉が強張っている感覚が全身に広がっている。
「目を覚ましたね……」
「うああああああ!?」
耳元で聞こえた声に顔を向ける。そこに居た人物に、思わず情けない声を上げた。
そこに居たのは、白い布切れを纏った知らない女性。
顔が隠れる程長い黒髪は水に濡れていて、不気味にニヤけた口元だけが見えている。
「お、お、驚かないでもいいのよ……えへ……えへへ……」
「だっ、誰だよ!? 皆をどうしたんだ!?」
「皆……? ちょっと眠ってもらっているだけよぉ……えへ……えへへへへへへへへ……」
ヤバイ。こいつはヤバイ。完全にイカレてる。
全身が逃げろと告げているが、やはり身体は動かなかった。
「か、彼女達は無事なんですね? 貴方は何が目的なんですか?」
なるべく刺激しないように優しく問いかける。すると、彼女の身体を包んでいた布がハラリと落ちた。
「ふぁっ!?」
布の下から、一糸纏わぬ裸体が姿を現す。
病的なまでに青白い肌、浮き出たアバラ。でも、山頂は薄っすら桜色に――。
「何してるんですか!? 意味わかんない! 意味わかんない!」
必死に目を逸らす。状況に思考が追いつかない。
何!? 何が何でどうなってるの!?
「目的はアナタよ……。さぁ大丈夫……えへへ……すぐ……終わるから……」
腹部に走る感触に目を開けると、女は僕のベルトを外し――下を脱がせた!?
「なっ!? 何でっ!? 何で脱がすの!? ってか何これ!?」
パンツ一枚にされた事よりも、こんな状況にもかかわらず、立派なテントを立てていた僕自身に驚いた。
いくら裸の女性を目の前にしてるとはいえ、余りにも不自然すぎる反応。
拘束されてるわけでもないのに動かない身体も、何らかの手が加えられているのは明らかだ。
「既成事実を作るのよ……えへへ……えへへへへ……」
あ、死んだ。これ死んだ。僕の貞操は、今終焉を迎えるんだ――。
「修ちゃん!」
物凄い衝撃音と共に扉が開いた。
「茜!? たっ、助けて!」
中に飛び込んで来たのは茜。状況を察知した茜が、一目散に向かって来る。
「なにしとんじゃワレェ!」
「チッ」
軽く舌打ちをすると、女は全身の力を抜くように、両手をだらりと下げた。
そして、飛び掛ってきた茜の攻撃をのけぞって交わす。
のけぞる、という表現が正しいのか不安になるほど。
その動きは、軟体生物の様に柔らかく、僕の眼前には、ぐにゃりと身体を曲げた彼女の顔があった。
「ちょっと待っててねぇ……。すぐ終わらせるからぁ……あは…あははは…」
見開いた目は血走っていて、焦点が合っていない。まさに狂人だ。
「アタシと修くんの邪魔しないでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
髪を振り乱して叫んだ女の身体から、禍々しい紫のオーラが噴き出す。
オーラは大蛇の形になり、女の身体に絡みついた。
「なっ……!? こいつ……十二支枝かいな……」
驚いたのは僕だけではない。茜もまた、彼女のオーラに驚いていた。
「茜! なるべく傷つけないように頼む!」
「……しゃーないなぁ。ほな――」
茜は一瞬で女の懐に入ると、手に集中させた自分のオーラをぶつける。
ソレは、茜の特殊攻撃――。
「――日光か!」
「だから日光ちゃう!」
闇に包まれた女は、ふらふらと何かを探すように彷徨っている――もちろん全裸で。
「これ……どないする?」
「どうしよう……。ってか余り凝視出来ないんだよね流石に……」
やっぱりチラチラと目に入ってしまう。大事な部分は脳内フィルターが作動しているが。
「……くん。ジュ……ウグン……。ドゴ……」
そんな中、呻くように彼女が声を出した。
「な……? そんな! 喋れるわけあらへん!」
「シュウグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
無理矢理声を上げた彼女の口から、真っ赤な血液が飛び出した。
「あ、あかん! このままじゃ喉が潰れてまうで! ど、どないすればええ!?」
思うより先に、自然と僕の身体はベッドから出ていた。
そしてそのまま、錯乱した彼女を抱きしめる。
「僕はここにいるよ。何処にも行かない。だから安心して」
「ああ……修くん……ごめんね……ごめんねぇ……」
腕の中で涙を流す彼女には、もう狂気の欠片もない。
安心した反面、自分のとった行動が、どこか他人の様な違和感を覚えていた。




