別荘殺人事件? 2
高速をひた走る事二時間弱。自然溢れる森林に周りを囲まれた岬、高級別荘の下にはプライベートビーチ。それが本日の目的地、水面岬。
だが、到着した僕達の目の前に広がる光景に、誰もが言葉を失った。
「これ……あかんやつやん……」
降り注ぐ豪雨。暴風は侵入者を威嚇するように木々を揺らす。
まだ昼前だと言うのに空は暗く、海は荒れ狂い、遠くで雷が落ちた。
「と、とりあえず屋敷にまいりましょう。天気なんて、直ぐに回復しますわ!」
バスから降りるのも躊躇してしまう程の天候に、顔をひきつらせた龍ヶ崎さんが声を上げる。
窓から見える立派な洋館は、ホラー映画に登場しそうな雰囲気に成っている。天気が良ければさぞ綺麗なんだろうが。
「そうだな……。よし! トランクを開けてくれ。さっさと移動してしまおう!」
飛び出した運転手の後を追う様に、僕達もバスを出て、バケツリレー式に荷物を運んだ。
「これで全部か? じゃあ帰りはまた電話するから、気をつけて帰ってくれ」
運転手にお礼を言って、バスが戻っていった。
龍ヶ崎さんが入り口の扉を開けようとした瞬間、眩い光と共に、轟音が鳴り響く。
「おお……。今のは近かったな――百合子どうした? びっくりしたか?」
「いっ、今! 人がっ! 人が居ましたっ!」
一人だけ扉とは逆方向を向き、怯えた表情で何かを指差す。だが、その方向には誰も居ない。
「誰もおらんで? ってかおるわけないやん」
「あ……うん……。そ、そうですよねっ。見間違いでしたっ」
扉が開き、僕達は逃げるように中へと入った。
「それにしても、全然収まる気配がないですね」
濡れた髪を乾かし、窓を覗く。外は変わらず、台風と見間違える程の荒れ様だ。
「予報がこんなにも外れるなんて、珍しい事もあるものですわね。全く、誰の所為かしら?」
龍ヶ崎さんが横目でチラリと先輩を見た。
「何だその目は、雨女なら、どちらかと言えばお前の方だろう?」
「せやな。龍ちゃんの方がそれっぽいわ。青いし」
「茜はお帰りの様ですね。残念ですわ」
「じょ、冗談やん! そんな事言わんといてや~」
皆の笑い声が響く。
外は生憎の天気だったが、そんな事を忘れてしまう位。
彼女達といると、心の底から笑える気がした。
「それにしても、ごっつい別荘やなぁ~。ちょっと見てきてもええ?」
茜が周りを見渡しながら言った。
豪華な装飾が施された室内。僕達がいるリビングから続く廊下は、まるで学校みたいだ。一体いくつ部屋があるんだろう。
「ええ、構いませんよ。どうぞご覧になって下さい」
「よし! ほな探検や!」
「あっ、私もお供しますっ!」
茜の後を追う様に、中谷さんが駆け出していく。
中谷さんが一緒なら安心だろう。茜一人じゃ、何か問題を起こしそうな気がしてならない。
「では、私は昼食の支度でもいたしますわ。適当にくつろいでいて下さい」
軽く会釈をして、龍ヶ崎さんがリビングを出る。
「私も手伝ってやるか。変なモノを出されてはたまらないからな」
そう言って立ち上がった先輩の後姿に、心が和む。
この二人、出会った頃よりずっと仲良くなっている気がした。
「アタシも手伝った方いいかな……?」
リビングに残った狗飼さんが、少し困惑した顔で訪ねる。
「う~ん。別にいいんじゃないかな?」
「そ、そっかな。じゃ、じゃあさ! アタシ達も見に行かない? 一人で行くのはちょっとアレだから……」
特にする事もないし、正直僕も気になっていた。
「そうだね。じゃあ行こうか」
「これは……凄いな……」
館の中を探索すると、その豪華さに言葉を失った。
所々に飾られた絵画、割って下さいと言わんばかりの高そうな壷。何に使うのか分からない甲冑まで。これは使ってたら流石に怖いか。
「アタシ、何だか落ち着かないな。居心地が悪いって訳じゃなくて、住む世界が違うって言うか」
「僕も同じだよ。庶民にはちょっと敷居が高いよね」
隅々まで手入れされた、チリ一つ無い館内。まるで美術館にでもいるような感覚を覚える。
「でも、やっぱり一人で来なくて良かった。何か無くなったりしたらアタシが疑われそうだし」
そう言って、彼女は卑下するような笑みを浮かべた。
「そんな事無いよ。狗飼さんはそんな事する人じゃないし、友達を疑うほど、僕達は薄情じゃないさ」
「そ、そうかな……。そう言って貰えると嬉しい……よ」
はにかんだ狗飼さんにドキッとする。黒ギャルの照れ顔、破壊力ありすぎだろ。
「あ、あのさっ! タメなんだから、さん付けは止めないかな……?」
「えっ? あ、うん。じゃ、じゃあ次からは気をつけるよ」
どうしてだろう、改めて言われると気恥ずかしい。
照れを隠すように、再び歩き出した。
赤い絨毯が敷かれた大階段を上がり二階へ。
長い廊下に等間隔で立ち並ぶ部屋は客室だろうか。一体この建物、部屋数はどれくらいあるのだろう。
「きゃっ!」
突然窓の外で鳴り響く轟音に、狗飼さんが僕の腕を掴む。その行為は、雷よりも僕の心臓を揺さぶった。
「あっ、ごめん……」
「い、いや。大丈夫だよ。そ、それにしても全然止む気配が無いね」
パッと離れた手の感触に若干の侘しさを感じつつ外を眺める。
一向に回復する気配のない天候。一抹の不安さえ覚えた。
「何だかあの小説みたい」
ふと窓の外を見つめ、狗改さんが呟いた。
「バスで読んでたやつ?」
「うんうん。嵐で孤島の洋館に閉じ込められた人達が、次々と殺されていく話。何となく似てると思わない?」
少しだけ楽しそうな顔から察するに、ミステリー好きであろう彼女に、この状況は中々好奇心をくすぐるモノなのだろう。
「そうかもね。もし殺人事件があったら、真っ先に殺されそうなのは僕だけど」
まぁ殺人事件など起こるわけがない。
僕達の間に怨恨もないし、彼女達はそれぞれ力を持っているから、そう易々とやられはしない。
だけど、外で鳴り響く稲光は、何か不吉な事の起こる前触れの様な気がした。
しばらく館内を散策していると、何かに見入っている茜と中谷さんを見つけた。
二人の目の前には、ヴィーナスを模した、いかにも高級そうな石像。
「これは凄い石像だね。胸のとこについてるのは宝石かな?」
胸の部分に埋め込まれた青い大きな石。その輝きは、吸い込まれそうな魔力を有している。
「それはサファイアですわ」
背後から龍ヶ崎さんが声をかける。
「へぇ|~。ウチ初めて見たわ。高いん?」
「三百万くらいだったかしら?」
さらりと言った龍ヶ崎さんに、皆の顔色が変わる。
「へ、へぇ……。三百万かぁ……」
この宝石が、後々の事件の引き金に成る事を、僕達はまだ知らなかった。
龍ヶ崎さんに促され食堂の中に入ると、想像通りと言うかなんというか……テーブルが長い!
スケールが違いすぎて、何だか緊張してしまう。
テーブルにつき、しばらくすると二人が料理を運んできた。先輩と龍ヶ崎さんの共同作業で作った料理。一体どんな料理なのか――。
「これ……なんなん……?」
テーブルに置かれたモノを見て茜が言った。
そう思ったのは彼女だけではない。僕も、中谷さんも、狗飼さんも、皆そう思ったはずだ。
「オムライスだ」「オムライスですわ」
自慢げに声を揃えた二人だったが、どうみてもソレはオムライスなどではなかった。
赤いチャーハンにしか見えない物体と、スクランブルエッグの乗ったチキンライス。
ソレは、僕達の前に何故か二皿づつ置かれた。
先輩の前には赤いチャーハン。龍ヶ崎さんの前にはチキンライスのスクランブルエッグのせ。テーブルの上に置かれた料理の配置で全てを理解する。
この二人、個々で別々の物を作ったんだ。
「さぁ遠慮せず食べてくれ。そのぐちゃぐちゃなオムライスは食べなくてもいいぞ」
「どうぞ召し上がれ。そちらの犬の餌みたいなオムライスは処分しますわよ」
この二人……やはり――。
『い、いただきます……』
昼食を終え、僕達はリビングでダラダラとしていた。
「なぁなぁゆりっぺ。先輩の料理っていつもああなん?」
小声で茜が中谷さんに尋ねる。
「うん……。蓮ちゃん、料理だけは苦手みたいなんです……」
苦笑いで中谷さんが答えた。料理を見た時も余り動揺していなかったし、彼女にとっては見慣れたモノだったのだろう。
だけど、悪くない。全てを兼ね備えた様な彼女達の意外な欠点。正直萌えた。
「修司さん。もしよろしければ、お部屋で少しお休みになられますか?」
半分うとうとしていた僕に、龍ヶ崎さんが声をかけた。
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
「この天気じゃ生憎何も出来そうにありませんし、とりあえず皆さん、お部屋にご案内いたしますわ」
相変わらず外は豪雨。僕達はとりあえず部屋へと向かった。
残念なのか、安心なのか。皆それぞれ別々の部屋が与えられた。
高級ホテルにひけをとらないフカフカのベッドは、身体が埋もれてしまうんじゃないかと思う程。ここなら一生寝ていられそうな気がする。
そして案の定、僕の意識はゆっくりと薄れていった。




